二章 仲間の誕生(4)

すべての当選者が確定したのは、翌朝8時であった。

「皆さん、奇跡が起きましたよ。新たな政党を立ち上げて3ヶ月後の『参議院選挙』で、企業や宗教などの後ろだてが全くないが政党から2人の当選者が出ました!」

渡辺は、短時間だが深い睡眠すいみんがとれたこともあり、興奮こうふん気味に言葉を発した。いつもの彼にもどっていた。

「重度障がい者の足立武史と、難病の小松みどりが、参議院議員になりましたー。日本の歴史始まって以来の快挙かいきょです。これも、すべて皆さんが横に広げてくださったおかげです。改めて、お礼申し上げます」

渡辺は、足立と小松を、参議院選挙 比例代表の『特別枠とくべつわく』候補としていた。参議院選挙の『比例代表』は、候補者名か政党名を書いて投票するのであるが、得票数の多い候補者から順番に当選することになっている。

ところが、『特別枠』とは、候補者得票数に関係なく、当選させたい候補者を優先的に当選させることができる制度である。この『特別枠』で、足立と小松の2名が参議院議員となったのである。

渡辺は、候補者得票数がトップであったが、全体の得票数では3人当選にはいたらず、彼は当選できなかったのである。それでも、2名の議員が誕生したことは、奇跡と言っても過言かごんではなかった。ましてや、重度障がい者と難病者の議員が誕生したのは、世界でも例がなく、画期的なことであった。

「重度障がい者と難病の当事者の方が、国会に行くのはとても重要なことです。今まで、不条理な現実をきつけられていても、その声が届かなかった。当事者が行くことで、直接その声を国会に届けられる。この意義は極めて大きいと思います。国会に、大きな風穴が開きますよ!」

さらに、渡辺は続けた。

「それでは、新たに国会議員になったお二人にご登場いただいて、お一人ずつご挨拶をして頂きたいと思います。まずは、足立さん。記者からの質問に答えるかたちで、よろしくお願いいたします」

大手テレビ局である毎度放送の記者が、足立に質問した。

「今回、当選したことへのめ、どんな感想を持っているかお教えください」

「今回の選挙に出ようと思ったときに、私は重い障がいなのでとても悩みました。でも、地域で生きている障がい者の現状は(特に介護者不足の問題ですが)とてもきびしく、介護者がいないと生きられない人がたくさんおられます。その現実をなんとかしたいと覚悟かくごを決めて、国政こくせいに出ることにしました」

いつも明るく、ハッキリとした物言いの足立は、そのように答えた。

次に、スポーツ新聞の記者が、質問した。

「おめでとうございます。全国の障がいのある人たちにとって、大きなはげみになる当選だと思いますが、そういった方々にメッセージを送るとしたらどんなことを伝えられますか」

「私は養護ようご学校と施設で育っていますので、社会に飛び出るときは本当に恐怖や期待やいろんな思いで、尻込しりごみしてしまうような時期がありました。私の姿を見て、『地域に出よう』という夢をかなえたいって思える人が、少しでも増えていったらいいなと思っています」

「(渡辺)次に、小松みどりさん。よろしくお願い致します」

あらかじめ準備した小松のコメントを、付添者つきそいしゃ代読だいどくするかたちで皆さんに伝えられた。

有権者ゆうけんしゃの皆さま、ボランティアの皆さま、渡辺代表、今日という日が来たことに、本当に胸がいっぱいです。心から、お礼申し上げます。

なぜ私が立候補をしようと思ったか? 私と同じ苦しみを、障がい者の仲間に味わせたくないと考えたからです。

例えば、事故で全身麻痺まひになり入院した人が、今の医療では治らないと分かったとき、病院からは退院をせまられ、他の受け入れ施設を紹介してもらうこともできません。自分で、いろいろな施設に『受け入れてくれるか』問い合わせますが、どこも受け入れてもらえず、市に相談しても受け入れ施設を見つけることができません。

これが、残念ながら‥今の日本で日常的に起こっている現実です。いろいろな障がい者がおられますが、『障がい者にとって支援しえん』今一度考え直していただける制度を、これからつくっていきたいと考えています。皆様のご支援で、ここまでこれました。これからが本番です。

どうかこれからも、引き続き、よろしくお願いいたします」

渡辺は、足立と小松の話をきながら、2人が国会で活躍している姿を想像し とてもうれしいと同時に身が引きまる想いであった。

ー2人が国会活動を支障ししょうなく行えるために、『合理的配慮ごうりてきはいりょ』がなされる環境を整える必要がある。すぐにでも、動かなければならないー

記者会見場は、国政始まって以来の出来事に記者から質問が続き、活発なやり取りがいつまでも続いていた。

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