第4話 凍てついた背中
水上都市スイレーン。
『
『スイリア湖』と呼ばれる、海水と淡水の混ざった汽水湖の周辺に建てられた水面の反射する美しい街並みが特徴である。
屋敷の二階。中央ロビーの大階段を登って東の隅の一室が、長女マリィに与えられた部屋だった。
「あと、ちょっと……もう、少し…………ん……!」
マリィの部屋は、
マリィは、備え付けの学習机の椅子に座り、ソーイングセットから取り出した薄茶色の糸と針を、机の上にちょこんと乗せられたくまのぬいぐるみに向けた。
「……じっとしててくださいね、クマムゥ……ぜったいに、ぜぇったいに、笑ったり、さけんだりしないでください……いいですね?」
可愛らしく眉根を寄せた姫君マリィの、念を押す様な問いかけ。
風でも吹いたのか、人の手で縫い合わされたくまのぬいぐるみの首は、一人でにこくりともたげた。
「あと、ちょっと……もう、少し…………ですわ」
「……あ」
「………………え?」
童女の様な、世を知らない無垢な声音。
彼女の間近で響いたその声に驚いたマリィは、針と糸を手繰る手をくるりと滑らせる。
「……あ、あひひひ……!く、くすぐったいよ、マリィ……!」
「……あ、もう!…………クマムゥ!じっとしててって私、言いましたわよね…………!」
マリィが手を滑らせると同時、マリィにクマムゥと呼ばれたくまのぬいぐるみは、まるで生命を持っているかの様に、くねくねと一人でに身体をくねらせた。マリィの手繰る針と糸はもつれ、クマムゥの首元の赤いリボンは途中でよれて、だらんと垂れ下がる。
「……はぁ、もう……!今日は何もかも上手くいかないわ!……なんだか、退屈ですわね……ホント」
「クマ!マリィ、きのうのうらないのとおりだね!」
クマムゥを両手で抱き抱えると、マリィは机の上に額を乗せた。カツカツと、掛け時計の奏でる正確無慈悲なだけの静寂の中に、部屋の外、遠くからヴァイオリンの音が微かに聞こえてくる。屋敷一階の講堂では、妹のエミリィが、ヴァイオリンの習い事をしている最中だった。
「クマムゥ……かわいいですわ……」
「クマ!マリィもかわいいよ!」
「あら、ありがとうございますわ」
マリィとクマムゥは、お互いがお互いを褒め讃え合う。
「……クマ!マリィ!クマムゥはね、おさんぽしたいよ!そとはあたたかくて、きもちがいいよ!」
「おさんぽ」
マリィの
「…………わぁ!」
直様差し込む初夏の陽光。太陽の光を浴びてマリィは、クマムゥの言う事も悪くないわね、と、既に心は階下にあった。マリィはクマムゥを強く抱きしめる。クマムゥの首筋からは、焦げたパンの様な、独特な臭いがした。
「……行きましょ、クマムゥ!」
「クマ!」
マリィはクマムゥを抱きしめたまま、自らの部屋、上機嫌で外の廊下へ続くドアのハンドルに手を掛けた。屋敷に響く淀みないヴァイオリンの音。穏やかな陽光差し込む廊下に彼女とくまのぬいぐるみは踊り出る。時刻は正午過ぎ。数刻前に鳴り響いた『
「あら、お嬢様、クマムゥ、お出かけですか?」
「ええ」
「クマ!」
山盛りの洗濯籠を抱えたメイドの一人と軽く挨拶を交わす。彼女は、中央の大階段を降り、一階のロビーへと躍り出る。正面に現れた大きな
