チラシの裏の裏には書けない

吉田 晶

2025.3.19 「このエビチリを作ったのは誰だあっ!!」

「このエビチリを作ったのは誰だあっ!!」

 怒鳴り込んできたのは、雄山(注1)であった。


「ああ、はいはい、アタイですよ。アタイが作ったんですよ」


「この手の込みようはなんだっ!いつもであったら、クック●ゥのレトルトをエビに絡めて、それで終わりではないかっ!!」


「すっごく粒の大きい冷凍エビが、信じられない値段で特売してたんで、つい……」


「おろした生姜とニンニクをゴマ油でじっくり炒め、そこにコショウ、塩、酒で下味をつけたエビを投入する――そのエビにちゃんと片栗粉をまぶしておいたのは褒めてやる。しかしだ……」


 雄山は、フフンと鼻を鳴らすと、言った。

「貴様っ、ネギはどうしたぁっ!!」 


「あー、いざ作ろうと思ったら買い置きがなくて、雪降っている中、スーパーまで出かけるのは嫌だなあって、今回は省略しました。あしからず」


「な……なんと……」わなわなと怒りに震える雄山。

「お前にはエビチリを作る資格はないっ! 出ていけえっ!!」


「あ、はい、皿洗ってきますね」


 そこに、声をかけてくる者あり。


「待ちなよ、雄山。本当に言いたかったことは、そうじゃないんだろう?」


「貴様は……士郎(注2)!」


 士郎はつまようじをシーハーさせながら、私に尋ねた。

「吉田さん、今日は米をどれだけ炊いたんだい?」


「……ッ!」


小さな小さな声で、私は答えた。

「3合……です……」


「本当だったら、その半分は冷凍に回す予定だったが、それがもうカラッポ……

 雄山が言いたかったのは、そういうことさ」


「士郎の奴め……」

 頬を赤らめ、さりげなくツンデレポイントを稼ぐ雄山。


――そして、膝から崩れ落ちる私。

「バカバカ! アタイのバカ!! お米が高いから、ご飯がおかずは禁止だってあんなに心に決めたのに……」


そんな私を見て、ニヤリと笑う士郎。

「おまけに、エビチリの残ったソースに豆腐を足して、麻婆豆腐まで楽しんだんだろう? 成人が一日に摂取すべきカロリーを、はるかに超えているよ」


 悔しい、悔しい。

 何が悲しゅうて自分のペルソナにここまで言われなくてはならないのか。

 アタイは、悔し涙を流しながら食器を洗うのであった。




 ……ええと、つまり言いたいのはですね、

「こんな悲しい思いをしないためにも、早くお米の値段が落ち着かないかなあ」

 ただ、それだけのことなのです。


---------------------------------------------------------------------------------------------

注1 雄山……脳内に巣食う人格の一人で、何かにをつけるときにだけ心理の表層に現れる。傲岸不遜にして傍若無人。某漫画の登場人物とは無関係である。


注2 士郎……脳内に巣食うペルソナの一人で、何かにをつけるときにだけ心理の表層に現れる。グータラにして無頼漢。某漫画の登場人物とは無関係である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る