幕間 戦時の残滓と邪神への抵抗の為に
続き
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読者諸君には本編に入る前に、【手取り足取り】について語る前に、其の存在に関わる【モノ】について語るとしよう。
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時は遡り、第二次世界大戦と呼ばれる多くの国を巻き込んだ戦争の末期。既にイタリアとドイツは降伏し、残る枢軸国側は大日本帝国と其の属国のみに迄追い込まれていた。
沖縄や本土への攻撃が近付く、正に連合国軍に四方から急所に向けて銃口を突き付けられている様な状況の大日本帝国は、武士道や大和魂を履き違えた自暴自棄の愚策としか云えない特攻や自決の強要を平然と行おうとする程に気違えた、未だに此処から逆襲して、其の全ての勝利を可能と盲信する狂人や、反対に遅まきながら如何に被害や賠償を少なくして降伏するかを考えられる、戦争の狂気に支配されずに冷静に状況を見る事が出来る現実的な者、そして自らの利権と安全を保つ為に、どちらに付くかを日和見る小物共等が集まり、度重なる敗北と劣勢の報告に喧々囂々とする軍部の中に、
――【虛號部隊】
表だけでは無く、裏からも歴史から消し去られた、大日本帝国軍部の上層部以外に秘匿されていたと云う【存在しない部隊】の一つ。
ある日、突如として大日本帝国からの離反と【人類の根絶】を宣言した彼等は、
だが、其の思想を継承した【信奉者】達が【
【仏神兵】と呼称された、
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では本編に戻り、【蘇芳】と【脱兎】が閲覧した記録を見るとしよう。
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【
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【リスクレベル:Danger(潜在的Catastrophe)】
【特殊分類:Angel】
【拡散度:暫定値2】
【精神干渉力:推定Light gray】
【現実干渉力:暫定的Blue】
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嘗て人類を滅ぼす為に生み出された【仏神兵:千手観音菩薩】を元にして作成されたと推測される戦後に確認された【
標的の手脚を引き千切り、自身の変形する両肩と、下半身に移植する特徴から暫定的に【手取り足取り】と呼称が決定。
奪った四肢は変形して適合し、本来の持ち主の能力を行使出来ると推測される。
追記:対象の四肢を欠損させる特徴は【仏神兵:達磨】との関連があると云う意見もある。考慮すべし。
補遺:鎮圧戦後、【異蒐院】家の者から【情報の余白】があると云う指摘を受けた。此の余白部分が、存在の変質を齎す可能性が高いと判断し、情報流入や定着を阻害する何らかの措置を講じる必要があると上申する。
逃亡した【穢流】構成員の行方は引き続き、捜索を継続する物とする。
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其処まで読んで、【蘇芳】と【脱兎】はタブレット端末から視線を上げる。
「……何となく、ヤバいのは分かったけど、其れでも斃させてはいけない理由が分からない」
「【管理番号:2091】単体なら、下手に食い荒らして取り込み、【イゴーロナク】の精神が普通に機能した場合に、最悪、アレが変則的な【イゴーロナク】となって処理が困難になり、其れだけでも脅威が増す。
【手取り足取り】は、【情報の余白】と表現された部分に、【イゴーロナク】の情報が組み込まれた場合、【イゴーロナク】に成り代わった新たな神格として、存在が改変される可能性がある。
そうなった場合、本格的に【Catastrophe】クラスの脅威として全力で鎮圧しなくてはいけなくなるだろうね。
で、問題は以上の二種が手を組んだ事で、今挙げたリスクが全て発生した上で、変質して悪化する可能性がある事だ。正直、予想が出来ない。
まぁ、勝てない理由としては、単純に【イゴーロナク】は身体能力と精神干渉の二つを武器にして戦うけど、どちらも抑え込まれるだろうからって予想からだね。
だから、弱らせてくれる迄は良いけど、斃されたら困るって訳」
【Dr.アレク】の説明を聞いて、一応は納得した【脱兎】は、恐らくは苦々しく顔を顰めていた【粉擬】も同じ理由でそんな風になっていたのだろうと思う。
「成る程。なら、ぶつけ合わせるどころか、接触もさせない様にするのか」
「
「は?今聞いた限り、寧ろ其れはしてはいけないって感じだったが?」