屋敷の前庭を、キョロキョロと辺りを見回しながら散策する。そこには、大きな
「……おや、姫様、サボりですかな?」
「あら、ちょっと散歩をしているだけですわ。ジョナサンはいつも通りね」
クマムゥを抱き抱えたまま、少々バツが悪そうなマリィ。ジョナサンは庭鋏を手繰る手を止めると、そんなマリィをからからと笑い飛ばす。
「……ははは!自習時間にこんな所にいるのが領主様に見つかったら大変だ!マリィ姫様、私だから口裏を合わせられますがね、これがもし、メイド長のカミーユに見つかれば……」
まるで真夏の夜の怪談話の様に、庭師のジョナサンは、コソコソと声をそばだてる。
「か、か、カミーユになんて、絶対にバレたりしないわ!……もう!怖い事を言うのはやめて、ジョナサン!」
わっはっはと、意地の悪い瞳で、ジョナサンは再びマリィを笑い飛ばす。
「……心配せずとも、姫様が
「クロヴィスに会いに行こうと思って…………今は、どこに居るのかしら?」
「……ああ、執事のクロヴィスなら、正門で贈答品を馬から荷上げしとったと思いましたがねぇ」
「ありがとう」
マリィは庭師ジョナサンに別れを告げると、クマムゥを揺らしながら、彼によって綺麗に切り揃えられた庭木の影から影に移る様、こっそりと正門へ、踊りながらステップを踏んだ。
屋敷の門前、正門では、眼鏡を掛けた若い執事が、白手袋に赤い林檎を一掴みし、くいと鳴る眼鏡越しにその
「まぁ!林檎ですのね」
「…………姫様、ええ、隣村のリトラナットからで御座います」
執事の背後からこっそりと声を掛けるマリィ。執事クロヴィスは、初め驚愕の表情を見せたが、姫君の
「今年は、林檎の収穫が豊作だった様で…………姫様、今は自習時間では?」
「まぁ!いいわね!それなら今夜のディナーには、是非デザートとして添えて頂きたいわ!クロヴィス、私が林檎を大好きな事…………貴方だって承知の筈でしょう?」
「姫様、しかし……万が一の事も御座います。きちんと検品をしなければ」
「そんなもの、いりませんわ!私はお腹が痛くてしんだりなんかしませんもの!うふふ!」
マリィは抱いていたクマムゥを、執事クロヴィスの
クマムゥはそんなマリィを褒める様に、マリィの赤いロリータパンプスを、毛むくじゃらの腕でぱしぱしと叩いた。
「……やれやれ、
「……ふふ、ありがとう、クロヴィス!だから私って、貴方を一番信頼しているのよ!」
――穏やかな初夏の陽気。
それは、五月のある、晴れた日の出来事であった――
⚫︎
「……………………………………………………夢、」
囚われの姫君マリィは、石畳に囲まれた薄暗がりの狭い一室で目を覚ました。
ランプ一つしかない四畳半の小さな部屋。
それは…………在りし日の、
薄いレースの取り付けられた天蓋のベッドの天井をただ無為に眺めていると、自然と涙が溢れてくる。悔しくて、ただただ世界が醜くて、マリィは両腕を乱暴に顔面に覆い被して、ただただしゃくり声を上げた。
生まれ落ちた場所を嘆いても、仕方のない事だ。領主の娘にさえ生まれなければ、年頃の
何故、私はこの家に産まれたの?何故――?
