第12話 2-6 新人プロテスト前日 ジムでの練習

 会長の徳川や、マネージャーの田口、OPBF東洋太平洋チャンピオンの田上が見守る中、ベンタが先輩の矢尾板と、海斗が先輩小島を相手にしてスパーで基本的な動きの最終確認をしていた。

 トレーナーの村木が、ベンタと海斗の二人に何回も言い聞かせていた。

「二ラウンドある」

「自分の技量を見せればいいんだ」

 村木が海斗を見た。

「いいか、あくまでテストだ」

 田口がベンタを見た。

「相手を倒すことが目的じゃないぞ!」

「はい」

 ベンタと海斗、二人が同時に返事をした。

「ジャブ、ストレート、ワンツー、ディフェンス、フットワーク、そして手数だ」

 村木がベンタを見た。

「その中でも特に大切なのは、ディフェンスとストレートだ」

 村木が海斗を見た。

「接近してフックなんか打ったって、意味がないからな!」

「はい」

 二人がまたまた同時に返事をした。

「村木、この二人は、大丈夫だ」

 徳川が村木を見ながら、ににこやかな顔で云った。

「まともにパンチが当たったら相手が立ってられないよ」

 田口がベンタと海斗のパンチの威力を十分に認識していた。

「田口さん、それだからこそ敢えて言ってるんですよ」

 村木が真剣な表情で答えた。そして、

「テストにならないんじゃないか、ってね。逆に心配してるんですよ」

 村木が力を込めて率直な意見を述べた。

 横で聞いていた徳川と田上が、苦笑いを浮かべながら、なるほどね! という顔をした。

「明日の朝は一旦ジムに集合して、持ち物や書類の準備をしてから出発する。田口さんが最後まで付き添ってくれるから、安心して今までの努力の成果を出してくれ」

「いろんな選手が来るから会場の雰囲気に飲まれるなよ」

 村木が最後にニコリと笑った。 

「今日はこれで切り上げる。早く帰ってゆっくり休むんだぞ」

 村木が優しい眼差しで、ベンタと海斗の二人を見た。

 なんとか無事に日程をこなし、明日の新人テストの最終調整が終了した。

 二人の体調は万全だった。

 東弁太一(とうべんたかかず)と分銅海斗(ぶんどうかいと)、ともに十六歳。

 プロボクサーを目指し上京した二人の運命を決めるプロテストは、明日に迫っていた。

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