第8話 最強の用心棒!?

 フィオラのアトリエからヘクセルの店までは、五分とかからず到着した。


 気持ちが抑えられずに魔力が漏れ出て、体の周りで電気をバチバチさせながら歩いていたためか、周囲の人たちから「なんだ、なんだ!?」と好奇の視線を向けられた。


 だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 店の大きさは、ヘルナの屋敷と遜色ない。さすがは、街で一番の魔法屋というだけあるのだろう。


 店の扉には、『close』のプレートがさがっている。人から盗んだ素材で薬作りの真っ最中ということか……。


 一応ノックをするが、返答がない。押しても鍵がかかっているのでこじ開けるしかない。


「入るぞ」


 魔法で無理やり開けて中に入る。


 フィオラに家の窓を割っているんだ、同じことをしてもバチは当たらないだろう。


 中に入ると、見えたのは店のカウンターではなく、大きな階段であった。踊り場を挟んだ途中で両階段に分かれている。


 妙に洒落ているな。


 そして——。


「待っていたぞ」


 声をかけてきたのは、両階段の先、二階の奥へと続く廊下から薄汚れた白いマントの男がおもむろに歩いてきた。


 睨みつける視線は、魔物のそれと同じようにジトっとしたものだ。昨晩の街の外で睨み付けられた視線。それから初めて会った時の視線で思い出した。


「なるほど、昨晩から目をつけられていたのか」


 すると、男はクックック、と笑い出した。


「昨晩からではない。お主と対峙した時からずっと機会伺っていた」


 そう言うなり、シュッと男は音もなく階下へと降り、両腰にぶら下げている短剣を抜きとり構えた。


「監視をしている中で、あの娘がドラゴンの素材を持っていることを知った。それを奪えばお主と戦える」

「だったら、こんな回りくどいことしないで、直接言えばいいだろ」


 率直な疑問をぶつけると、またも男は笑い出した。


「それでは、本気のお主と戦えないではないか。先日見えた時も、平然とした様子でいた。お主とは本気で見えたい」


 なるほど、確かにそうかもしれない。


 相手の力量がわかっている以上、本気を出すのは気が引けてしまう。


 ただ、フィオラの悲しい顔を見せられて、黙ってはいられない。そう考えると、この男の作戦は成功しているわけで、この部分では俺の負けだ。


 まんまと作戦に引っかかった自分にため息が出る。


 昨夜の段階でこの男から感じる視線を思い出しておけば、ドラゴンの素材を手に入れた段階でフィオラと一緒にいることができ、盗まれることもなかったかもしれない。


 ……そうすれば、フィオラが悲しむこともなかった。


 この男を倒したところで、フィオラの悲しみが消えるわけじゃない。嫌な気持ちをした記憶は残ってしまうだろう。


 今まで色々な世界を救ってきたとはいえ、魔物が相手だっだ。


 人々の心は荒んでいて、悪事を働こうとする気力すら奪われていたように感じた。だから、魔物を倒すことで人々を救うことはできた。


 だが、この世界は違う。


 優しい世界とはいえ、魔物以上に悪い人がいる。今回のように、自分の思惑のために人を悲しい気持ちにさせてまで、動く相手がいるのだ。


 ……これはひとつ勉強になった。


 フッとため息が漏れてしまう。


「いや、あんたには参ったよ。今までのやり取りは完全に俺の負けだ」


 そう言って、剣を抜いて男に切先を向ける。


「でも、ここから汚名返上だ。ドラゴンの素材は返してもらうぞ」


 男は不敵な笑みを浮かべる。


「ドラゴンの素材など、正直どうでも良い。主人はこれでまた一儲けできるなどと言っていたが、拙者は地位や名声になど何の興味はない——」


 言うなり、一瞬のうちに俺の元まで移動するなり短剣を振り抜いてきたから、避けつつ剣で応戦する。


 どうやら、この男は単純に戦うことが好きなようだ。ヘクセルのような不埒な目的はないように感じる。


「——拙者は、強者と戦うことにしか興味はない! お主からは強者が醸し出す余裕を感じる。さぁ、本気を見せてくれ!」


 大見えを切って汚名返上などと言ったのだから、ここからは本気を出そう。


 思い返すと、この世界に来てまだ本気を出したことはない。


 ウルフにもデーモンにも——もちろんドラゴンにも。少しの魔法と剣術だけで倒すことができた。


 ただ、この男は本気を出してもいいと言う。


 フィオラの悲しみや俺の失態。


 その分の気持ちを吐き出すためにも、本気を出すか。


 魔力を一気に解放する。


 俺を中心に魔力の本流が起こり、窓ガラスが一斉に割れ、家も地震が起きたかのように揺れ動き出す。


 本気を出すと言うことは、今までの世界を渡り歩いて魔王を打ち滅ぼした際に装備していた、歴戦の装備に変更しよう。


 昔から装備していた装備品もイルディは丁寧にこの世界に持って来てくれていた。青い兜、鎧に一瞬で装備を変える。


 装備のおかげで魔力もかなり向上した。


「……へっ?」


 先ほどまでの余裕そうな言動はどこへやら、男は目をこれでもかと開き、脂汗をかいて俺のことを見ている。


 だが、まだまだ本気じゃない。魔力をさらに解放していくと、周囲に青白い電撃が発生した。


 電撃はまるで意思を持つかのように部屋中をバリバリと動き回る。


 魔力を解放していくのに比例して、男はジリジリと後ずさっている。


 まだまだ本気ではないのだが、恐怖からか、男は立てなくなってしまったようで片膝をついた。


 脚が面白いようにガクガクと震えている。


 男は声にならない言葉を呟いている。


 何を言っているのか分からない。


 許しをこうているのかもしれないが、やってしまった以上、その責任は取ってもらわないといけない。


 怯えているであろう、俺は男に呟くように言った。


「本気、出してもいいんだろ?」

「ごめんなさい、ごめんなさい! 私が悪かったです、どうか、どうかお許しを!」


 全く、こんなやつを相手に不覚をとるなんて俺もまだまだだ。


 三つの世界を救ってきたとはいえ、一人の女の子の笑顔を守ることができないなんて、思い上がりも甚だしい。


 ……もっと精進しないといけないな。


 ガクガクと震える男の直前まで歩いて、直前で歩みを止める。涙を流して何かを懇願する様子の男の頭にチョップ。


「喧嘩を売る相手を間違えるな」


 男はその場に倒れた。


 どうしてだろう、男の顔は少し安心したようにも見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る