一頻り流した涙を拭いたマリィは、起き上がり、窓際に備え付けられている木製の椅子に座った。はめ殺しの格子の
「…………ふふ。お前たちの親は、どんな親…………?私と違って……良い親、なのかしら………………?」
無垢にころころと首を傾げながら、巣で待つ雛鳥の為にパン屑を加え喉に入れる小鳥の群れに、彼女の口からは、ついそんな哀しい独り言。
窓際に現れる、空を自由に羽ばたき回れる小鳥を眺めながら、外の世界に想いを馳せる…………それは、灰壁に囚われた姫君マリィの、数少ない楽しみとなっていた…………
「……………………ッッ!!」
コツコツと、ふいに、部屋に一つしかない扉の外…………階下が、騒がしくなる。粗暴な男達の乱雑な声と共に近づく静謐な靴音。足を踏み締めてこの部屋に近づいてくる音が…………段々と、大きくなる。
「…………………………あの男、か」
マリィは、物思いに耽っていた心を、氷の様に固く閉ざした。素早く立ち上がると、鍵のかかる扉に背を向けて、その凍てついた背中を錠前に見せる。扉越しに聞こえてくる物音は、ガチャガチャと焦る様に扉の錠前に鍵を挿し込む音に変わる。
そして――外道は、マリィ姫の部屋を、蹂躙する。
「……ああ!マリィ!愛しのマリィ姫!一体どうして……僕との結婚を、認めてくれないんだい?」
バンと、大仰に扉を開ける音。舞台の役者じみた様な声色が、マリィ姫の背中越しに耳障りな
(――……………………………………ふん、笑わせるわ)
「…………ミスレプレーリア様、我々も、マリィ姫様を何度も説得しているのですが……ご覧の通り、いつも顔すらお見せになられないご様子で………………」
「…………ああ、いいよ。後は僕がやっておく…………君達は、下がっていてくれたまえ」
「は…………ハッ!ミスレプレーリア様、どうか、良い成果を」
学術都市ログヒストリアの王子を騙る詐称者――ミスレプレーリア。彼の言いつけにより、神聖皇国から出向してきた神聖皇国騎士団の騎士達は、足早に姫君の下から出ると、階下へと
「…………………………フフ、さて」
姫君と二人きりになったミスレプレーリアは、おもむろに
(――………………………………………………外道、が)
ミスレプレーリアの邪悪に濁る瞳からに覗く姫君マリィのその瞳は、醜く歪み、悪鬼羅刹をも射殺す瞳だった。
「オマエ…………その態度、どういう事だか、わかっているんだろうなァ、エェ??」
姫君マリィは、憎しみと怒りに滾った瞳で以て、外道男ミスレプレーリアが肩に置いた手を強引に剥ぎ取る。
「…………どういう事、ですって…………?それは、こっちが聞きたいですわ…………ああ、貴方がしていた下らない
ミスレプレーリアに対して烈火の如く怒りを吐き散らすマリィ。ミスレプレーリアは、その罵倒に顔色ひとつ変えずに、その右拳を、姫君マリィの
「かっ…………ハッ…………っ」
肺の空気が漏れる痛音。マリィは激痛に呻き、思わず灰色の石畳へと
「――ヒャハハ!!明日は顔だ!!とっとと心変わりした方が身の為だぞ?!――ヒャハ、ヒャハハハハハハハハ!!!!」
痛みに蹲るマリィ等些事と、外道男ミスレプレーリアは自分勝手に扉を乱雑に閉めた。ガチャリ、と無情なる錠前の音。
再び、囚われの身となったマリィ。
悔しさに、その愛らしい瞳からは、ぽたぽたと、冷たい涙が溢れ出る。
「くそが……くそが……くそが……っ!」
石畳の床を、ガリガリと、両手で掻き毟る。
爪は割れ、血だらけになる。
それでもマリィは、その行為を……止めようとはしなかった。
「誰か……助けて……!私を……この牢獄から、救い出して…………ああ……ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ…………!」
⚫︎
それは…………黒髪の少年アルルカイルが、まだ幼かった頃。
義祖父である老賢者マーリンと、煙突の煙る山奥の一軒家で、二人きりで生活をしていた頃。
とある日の事、アルルカイルはいつもの庭での退屈な一人遊びを終え、縁側を登り、庭と繋がるリビングを這いずった。ふと彼がキッチンに立つマーリンを盗み見ると、義祖父マーリンはキッチンに立ち、今晩の
たたたと、そんな義祖父に走り寄る少年。幼いアルルカイルは、長方形のテーブルに乗った、ニラとひき肉の具の塊が入ったボウルと、円状の小麦粉の皮の並べられたまな板、そして、ボウルに入った真水を発見した。
(わあ――……………………………………!!)
