12月31日
〇 〇 〇
座る男の子の膝の上で寝そべる。
もうすっかりそこは自分の住処になっていた。
ポカポカしてとても暖かい。心が落ち着く場所。
いつも孤独でいた私にとってそれを忘れるほどの、心温まる、そんな温もりだった。
〇 〇 〇
いよいよやって来た大晦日。
神棚に飾られたお守りやお札などを取り出し、お焚き上げに行く準備をする。
取り出したお守りやお札をビニール袋に入れる。
「何をしているんですか?」
「あぁ、これはね……――」
白にお焚き上げの説明をする。
「そうなんですか」と俺の説明に相槌を打つ白。
説明した後に、この後神社に行って浄化することを話す。興味を持ったのか、「私も行きたいです」と目を輝かせている。
「それなら一緒に行こう」と話になって、共に準備をして外へと出る。
「気を付けて行ってらっしゃいね」
「「行ってきます」」
母さんの言葉に、俺達は返事をし、出掛ける。
俺たちは自然と手を繋いでいた。
〇 〇 〇
神社へ到着する。
お焚き上げに訪れた参拝客たちへの案内に忙しくする夢月が見えた。その夢月は巫女服を着ている。
――やっぱり神社ときたら巫女服だよな。
そんな夢月の姿にうんうんと唸りながら眺める。
眼福だ。
「夢月さん、お忙しいみたいですね」
「まぁ、この時期だからね」
忙殺されている夢月を俺たちは眺めていた。
神社には俺たちの他にお焚き上げに来た参拝客以外、夜に備えて屋台を設営する職人の姿もあった。大晦日の夜から、年が明けての三が日の終わりまで、この境内にはたくさんの屋台が開かれる。
俺たちはそれらから逃れるように、境内の端へと逸れて、それらの様子を眺める。
「みんなの邪魔になるから、さっさとお焚き上げして帰るか」
「はい」
そうして夢月の元へと近づく。
こちらに気づいた夢月が――忙しさで目が死んでいる夢月が、お焚き上げの対応をする。
夢月にお守りなど入ったビニール袋を渡す。
その後、「用事がないならさっさと帰れ。いや、やっぱり少しは手伝え」と目で訴える夢月を横目にしながら俺たちは引き上げた。
神社の鳥居前に戻る。時計の針は正午前。時間はまだまだ十分にある。
このまま帰るのは惜しいな、と思った。
「どうする? 少し寄り道して帰ろうか?」
「そうですね……私、行きたい場所があります」
「そうか? じゃあ、行こうか」
「はい、こちらです」
白の案内で、俺達は歩き出した。
〇 〇 〇
白の導きで案内された場所は、街外れの原っぱだった。
雪に覆われた原っぱ。街中の文明に囲まれていた場所とは違う、何物にも染まらない自然に囲まれた閉鎖的な場所。
建物が窮屈に建ち並ぶ環境とは違う、ここには自然な空気が広がっていた。それは澄んで清らかで、時に肌に感じる険しさで、肌に突き刺さる冷たい風に俺の体は震えた。
白を見る。なぜここに来させられたのか、とそんな想いを込めて。喫茶店とかそんな場所へ行くばかりと思っていた。
そんな白は、自然の空気に触れていたいのか、静かに目を瞑っていた。
そして口を開く。
「……いつも私はここにいました。いつもひとりで、ただただひとり彷徨っていました」
白は語った。
この場所で自分が如何にひとりだったか。如何に孤独だったか。如何に寂しかったか。
ここから自分は始まった。その場所を俺に見せたかった。
色々なものを込めた想いで、彼女は言った。
その想いは、俺の心に届いた。届いてしまった。
そして白は目を開け、俺の瞳を見つめた。
「そんな中、あなたが現れたんです」
真剣な目。まるで熱を帯びたような目で、俺を見つめる。
そして彼女は言った。
「あなたが好きです、和志さん」
それは告白だった。
自然に囲まれた場所で響いた、彼女の想いだった。
透き通る風の中に熱があった。肌寒いはずなのに暖かみを感じた。
彼女に何度もされた告白。その回数は何度も俺の中に育み、そして熱を生み出していた。
そこにどこか気恥ずかしさがあった。しかしそれを嫌な感覚だとは思わなかった。
心の中にどこか温かい想いが埋まっていく。この想いが何なのか、何の言葉なのか、俺はまだ理解しきれていない。でも彼女と出会って、この数日で、俺の心の中にそれは確かに芽生えていた。成長していた。
でも、そこに障害があった。
「俺は君の事をまだ何も知らない。まだ何も思い出せていない」
「はい……」
「そんな俺が君と付き合うのなんて、おこがましいと思う」
白は無言で俺の話を聞いていた。
俯いたその顔には、どんな表情を浮かべているのか、見ることが出来ない。
俺は言葉を続ける。
「でも、これから君の事を知っていきたい」
白が顔を上げた。思ってもいなかった、と言った表情で。
「そうしたら、より好きになれるかもしれない。もっともっと好きになれるかもしれない。だから君には悪いけど、仮になるけど、お試しになってしまうけど、俺は君と付き合いたい。君の事をもっと好きになりたいから。君の良い所をもっと見つけたいから」
俺は言葉を紡いだ。
後にこの言葉は希望となるだろうか、もしくは後悔へと変わるだろうか、誰にも分からない。
でも俺は言った。この想いを乗せて。
白に告げた。
「だから俺と付き合ってください」
「はい!」
俺の言葉に嬉しそうにする白。
お試しで付き合うなんて、告白の中では最低だったかもしれない。でもそれは出会って数日という少ない時間から導き出された結果だった。しかしこれから白の事を知っていきたいのは本当の事だった。白の事をもっと好きになれる自信はあった。白は良い子だったから、好きになれないなんて予感は無かった。
「俺は君ともっと過ごしたい」
心の底から思った言葉を送った。
「私も、あなたと過ごしたいです」
そう笑う彼女の姿が眩しかった。
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