第10話 貫通力のある恋心

ある朝、傭兵を生業とするジークは浮かない顔で身支度をしていた。


「おい相棒、今日はあのエルフの美人と出かけるんだろ?どうした、冴えない顔して」


「いや…あんな美人とデートなんて普段なら喜ぶところなんだけどな…」


エルフの娘が誘拐されたから応援に向かって欲しいとキリノから言われ、向かった先で出会ったとびきり美人のエルフ。


名前はシエル、キラキラと輝く金髪に整った顔立ち、どこかのお姫様のような…そんな印象を受けた。


誘拐事件の方はひと足先に弟が解決しており、色々あって俺が町まで送る事になったのだが…。


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「ジーク様!もう少しゆっくり参りましょう!」


「いや…今でもかなりゆっくりだが…日が暮れてしまうぞ?」


「日が暮れたら野宿をすることにしましょう。二人きりの熱い夜…ふふ、胸が高鳴ってしまいますね」


「俺もいるぞ?」


「そうでしたわね、それならウルさんは先に帰って毛布と枕、それに…ジーク様、あと何が必要かしら?」


「いや…野宿は危険だ…大人しく帰ろう…」


「そうですか…もっとお話したいのですが…。そうだわ!明日の朝から一緒にお出かけしましょう。それなら野宿をする必要がありませんわ。楽しみですわね、ジーク様!」


腕を絡ませ眩しいくらいの笑顔のシエル…なんというかその…苦手かも知れん…。


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「まあいつも通り行ってこいよ、俺はここで待ってるから」


「まあ多少の危険なら俺一人でなんとでもなるが…まあそうだな。ある程度満足して貰ったら帰ってこよう」


「相棒、なんでそんなに乗り気じゃないんだ?」


「いやなぁ…見た目も良いし悪い娘じゃないのは分かるんだが…なんというかその…高嶺の花というか…浮世離れしているというか…」


「まああんなタイプはそうそういないもんな。まぁ、頑張れ」


ウルからの謎の声援を受けて俺は家を出る。


待ち合わせは中央広場だったな、少し早く着いてしまうが、まあ向こうも早めに来るだろう。


「あら、ジーク様!ごきげんよう!」


中央広場はずっと先だが…なぜここにシエルがいるのだろうか…。


「太陽が気持ちよかったのでこちらの方に来て正解でしたわ。さぁジーク様、どこへ向かいますか?そうですわ。私ジーク様が戦っているところが見たいです」


このペースが乱れる感じ、マイペースの波に飲み込まれるこの感じが苦手なのかも知れないな…。

そしてなんというか、断れない雰囲気を醸し出すんだ。


この娘が断って悲しむ顔を見たく無い、そんな感情が湧き上がってしまうんだ。


「戦うところと言われてもな…まさか魔獣の討伐には行けないし、訓練場ならどうだ?」


「訓練場ですか?それは素敵ですわね。では参りましょう。手を繋いで参りましょう」


柔らかく、色白の細い指を俺の手に絡ませて上機嫌のシエル。まぁ…悪い気分では無いな。


訓練場に到着するまでの道中、シエルは終始楽しそうに語りかけてくる。

綺麗な碧眼で俺を真っ直ぐに見つめ、あそこのお菓子が美味しいとか、あそこの服はジーク様に似合いますとか、そんなたわいもない話だった。


そんな会話も少し楽しいと感じてしまう。周りを巻き込んで幸せな気分にさせる。そんな感じだろうか。


「ジーク様!あそこですか?訓練場というのは」


「そうだな、別に楽しい場所でもないぞ?」


自動修復の魔術が刻まれている木偶人形が数体あるだけの訓練場、無いよりはマシな程度だが…たまにアスフォードと一緒に来て模擬戦なんかもやるんだ。


「見せて下さいませ、ジーク様の勇敢な姿!」


そうキラキラとした目で見られると…少し格好良いところを見せたくなるじゃないか。

俺は訓練用の木剣を手に取り、木偶人形に歩み寄る。


そしてその横を通り過ぎ…次の瞬間地面ごと木偶人形は消し飛んだ。


「わ!わ!ジーク様!素敵です!素敵すぎます!!何が起こったのでしょう!しかし素敵です」


ぴょんぴょんと飛び跳ねながら興奮気味に俺を褒め称えるシエル、その無邪気な姿に少し目を奪われてしまった。


「ま、まあな。傭兵が弱くちゃ商売になんねぇからな。その…シエルはエルフなんだから弓が上手かったりするのか?」


「ふふ、ジーク様に名前を呼ばれると心臓が高鳴ってしまいますね。もちろんですわ、これでも弓には少し自信がありますの」


このシエルという娘は…ウソは付かないと思うが信憑性が無い…。


「少し見せてくれないか?それとも訓練用の弓じゃ厳しいか?」


「あらあら、弓なんてなんでも良いのです。当たるべき時に、当たるべき場所に当たる。それが弓という道具なのですよ?」


「そ…そうか…じゃあ見せて貰おうかな…」


シエルは練習用の弓を適当に手に取り構える。

金髪をなびかせ、微笑みながら弓を引く凛々しい姿に俺は…


「それじゃあいきますわ、それっ」

気の抜けた掛け声とは裏腹に一直線に的に向かっていく矢は…的を貫通し…訓練場の壁を貫通し…木々を薙ぎ倒しながらどこか遠くへ飛んでいった…。


「ふふ…ほらね、ど真ん中」


いやいや、おかしいだろ!一体何を倒すってんだ!?

