【KAC20255】夜のもとにて骸骨は、冥府への旅路を踊る
武江成緒
一、凋残
天下無双の男になる。
そう大言壮語して米國ヘと渡った兄は、わずか二年で帰朝しました。
それもまた、どうしようもない廃人となって。
いまは屋敷の裏手にある、なかば山へと入りこんだちいさな離れに閉じこもり、昼夜もわかたず布団にくるまる醜態を
御友人の松山様からうかがった所によりますと兄は、留学した
いつしか学業から離れて、あろうことか、下町のダンス・ホールなどに入りびたるまでに凋落したとのことでした。
京都帝大工学部首席の栄誉をはばかることなく誇りとし、わたくしや弟が読んでいる雑誌すらも、頽廃であると
失望や
さらにうかがった所では、そのダンス・ホールにて兄は
とは申せど、それはとても名声とは呼べぬもので。
そのダンス・ホールたるや、下町というよりも
そればかりか店内では、まっとうな
官憲の立ち入りを受けたことも一度や二度ではなかったというお話でした。
ホールの主は米國人にあらずして、南にある
十数年前、彼の地におこった叛乱にて何かの悪行に手を染め、同志たる叛徒からも
そのような忌まわしい場に、U県下でも俊才として知られた兄が身を堕としていたなど。
県内の鉱山業でも指折りであるこの家の外に知られるわけにはゆかず。
松山様に、謝辞のみならず少なからぬ御金を御礼として差し上げた父の固い言いつけによって、帰参した兄は母屋の自室ではなくて裏手の離れに住まわされることとなり。
その世話は限られた使用人たちと、わたくしたち家族のみが行うこととなったのです。
裏手の小さなあの離れは、もとから暗く奥まった気味のわるい場所でしたけれど。
兄が
使用人も、わたくしたちも、日に三度、兄がこもる小さな部屋の
一日中、死んだように布団にくるまっている兄が、その
昨年の冬の暮れには、朝に置いた御膳をそのまま夕方に下げて終わりという日も、一度や二度ではありませんでした。
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