辺境暮らしの魔術師だけど、聖騎士の幼馴染がサキュバスになって押しかけてきた
笹塔五郎
第1話 えっちなこと
『アンヴェルク帝国』の北方――『ガレザの森』。
そこに少女――リディア・フォルナーの姿はあった。
長い黒色の髪に、髪色と同じ黒を基調としたドレスに身を包んでいる。
フォルナー家と言えば魔術の名門の家柄であり、リディアもその血筋であるが――彼女は地位や名誉に興味はなく、帝国が誇る魔術師団には入団しなかった。
――元より家族とも不仲であり、実家を離れて一人で暮らすことに何の抵抗もない。
むしろ、今の方がずっと気分も楽だ。
今日も、いつもと変わらない静かな一日が始まる――はずだった。
扉に取り付けてあったベルの音が鳴り響く。
来客があっても、リディアはわざわざ視線を向けたりはしない。
彼女が営んでいるのは魔法商店――売っているのは魔法薬を中心としたもので、こういった地方でも需要のある物だ。
来客は、コツコツと急ぎ足でカウンター席の向こう側に座るリディアの前までやってきた。
「いらっしゃい。何か入り用?」
リディアは手に持った本に視線を落としたままに問いかけた。
来客があっても、ページを捲る手を止めることはない。
「……リディア」
だが、名前を呼ぶ声を聞いた途端に――ピタリと動きを止めた。
視線を向けると、そこには見知った顔の金髪の少女の姿。
ローブに身を包んでいるが、彼女は黒を基調とした騎士の正装を身に纏っている。
少女の名はルイン・アルセルド――アルセルド家もまた貴族の名門であるが、彼女の場合は代々騎士の家系であり、リディアと違って正しく道を進んでいると言える。
――かつては騎士と魔術師として、互いに帝国を支えていく存在になると誓った仲でもあった。
ルインからすれば、リディアは落ちこぼれたか、あるいはその約束を破ったように見えるかもしれない。
――こうして顔を合わせるのも、一年ぶりくらいだろうか。
「久しぶりね。こんな辺鄙なところまでわざわざどうしたの?」
パタン――と手に持った本を閉じて、リディアは澄まし顔で言い放った。
以前はしつこく顔を出してくることもあったが、彼女も騎士としての仕事がある――もう、ここにやってくることもないと思っていた。
目深に被っていたフードを外すと、何やら頬が紅潮して呼吸も荒くなっている。
さすがに、リディアも異変に気付いて眉を顰める。
「……? ちょっと、大丈夫――」
「あなたにお願いがあります」
リディアの言葉を遮るようにして、食い気味にルインは言った。
その様子に、思わずリディアは押し黙る。
小さく深呼吸をした後に、ルインは意を決した表情で言い放つ。
「私と、えっちなことをしてくれませんか……!?」
「…………は?」
それはおおよそ、彼女の口から出るとは思えない言葉で、リディアは驚きに目を丸くする。
――久々に再会した幼馴染から、とんでもないお願いをされることになった。
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