……それから、少年アルルカイルと、義祖父マーリンの、二人きりの今晩の
「これを……こうして……ひだひだになる様に、閉じる……」
幼子に対して目尻を細めるマーリン。少年アルルカイルは、スプーンにニラとひき肉の具を適量乗せると、円状の小麦粉の皮に置き、ひだを作る様に包んでいく。
「ほっほ……コツはの、あまりボウルの水を、手に付けすぎない事じゃな」
「うん……ああ、また溢れちゃった……むずかしいな、これ」
テーブルの上に敷かれたキッチンペーパーの上で、アルルカイルは遥か南東に位置する、この『楽園の島』でも独特の文化を持つ街『メイキョウ』の料理――ギョーザ作りと、格闘していた。
「どれ……ありゃ、これは具を入れすぎじゃの、アルルカイルよ、欲張ってはならん、具の量を考えるのじゃ」
「この、ギョーザって食べ物……
「ほっほ、そうじゃよ。メイキョウの料理じゃ」
アルルカイルはべたべたで不揃いなギョーザを一通り作り終えると、飽きてしまった様子で、足のつかない椅子に座りながら、バタバタとその足の行儀を悪くさせる。それを見たマーリンはまた目尻を柔らかくし、微笑むと、彼は作りきれなかった具をラップに包み、そして、氷雪魔導を応用して作られた冷たい冷蔵庫へとしまった。
「…………それ、もう焼くのか?」
「……ほっほ、そうじゃよ」
焔魔導で出来たコンロにフライパンをかけ火を起こすと、油を引き、ギョーザをフライパンに均等に並べていく。水を入れると、ジュゥと、油の立つ音と臭いだけが、彼らの居住空間に充満する。
「じぃちゃん、まだか?まだ、焼けないのか?」
「……ほほ、もうすぐじゃ、黙って行儀よくしておくれ」
子供ながらにも、義祖父に対して可愛らしく文句を浴びせるアルルカイル。
アルルカイルは唇をうーと尖らせると、つまらなそうに顎をテーブルの上に乗せた。
「そら、出来たぞぃ」
5分後。マーリンは良い焼き色のついたギョーザをフライパンから大道芸人の如く、ぽんと白い大皿へとひっくり返す。そのパフォーマンスに、目を丸くするアルルカイル。少年の躍動感にマーリンは鼻を高々にすると、食卓テーブルの真ん中に、二人では到底食べきれない程の量のギョーザを置いた。
二人はテーブルの上のそれを見合わせると、どちらからともなくはにかみ、そして深く椅子に腰を落として、いただきます、と手を合わせた。
「…………なぁ、じぃちゃん、俺の親父と母さんって、どんな人なんだ?」
大皿の上に山盛りに乗ったギョーザの群れは、アルルカイルの胃袋の許容量を遥かに越えていた。
まだ半分も食べ終えていないギョーザを前に、アルルカイルはふと気になった質問を、義祖父マーリンへと投げ掛けた。
「……ほっほ、ローランとアンジェリカが、そんなに気になるのかの?」
いつもと変わらない義祖父マーリンの口調に、彼は少しばかり焦りと気恥ずかしさを覚えながらも、こくりと首を縦に振った。
そして、食中に椅子から離れると、急いでリビングのカーペットに乱雑に放られていた一冊の絵本を取り、食卓テーブルへと戻ってくる。
「……この、絵本にはさ……親父は、『悪魔王』を退治した
「……ほほ、そうじゃの…………10年前の混沌とした時代を、ローランは終わらせてくれた…………しかしの、ローランは元は、皆んなの笑われ者だったのじゃ」
「笑われ……者…………?」
食事の時間の気分からは、些か遠ざかるその
そして、彼は微笑みを讃え、少年の父親……騎士王ローランにまつわるその続きを、ゆっくりと話し始める。
「……お前の母さん、アンジェリカはの。それはそれは、絶世の美女じゃった……しかし、大層気が強くての、言い寄る騎士はごまんとおったが、誰にも靡こうとせんかった…………勿論、お前の父さんにもの」
「…………それで?」
「騎士ローランは、何とか彼女に振り向いて貰おうと、沢山の冒険をし、数々の武勲を立て、そして、ようやくアンジェリカに一世一代の愛の告白をした。しかし…………それでも、アンジェリカは、ローランの思いを受けようとはせんかった……その現実に、ローランはショックのあまり、着ていた騎士鎧を全部脱いで、街中を歩き回った」
