第10話
今から4年前の就活中。
典型的な就活生の格好をした私。周りもみんなそう。何故こんなクソ暑い中、ジャケットを持ち歩いているのだろうか。クールビズどこいったんだよ。なんて悪態つきながらもたどり着いた最終面接。
オフィスに入った途端みんな上着を着出す。誰かから指示があったわけでもなく、揃って上着を着用するあたり、我が国の空気感に辟易する。
そんなことを考える私も、ジャケットを羽織るから変わりはないのだけれど。
緊張で何を話したのか覚えていないけれど、やらかしてはないと思う。そんな記憶だけもち、最終面接は終わった。
緊張と、夏の暑さのせいで。
一瞬前が見えなくなった。
平面だったら蹲み込んだだけですんだのに。運悪くここは階段で。
踏み外したな、という感覚だけはわかったのだけれど、全く足に力が入らなくて、あぁこのまま選考と共に落ちるのか…なんて思った。
痛みを覚悟していたけれど、そんなこともなく。
『あっぶねー、』
そんな声と共に抱き抱えられていた。
それが、名前を後から知ることになる南雲先輩だった。
「すみませんでした!」
近くの椅子に座らされ、お水を飲んだ後に頭を下げる。体調管理すらできない自分に泣きたくなった。
『就活生だろ?今日最終面接だもんな。終わった?』
「はい」
『そっか、お疲れさん』
ふっ、と微笑んでくれたその人の笑顔に釘付けになるなんてたやすいことだった。
『じゃあ、来年一緒に働けるといいな』
「…はい!」
『体調よくなったか?』
「大丈夫です。本当に、ありがとうございました」
『まだ暑いから気をつけろよ。電車で来た?』
「、はい」
『そこまで送る』
「いやいやいや!!!」
そんなことまでしていただくわけにはいかない。助けてもらったのだから、私がお礼をしなければ。
『心配だから』
うまい具合に流され、あれよあれよと言う間に駅まで着いてしまった。営業の方なのだろうか、見ず知らずのちんちくりんとも会話をそつなくこなしていくその人を見ると、社会人ってすごいな、なんて思ってしまう。
「今度、何かお礼したいんですけど」
『いーよ別に』
「そんな!それじゃあ気が済まないです!命の恩人なので!」
『じゃあ、入社した後によろしく。…気をつけて帰りなよ』
じゃーな、と背を向けるその人。私が最終選考通っていればね!!!!!!!!!!!!!!!!って強い気持ちを込めて見送った。
それが、南雲先輩との出会いだった。
無事内定をいただき、他の会社とも考えたけれど、命の恩人がいる会社に決定するのは早かった。
何をお礼しようか、なんて考えてワクワクしながら入社して。まさかの同じ部署配属になり浮かれていたのも束の間。南雲先輩は私のことなんて覚えていなかった。
そりゃそうだ。社会人は毎日が戦争のようなもの。ひまな学生とは違い、頭に入れることが多い。そんな中で私のことなんか覚えているはずがない。
ちょっと期待してしまったけれど、わざわざ蒸し返すのもイケメンの先輩に媚を売る新入社員というレッテルを貼られたくなくて何も言えなかった。
それからあっという間に、3年経ってしまった。
南雲先輩が覚えていて、私が忘れていること。
他に、なにかあったのだろうか。
南雲先輩から距離を置きつつ考えるけれど、何にも浮かんでこない。
一体、なんのことなのだろうか。
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