2. 電車の中の名付け会議

仕事を終え、びしょ濡れになりながら最寄りの駅に向かう。


ちょうど同居人も会社を出たところだった。

彼女の会社は私の職場のすぐ近くにあるので、普段からこうして一緒に帰ることが多い。


「うわぁ……今日の雨、本気出しすぎじゃない?」


「ねぇ……服が全部ベタベタなんだけど……。」


駅のホームで並びながら、ため息まじりにぼやく。

やっとのことで電車に乗り込み、ドア近くの座席に腰を下ろす。

二人とも疲れた顔で、持っていた傘をたたみながらほっと一息つく。


「ねえ、見て。」

私はスマホを取り出し、彼女に写真を見せた。


「えっ……猫? え、かわいい! どうしたの?」


「家の前にいたんだって。びしょ濡れで、めっちゃ小さいの。」


「えー……これは放っておけないね。」


彼女はスマホの画面をじっと見つめる。


「でさ、この茶トラの子なんだけど……アーサーって感じしない?」


「えっ?」

私は一瞬驚いて、彼女の顔を見た。


「ちょっと待って! なんであなたもそう思ったの!?」


「え? なんか王様っぽいじゃん。」


「わかる!! 私も同じこと考えてた!!」


二人して顔を見合わせ、笑いながら軽くハイタッチ。『天才かよ!』って自分で自分を褒めたくなった。


運命の名付け、大成功。


でも、問題はもう一匹のサバトラだ。


「で、こっちはどうする?」


私は再び写真を見ながら、腕を組む。


「うーん……私はさっき『ランスロット』って思ったんだけど、なんか違う気がして……。」


「じゃあさ、モードレッドは?」

彼女がさらっと提案する。


「えっ……モードレッド?」


「うん、アーサーの子どもで、反逆の騎士の。」


「いやいや! モードレッドって最終的にアーサーと戦うやつじゃん、縁起でもないよ!?」

「この子、こんなに無邪気な顔してるのに?」


「まあ、たしかにモードレッドっていうより、もっと賢い感じがするよね。」


私はしばらく考えたあと、ぽつりと呟いた。

「マーリン……とか?」


「……あ、それめっちゃいい!」


「でしょ?」


こうして、電車の中の名付け会議は無事終了。


家に帰ったら、二匹を迎えに行こう。

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