【猟犬】の言葉に対して、どう云う事だ?と戸惑う【脱兎】に、【猟犬】は面倒臭そうにフード越しに頭を掻いて答える。
「最善は合流させずに、両方を鎮圧もしくは撃破だが、戦力が足りないし、各個撃破を狙ってどちらに集中させて、乱入されて瓦解するって落ちが一番避けなければいけない。
其れなら、其の最悪よりはマシ程度でも、合流させて少しでも互いに消耗させておきたい。……ほぼ確定でイレギュラーが発生するだろうし、薄氷の上を歩く様な戦況の調整が必要だがな」
「うわぁ~……」
確実に碌でもない事が起こるだろう戦況を、其れでも作った上で、神格と、恐らく同格だと思われる存在を同時に相手取り、両者をこちらで打ち倒さねばいけない事に、【蘇芳】は思わずげんなりとした表情で声を漏らす。
「俺と【Dr.アレク】、そして【粉擬】は、恐らく移動している奴等をエントランスに叩き戻して、第三勢力として誘導と攻撃を行う。
【九頭竜】の……【白瀬】と【脱兎】だったか?お前達は2階や3階の吹き抜けから支援をして欲しい」
「確かに、あの化け物の中を相手に戦えないだろうから、其れは良いんだけど、どうやって?」
「それは――」
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【管理番号:2076】を素体に顕現した【イゴーロナク】は、【猟犬】や【Dr.アレク】が予想として話していなかった【霊的実体の眷属の召喚】と云うイレギュラーを、自身の能力として行使出来る様になっており、元々の眷属である【従者】と共に従えて、エントランスから移動して通路を徘徊していた。
前傾姿勢となった事でゴリラの様な四足歩行となった【イゴーロナク】は、先程単独で発狂しながら突撃してきた女を前に投げ捨てる。
咀嚼されて上体を失い、断面もグチャグチャになった女の下半身が力無く宙に放物線を描き、断面から床に落ちて臓物と赤い体液を塗り付けて倒れる。
絶命した時に両手から落ちた二振りの刀剣を邪魔だと雑に端に弾くと、再度進行を開始する。――よりも早く、自身を引き寄せる力場の発生を感じ取る。
《召喚/退散》系統の術式である事は、永劫の時を生き、嘗ての【旧神】による封印から解放せんとする狂信者から幾度も受けた経験から、即座に看破した【イゴーロナク】だったが、本来は呼び掛けてこちらの意思を伺う信号を発する通路の様な筈の其れが、力尽くで術者の下へと引き摺り込まんとする様な改造が施されていた。
抵抗しようにも、
気付けばエントランスに戻っていた。体勢は召喚前のままだったので、即座に巫山戯た真似をした愚者を骸にでも変えてやろうと、周囲を確認するも、其れらしい者は見当たらない。
召喚者が居ない事への疑問で、意識が内側に向かい、外部への注意が僅かに緩む。
一瞬の意識の空白。其の間隙に差し込む様に発生した故に、天井に突然現れた気配への察知が遅れる。
瞬間、其の気配の主が落下して【イゴーロナク】に激突する。
中途半端に持ち上げていた上体は、
重量はかなりあるが、大きさは恐らくだが自身と同じ程度だと感じる。其れよりも、落ちてきた存在と、其れと共に落ちて来た小さく大量の何かがどんな存在かが重要だ。
自身に存在を察知されない程の気配隠蔽能力を持つ何かが、奇襲目的で呼び出したのかと思ったが、落下が奇襲と云うよりも、自身と同じ様な予想外の召喚によって落ちてきた様な、押さえ込む動きと云うよりは、体勢を立て直す様に藻掻く様な動きをしている事を感じ取る。
【イゴーロナク】が上に乗る何かを退かして、身体に纏わり付く物を振り払おうと動き出そうとした時に、小さな何かがぼとぼとと落ちて、蠢き潰れる雑音に混じって、微かに規則正しい、人が駆ける足音が上の三方から聞こえた。
足音がほぼ同時に止まり、二度、手が打ち鳴らされる。
「「「《我等は今、大いなる旧神に、参の方を頒かつ鳥居の参道を閉ざす事を希う。邪なる彼の者が参る場所は何処にも無く、向かう道も、渡る海もありはしない。三柱ならざれど、界を閉ざし、彼の者を此の地に封じ給え!!》――《補陀落途界》ッ!!」」」
【イゴーロナク】は、自身がいるエントランスに、嘗て自身を封じ込めた【旧神】の術式の気配を感じる、空間を断絶する力場の展開を察知する。
性能は大きく劣るとも、術式の構成自体には遜色無く自身を含むエントランスにいる存在を内部に閉じ込める力場を忌まわしく思う【イゴーロナク】は、術者であろう三人の人間が、何故か自身等がいるエントランスに降り立った気配を感じ取る。
自身の力量に傲った愚者かと嘲笑う。
誰か一人でも始末すれば、此の力場も崩れるだろうと動こうとして、意識から外していた天井から落下して来た何かに、背後から左腕を掴まれると、容易く引き千切られた。
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