ポワポワしたエルフが持って良い力じゃないだろ!?


しかし…俺はその力に…年甲斐もなくワクワクしちまった…。


「す、すごいじゃないか。まさかこれほどとは思わなかったぞ」


「あらあら、ジーク様に褒められてしまいました!ご要望とあれば何度でも…」


「い、いや!もう満足だ!さて、次はどこへ行こうか!?」


「そうですか?ではまた次の機会にでも…今度は私の弓を使ってお見せします。そうですわ、最近噂の天使様に会いに行くというのはどうでしょう。運良く出会えると願いが叶うという噂を耳にしましたわ」


「天使?聞いたことないな…」

そういった噂は尽きないからな…大半が噂止まりだが…。


「では参りましょう。お供物を持って」


「供物か?何を持って行けばいいんだ?」


「焼きとうもろこしを持っていくと良いそうですよ?」


焼きとうもろこし!?供物に?天使なのにか?ミスマッチどころの騒ぎじゃない。もはや意味不明だ。


「焼きとうもろこしを天使が食うのか…?確か酒場で出しているが…」


「じゃあそれを買いに参りましょう。天使様に会ったら…ふふ…」


俺達は酒場に向かい焼きとうもろこしを買う、せっかくなので自分達用も買い、行儀は悪いが歩きながら食べる事にした。


「歩きながらのとうもろこしも良いですね、ジーク様と一緒なら尚更です」


「それは何よりだな、それで、その天使とやらはどこに来るんだ?」

好意を隠そうともしないシエルの言葉に少し顔が熱くなるのを感じる。俺もまだまだだな…。


「たしか…スラム街の廃教会ですわね、ふふ、初めて行くのでエスコートして下さいね」


「スラム街?また天使様もえらい物騒な場所に来るじゃないか…」


「ジーク様、それはそうと…その首飾り素敵ですわね。ジーク様のような透き通った水色…私もお揃いの物が欲しいですわ」


「これか?これは親友がくれたんだ。アスフォードっているだろ?医者で魔術師の。アイツが薬の素材を取りに行った時に見つけたらしい。対魔力抵抗上がるから持っとけって言われてな」


「ジ、ジーク様とあの有名なアスフォード様が…。しかも親友で首飾りの贈り物を…。これは…うぅ…堪りませんわ…。嫉妬をすれば良いのか…でもおそんな二人を見ていたい気も…」


急にモジモジと下を向くシエル、深くは突っ込まないが違うぞ?違うからな?


ブツブツといや、それでも…はうぅ…などと表情をコロコロ変えるシエルを連れてスラム街の廃教会に向かう、俺を見て喧嘩を売ってくる奴はいないからな。


シエル一人で来るのは危険なのであとで釘を刺しておこう。


「ここですか?素敵な教会ですね。夜になると天使様が来るらしいです、お供物を置いて待ちましょうか」


「夜までか?結構時間があるぞ?」


「良いんです…ジーク様と一緒なら場所なんてどこでも…」


「なぁ、俺のどこが良いんだ?そんなに好かれるような事をした覚えはないんだが…」


「そうですね、まずはその渋いお顔です!あとはその筋肉量の多い身体!」


シエル…まさかその容姿で身体目的なのか!?ミスマッチすぎるだろう。


「あとは…私のお話をしっかり聞いてくれるところとか…歩幅を合わせてくれるところとか…いつも気遣って下さるところとか…」

少しだけ顔を赤らめるシエル。何か言葉を返そうかと思ったが上手く言葉に出来なかった。


それからは椅子に座ってシエルの話を聞いた。

なんて事は無い話だが少し、いや…かなり落ち着くな。心が温かくなる気がする。


気がつくと辺りは暗くなり、シエルは瞼を重そうにしながら一生懸命に喋っている。

そりゃあこれだけ喋ったら疲れるだろう。


「シエル、そろそろ帰ろうか、天使様は今日忙しいらしい」


「で、では…お夕飯に行きましょう…ジーク様と一緒に…初めての酒を飲みたい…なと…思って…いた…」


限界だったのか喋りながら深い眠りについてしまった…。仕方ない…担いで帰るか。


少し申し訳ないと思いながらもシエルを抱き抱えて教会を出る。ふとシエルの足先に目をやると靴の片方が無くなっていた。


「教会の中か…」


踵を返して教会の中に戻ると案の定片方の靴が落ちており…


「おいおい…マジかよ…」


備えた焼きとうもろこしは綺麗に無くなっていたのだった。

代わりに置かれた一枚の…羽根?


「シエル、もう少し起きていたら願い事言えたのにな」


まぁ良いか、次があるかは分からないがもし次があったら…


「このエルフの幸せでも願っておくか…」


幸せそうなに眠るシエルの顔を見ながらそんな事を呟いたのだった。


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