第2話

朝から南雲先輩に会えたことは幸せだ。まぁ、場所は同じだから、机も遠くはない。同じ島にいるってだけで仕事が捗るってもんよ。


『北田、今日までの資料どうした?』


「すでに印刷済みです。部長からのチェックも受けて、直しもしてあります。会議用の印刷も終わってます」


『…お前、南雲のストーカーじゃなかったら言うことなしなのにな』


「どういうことですか!?」


同じチームの先輩にそんなことも言われてしまうのか。でも仕事できないって言われるよりマシなのだろうか。


クライアント向けのプレゼン資料を作成しながらふと時計を見ると、もうお昼になっていた。一回集中すると頑張れるんだよな、なににでも。


南雲先輩はお昼どうするのかな、なんて先輩の机を見たらすでにいなかった。やってしまった、もっと周り見ておくべきだった!!!!!


朝から先輩に会えて、お昼も会えたら最高だったのに。あ、部署が同じだから会えるのは当たり前、というような意見は受け付けません。イレギュラーなことで会えたら幸せだということである。


「お昼行ってきます」


お財布を持って、エレベーターの前に立つ。チン、と扉が開いた瞬間、目に入ってきたのは南雲先輩と綺麗な女の先輩。私は知っている、彼女は南雲先輩の同期で、他部署の方だ。名前は西川澄美さん。名前まで美しい彼女は、仕事もバリバリできるし美人だし、いわば社内のマドンナである。


「お疲れ様です」


2人が降りたのを確認し、会釈をした瞬間西川先輩から見られたような気がした。それもなんだか品定めされたような視線。


エレベーターに乗り込んで、閉ボタンを押そうとしたら。


『待って待って、乗りますー!』


そんな声が聞こえたので開ボタンをこれでもか!ってくらい連打した。


『ありがとうございます〜、てなんだ、北田かよ』


「なんだとは失礼な。そんなんこっちのセリフだわ。安東だってわかってたら閉めたわ」


安東は私の同期で、さっきの西川先輩の部署。


『さっき南雲さんと西川さんが一緒に歩いてるの見たけど、サマになってるよなあ』


「そうね」


『お前も、いつまでも南雲さんの後追いかけてばっかだと色々逃すぞ?』


「色々ってなにさ!ばーか!安東のくせに!昼ごはん奢れ!」


『奢る理由ねえだろ(笑)まぁ可哀想だから一緒に食ってやるよ』


同期だから、私への言葉が容赦ない。そんなことはわかってんだ。わかってんだよ。私が南雲先輩に釣り合うわけないって知ってる。南雲先輩に釣り合うような人は、西川先輩のような人だってことも。


だから頑張って近づけるようにしてるのに。


同期という近い立場の人に言われたことと、あまりにもさっきの2人がお似合いだったこともあり、いつもはラーメンとチャーハン餃子セットを食べられるのに、ラーメンの大盛りだけしか食べられなかった。

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