モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~僕のギフトって聖獣も魅了するの? 家族みんなでおいしいスローライフ~
みちのあかり
一章 追放
第1話 ダンジョン追放
ダンジョンの5階層。ボスのゴーレムと
小さい頃に父を亡くし、母が守っていたモンド伯爵家はおじさんに乗っ取られた。
母はフイ男爵の四番目の妻として、僕たち兄妹をつれこの地に来た。
山の中の寂れた炭鉱の町は、掘り進んだ跡地がダンジョン化し、魔物の住みかとなった。
その魔物の落とすドロップ品がフイ領の特産品。だから、兄さんたちは力まかせに魔物を狩って義父にみせる。
領主の座を自分のものにするために、争っているんだ。
ゴーレムが倒され、キラキラとした光の粒になって消え去る。あとに残ったドロップ品をみて、義兄さんたちは叫んだ。
「またこいつか! ルーデンス! お前のギフトはサイテーだな」
義兄さんたちが、僕を囲んで怒鳴った。僕だってまさかこんなことになるとは思ってもいなかったんだ。
「なんでせっかくのドロップ品がこんな犬の糞みたいな土の塊に変わるんだよ」
「お前を連れて歩いていると全部この土の塊に変わるってどういうことだよ」
「いままでこんなもの出たことがないぞ!お前のギフト『ルゥ』? そいつが引き起こしてるのはもはや明白。せっかくボスを倒したって言うのに!」
神様からもらえるギフト。与えられたギフトによってさまざまな恩恵がある。そもそももらえない人の方が多い。ギフト持ちはそれだけ神様に愛されているんだ。
昨日10歳になって僕が授かったギフト『ルゥ』。
誰も知らないユニークギフトだと、喜んだのはこの街の領主の
その中で、『ルゥ』というギフトはこの街の教会でもわからないものだった。
「モンド家は不思議なギフトが出るという噂がある。お前たちを受け入れたのはそれを見越してのことだったが。どんなギフトかわからないではどうしようもない。お前たち、ルーデンスを連れてダンジョンに潜れ。そこでギフトを使わせろ。なにかわかったら報告をするように」
義父が命じた結果、僕は荷物持ちとして連れてこられた。
この家で役に立てれば、母さんも妹も守れる。
そう思ってダンジョンに潜ったんだけど。
「なんで今日のドロップ品は、全部土の塊になるんだよ!」
「体も小さい、力もない、役立たずのお前が授かったギフトはドロップ品を
「あ~、もしかして回復薬にでもなるのか? ほら、食ってみろよ」
「いいな、ほら口開けろよ!」
兄さんたちは僕を押さえつけて口の中に塊を押し込んだ。
「うええええ!」
辛い! まずい! 唾液でねちょっとなった土塊は口の粘膜を暴力的に痛めつけた。
「ぐはー。ぺっ。み、水!」
水筒に口を付け水を飲むと、さらに得体のしれない痛みが口いっぱいに広がった。思わず吐き出すと、近くにいた兄さんのズボンにかかった。
「うわっ、汚ねえ」
僕は殴られて尻もちをついた。
「おまえは我が家にはいらない! このまま置き去りにする。父さんにはこの事を伝えてお前ら家族は追放してやる!」
「何も出来ねえくせに」
「邪魔なんだよ!」
兄さんたちは次々と僕をののしり、動けなくなるように痛めつけた。
そうして、僕を置き去りにして去っていった。
◇
「う、ぐ。痛い」
なんとか体が動かせるようになった。薄明りの中目を凝らすと、僕が持たされていた荷物が散らかるように残され、
「いまから追いかけても追いつかないな。なんとかして外に出ないと」
ボーっとした頭でそんなことを思っていたら、グゥとお腹がなった。
「こんな時でも腹は減るんだ。食料は落ちていないかな」
残念だけど荷物の中に食料はなかった。仕方がない。水だけでも飲もう。
僕は落ちていた鍋を拾い、魔法を発動した。
「ウオーター」
両手を合わせて唱えると、僕の手からお湯が出る。僕が唯一できる魔法。なぜか、水ではなく熱湯が出てくる。冷まさないと飲めないのが不便だし、攻撃魔法みたいな威力もない。
しばらく待たないと飲めないな。そう思っていると、鍋から今まで嗅いだことのない、暴力的とでも言うしかない、強烈で複雑な香りが広がった。
鍋の中を覗くと、お湯が茶色く濁っている。
もしかして土塊が鍋の中に入っていたのか?
捨てないと! と思ったが、不思議な香りがその思いをとどまらせた。
「これが毒ならそれでもいいや。どうせダンジョンから出る前に魔物に襲われて死んじゃうんだ。だったら最後に僕のギフトを食べて死んだって一緒だ」
やけになっていたんだと思う。それにこの何とも言えない匂いにおかしくなっていたのかもしれない。
僕はお玉をとり、茶色く濁った泥水を口に入れた。
ゴクン、と一気に飲み込むと、体の中が熱くなった!
