第2話 呪い
店の扉には『臨時休業』の看板を下げ、店と隣接している自宅へとルインを案内する。
カーテンは閉め切り、少し薄暗い部屋の中で、リディアがパチンッと指を鳴らすと、いくつかのランタンが明かりを灯した。
「――それで、いきなりやってきてどういう用件なわけ?」
テーブルを挟んでソファに座り、改めてリディアはルインに問いかけた。
彼女はフードを外し、その可愛らしい顔を露わにしている。
先ほどとは違い幾分落ち着いた様子を見せているが、呼吸は相変わらず乱れているようだ。
「そ、その、ごめんなさい。急にあんなこと……」
「別に謝れって言っていないわ。どういう用件なのかって聞いているの」
「そ、それは……」
先ほどの勢いはどこへやら――視線を泳がせるようにして、ルインは言い淀んでいた。
その様子を見て、リディアは大きく溜め息を吐く。
「急にやってきて『えっちなことしてほしい』だの恥ずかしげもなく言っておきながら、今更何を言うことを躊躇っているのよ?」
「……っ、先ほどのことは、勢いが余って」
「勢い余って言うことじゃないでしょ。しばらく会わない間に随分と節操のない女になったみたいね」
「こ、これには訳があるんですっ!」
テーブルの上に乗り出すようにして、ルインは言った。
「だから、その訳を説明しなさい。私も暇じゃないの」
「……わ、分かりました。一先ず、これを見てもらえれば早いと思います」
そう言うと、ルインはローブを脱ぎ去り、身を包んでいた上半身の軽装にも手をかける。
急に脱ぎ始めたことについては、この際何も言うことはしない。
ルインは小さく息を吐き出すと、ゆっくりと腹部の辺りの服を捲って見せた。
「! それは……『魔術刻印』?」
リディアの言葉に、ルインは小さく頷いた。
彼女の下腹部の辺りに刻まれているのは――魔術刻印。
魔術的な意味合いを持たせたものを刻み、そこに魔力を流し込むことで魔術は発動する――つまり、今のルインの身体には何らかの魔術が施されているということになる。
決して珍しい話ではない――騎士の中には、自身の肉体を強化するために魔術刻印を刻む者もいるし、リディアとて魔術師として、身体に魔術刻印の一つや二つ刻むことはあった。
ただし、ルインの身体に刻まれている魔術刻印は、リディアも見たことがないものである。
「こ、これが原因でして……」
「これが原因――と言われても、魔術刻印一つで『えっちなこと』をいきなり要求してくることは全く繋がらないのだけれど。それはどういう魔術刻印なの?」
「これは――『魔族化』の刻印です」
「――」
ルインの言葉を聞いて、リディアは驚きに目を見開く。
同時に、鋭い視線を彼女に向けた。
「あなた、その魔術がどういう意味を持つか分かっている。その上で、その魔術を自身に施したってこと?」
「ち、違います! 私が望んだのではなく、これは施されたものなんですっ」
「施された? つまり、あなたがその魔族化の魔術刻印を何者かに刻まれた、と」
「は、はい。恥ずかしながら……」
何やら、リディアが思った以上に複雑な状況にあるようだ。
――気になるところはあれど、どうやらルインが自らその魔術を施したわけではないようで、一先ず安心する。
「――で、それが魔族化の魔術刻印だとして。最初の話に戻ることになるわね」
――何故、ルインがリディアにあのようなことを口走ったのか、ということだ。
ルインは頬を紅潮させたままに、消え入りそうな声で言う。
「――です」
「なに? 聞こえないわよ。」
「だ、だから、この魔術刻印は――
「……あー、そういうこと」
ようやく、リディアも納得した――同時に、彼女がどういう状況に置かれているのかも、だ。
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