第8話

「なんでここに…?」


『大学の友達と飲んでたんだよ』


まさか、職場の先輩がいるなんて思わなかった。仕事の愚痴とかみんな言ってる。やばいな?と思いながらも、酔ってる頭ではどうでもよくなってしまう。


夜風が髪をさらい、少し寒いな、なんて思っていたら差し出されたカーディガン。


「先輩」


『着とけ』


「いいいいい、いらないです!」


『お前が風邪ひいて困るのは俺たちだ』


ぐいっとカーディガンを押しつけられ、もそもそと着る。当たり前に南雲先輩の方が大きいため、カーディガンもぶかぶかだ。図らずも当たり前のように萌え袖になる。


「なぐも先輩の匂いだ〜」


『変態みたいだぞ』


ふー、と煙を吐き出す南雲先輩。何をしても格好いいなんて、ずるい。


「ふふふ、わたし、なぐも先輩のこと、すきなんですよ」


『ふうん?』


「何回言ったら、伝わりますか?」


『お前が、思い出したらな』


「思い出す…?」


なんのことだろう。思い出す、って話なら、私ではなく先輩の方じゃないか。忘れたフリをしているのか、忘れているのか。


向こうからしたら些細な出来事でも、私からしたら大きいことなんだけど。そのことを言ってるのだろうか。


『思い出すまで、タバコ吸うなよ』


「久々ですよ?」


『ふうん?とにかく、飲みすぎんなよ』


頭にポンと手を乗せられ、中に入るぞと促される。先輩が飲んでたらしき席は、私たちとは離れていたので安心したけど。


私が忘れてることってなんだろう。


そればかり頭に残ってしまい、笹倉だか笹原だかとの会話は全く入ってこないまま飲み会が終わった。


帰りの電車でも思い出そうと努力したけど、なんのことなのか、いつのことなのかわからない。


ただ一つわかるのは、南雲先輩のカーディガンはいい香りがするっていうことだ。

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