口いっぱいに広がる
冷え切った体の芯に熱くなった血が流れ込む。
額から汗が噴き出す。さっきまであった痛みが見る間に引いていく。
もう一杯。僕は勢いよくお玉ですくい、喉の奥に流し込んだ。
鼻には香しい匂いがあふれる。体が一段と熱くなっていく。
その時、僕の頭の中に遠くから聞こえる音楽が鳴った。
「タタタターター・タタータター」
最初のタタタターターは同じ音。次のタタータターは少し上がって階段状に下がっていった。
「タータータタタ・タタータター」
音量が上がり、ファンファーレのような音楽に歌が入った。
『♫
モンド家? 僕の本当のお父さんの家名だ。お父さんが死んでしまってモンド家が無くなってしまったから、母さんは再婚して側室ってやつになったんだ。
『♫アップル&ハニーも仲良く混ぜ混ぜ』
『家名! ♫VER・モンド家の・カレー』
曲が終わり静かになった。そして、よく分からないことを頭の中で告げられた。
「ルゥ【カレー】のレシピ・解放
メニュー1 カレーのスープ」
何だったんだ、今の歌は。VER・モンド家の……カレーって何だ?
気がつくと痛みはなくなり、体力が回復していた。
「動ける。もしかしてこれは回復薬のようなものなのかな」
一気に熱くなった体に気力がみなぎる。それでも一人で5階層から戻ることができるとは思えない。
「どうしよう。ここにいても危険なままだし」
僕はまだ一人前じゃない。一人で何ができるって言うんだ。
でも……。戻らないと。母さんと妹が待っている。
もしかしたら兄さんたちが魔物を倒して、今なら会わずに通過できるかもしれない。
急ごう! ここから脱出しないと。
そう思い、帰り道の方向を向くと、そこには巨大な狼のような魔物がいた。
「グルルルルー」と低いうめくような声を出しながら僕に近付いてくる。薄暗いダンジョンの中なのに、その毛並みはわずかな光を反射させ美しく輝いていた。
怖いのに目を離せない。神秘的なオーラをまとった存在感。圧倒的な強者感。
慌てて逃げようとしたけど、体が動かない。そのまま倒れてしまった。
もうだめだ。魔物が目の前にきた。ここで終わりだ。そう思ったら狼は僕のわきをすり抜け、鍋の中の茶色くなって冷め始めたカレースープを舐め始めた。
今のうちに逃げなきゃ。
僕が恐るおそる気付かれないように動き始めたら、魔物はじっとこちらを見た。
動けない。
狼は僕を目掛け助走をつけて飛びかかってきた!
ダメだ! そう思った時、狼は僕の後ろにいた蛇のような魔物の首をくいちぎっていた。
「少年よ。危なかったな」
「はい?」
狼がしゃべった?
「儂は話はできない。お前に思念を送っているだけだ。怖がらなくともよい。儂はフェンリルの末裔。お前ら人間に危害を加える気はない。それより、この飲み物を作ったのはお前か」
フェンリル? おとぎ話に出てくる勇者と戦った聖獣?
「はい」
と返事はしたが、僕はフェンリルの姿に見惚れていた。
「そうか。この汁は儂の魔力にとても相性が良いようだ。呪いをかけられた古傷が一瞬で直り、呪いまで消し去られた。感謝する」
「はあ」
どうやら、僕のために蛇を退治してくれたみたいだ。敵意がないどころか感謝されているよ。
「礼と言ってはなんだが、何か困っていることがあるなら手伝ってやってもいい」
「本当に? 外に出たいんだけど、連れて行ってくれる?」
「お前は外に出たいんだな。このダンジョンは儂のねぐら。儂より強い魔物はおらん。案内しよう」
「ありがとうございます」
このままダンジョンで魔物におそわれると覚悟していた僕は、その言葉に希望を見出した。
「ところで、このスープはいつでも作ることができるものなのか?」
作ることができるか? できるかな? 本当に僕のギフト『ルゥ』がこの土塊を出すものだったら。
「この汁は初めて作ったからどうなっているのか分かりません。でも、この土塊を溶かすだけだから、多分作ることはできると思います」
「そうか。ならば契約をしないか。儂にそのスープを作ってくれ。その代わりお前の側にいよう。お主が作ったスープはこの世界を変えるかもしれぬ。どうだ、儂と契約しないか。お前か儂が嫌になるまで」
え? 本当に? このきれいな聖獣と一緒にいられるの?
「はい! 一生懸命仕えます!」
「え? こういう場面では仕えるのは儂の方では?」
「そんな恐れ多いこと! フェンリル様のために誠心誠意尽くさせて頂きます」
「ま、まあお互いそう思い尊敬し合えればいいかもしれぬな。それからフェンリル様というのはやめろ。その名はよそでは言わぬように」
「では何とお呼びすればいいのですか?」
「好きに呼べばいい。名前を付けてくれ」
こんなステキなフェンリル様に僕が名前をつけるの?
青銀色の毛と体を見て思いついた名は
「ルナ。月の様に綺麗で寂しそうだから」
「綺麗で寂しそうか。お前の目に儂はそう見えるのか。ではこれからはルナと呼ぶがいい。主よ」
フェンリル様の体が光り輝いた。
「これでそなたとの契約が叶った。使い魔として側におることにするぞ」
ルナは遠吠えをあげると、出口まで先導してくれた。ルナのおかげで魔物と一度も会うことなく外に出ることができた。
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