「……………………それで、笑われた、のか?」
眉根を寄せ、神妙な面持ちのアルルカイル。マーリンは置かれていた杖を手に取り振り上げると、彼らの目前には、ポットに入った冷たいジャスミンティーが出現した。
老賢者マーリンは現れたポットに人差し指を掛け、そして、透明なコップに注いで、一口啜る。
「――じゃが、結果的にはそれで、絶世の美女アンジェリカの心を射止め、ローランは、ついに彼女と、結婚をする事になった…………」
「……………………ふーん、」
「………………アルルカイルよ……大きな夢、野望を持つものは、誰しもが……笑われ者なのじゃ」
「笑われ者…………俺の夢も、そうなのか?」
それは――
「…………ほっほ、そうかもしれんのぉ」
⚫︎
姫君の囚われたルインの塔。中層。下層から螺旋状の階段をぐるぐると登り始めると、必ず突き当たる大部屋。その部屋では、神聖皇国騎士団の騎士達が、学術都市ログヒストリアの
(…………退屈だ……ガウェイン
神聖皇国騎士団円卓の騎士の一人、ガウェイン卿の弟にして、ガウェイン隊の一人、聖剣持ちの騎士アグラヴェインは、乱雑に椅子からテーブルに両脚を掛けたまま、欠伸を噛み殺した。辺りを見回すと他の騎士団の騎士達は、丸テーブルを囲んで、
「……アグラヴェイン殿、いるか」
「…………どうした?」
神妙な面持ちで下層の扉から現れた一人の騎士が、騎士アグラヴェインの下へと立つ。そして、
「…………侵入者だ。数は一人……どうやら、少年騎士の様だ」
「少年……………………だと?」
少年騎士。その言葉に、騎士アグラヴェインは訝しむ。
アグラヴェインは齢二十三の歳だが、そのアグラヴェインよりも更に歳若い子供――という事なのだろうか?
「面白い…………良いだろう。その侵入者、私が相手をする」
にやりと、不敵な笑みで、騎士アグラヴェインはテーブルから両脚を退かし、席を立つ。
(……此度の冒険………………中々に、面白くなってきた様だ)
⚫︎
囚われの姫君が待つルインの塔。下層。入り口を警護する神聖皇国騎士団の騎士をすんなりと撃破した黒髪の少年アルルカイルは、螺旋状に続く石畳の階段をぐるぐるとひた走る。薄暗がりの階段には、等間隔に焔魔導で出来た蝋燭が配置され、弱々しく、辺りを照らしていた。
「姫サマ…………非道い事されてないと、良いけどな…………」
この囚われの姫君を救う
外道男の、姫君に対する虐待――それは、黒髪の少年の、唯一の気掛かり。
「誰か……助けて……!私を……この牢獄から、救い出して…………ああ……ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ…………!」
突如として、上層から響くその悲鳴にも似た絶叫に、黒髪の少年アルルカイルは、はたと立ち止まる。
「今の………………って、もしかして……姫サマ、か?」
彼の脳裏に
「そんな…………?!チクショウ…………チクショウ…………!!」
右拳をぎりと固めると、螺旋に続く石畳の石壁に向かい、彼は思い切りその硬い右拳をめり込むように殴りつけた。ズシンと、鈍く重く骨に響く衝撃。血の滲む様なその行為でさえも、彼の脳髄を、僅かばかりも揺さぶる事はない。
(姫サマは…………俺が、ぜってぇーに、救い出す――!!)
囚われの姫君は、今も
少年アルルカイルは一旦、息を思い切り吐きだすと、直様肺を満たす様に、また思い切り吸い上げた。そして、臓腑に思い切り吸い込んだ息を、自らが思い描く姫君への万感の想いを言の葉と共に――この世界へと、乗せる。
「――待ってろヨォーー!!……姫サマァァーー!!姫サマはァーー!!俺が!!必ず!!――――助け出してやるからなァァーーーー!!!!」
彼のいる場所から遥か上層で、今も助けを求める囚われの姫君に向かい放たれた、
彼の声は、姫君の元へと届いたのか――?それは、誰にも分からない。
しかし、彼は歩みを止めない。
両脚の腿に力を込めて、息を切らして走り続ける。
俺が必ず――マリィ姫を、助け出す
ただ――
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