幕間 【多腕の大型マネキン】と【問題児】

 続き


 通路は十字路になっていて、


      Ⅰ

   EV■ Ⅰ→【多腕の大型マネキン】

   ―― 十――←【男】

      Ⅰ

      Ⅰ

      ↑【蘇芳】


 って感じです。通路は幅が二車線道路程度ある感じ。戦闘前提なので

――――――――――――――――――――――

 台所等に湧く嫌われ者を模した様な茶色いタイツに全身を包み、盾の様な物と斧を装備した其の男は、【管理番号:2091】に追われる【蘇芳】達に対して特に声を掛けたりせずに、視線を上体をエレベーターの外に出している【多腕の大型マネキン】へと向ける。


 【多腕の大型マネキン】は、型で作った様な顔っぽい凹凸を男に向けると、数多ある腕の一部を、男へと伸ばした。


 「さて、――」


 男は、特に構えていなかったとは思えない程に素早く、【多腕の大型マネキン】が男を周りから囲む様に伸ばした手を背後に残して、血液以外の着色の無い顔へと肉薄する。


 「――耐久実験・・・・といこうか」


 木製の柄を強く握り、黒く焼けた刃をのっぺりとした顔へと横薙ぎに叩き付ける。


 瞬間、爆轟が鳴り響き、接触した刃から爆炎が噴き出して斬り付けた箇所を焼く。


 刃を打ち付けた衝撃と噴き出した爆炎による反動で、大きく弾かれた斧に引かれる様に、身体を捻り回転しながら後退する男の前で、【多腕の大型マネキン】は仰け反る様に顔を上げ、本来の物だろう頭部と同質の手で斬り付けられた場所を押さえ、残りの身体を支えている物以外の使っていなかった手を、男が直前までいた場所へと叩き付ける。


 轟音が響き、床が大きく揺れる。


 【蘇芳】と【粉擬】は、それに軽く足を取られるも転倒はせずに逃走を継続する。


 背後の【猟犬の召喚獣】が何かしたのか、背後から空間の奔流が通り抜けるも、側の壁が隆起し歪んでも【蘇芳】と【粉擬】に特に影響は発生していない。


 『そ、の、ま、ま、つ、っこ、むのだ』


 二人は、目の前の戦闘に突っ込んて良いものかと逡巡するも、そもそも時間も逃げ場も無い。


 『ザザッ、ブツッ。【Dr.アレク】、擦り付ける・・・・・ぞ』

 「やっぱり、ソイッ等!!テメェ関係か。【犬っころ】ぉ!!」


 短い接続音の後に、先頭の【猟犬の召喚獣】の口から【猟犬】の声が流れる。


 其れに対して【Dr.アレク】と呼ばれた男は、床の振動を跳躍する事で回避し、【猟犬の召喚獣】越しの【猟犬】の言葉に返しながら壁や天井を蹴り、上下反転した姿勢で身体を捻り、勢いを乗せた斧をアンダースローで【多腕の大型マネキン】へと投擲する。


 回転しながら、緩い弧を描いて一度沈み、浮かび上がって落ちる奇妙な軌道で飛ぶ斧は、【多腕の大型マネキン】が防御する為に翳した甲殻類じみた鋏のある腕に当たると、再び爆炎と爆轟を放って弾かれる。


 「つぅか、人に擦るとか良い度胸じゃねえかぁ~?おい」

 『お前なら問題無いだろ?』


 【Dr.アレク】は文句を言いながら、頭頂部辺りに生える触角をウニョウニョと揺らし、妙にカサついた素早い動きで、捻りと回転で体勢を戻しながら、単に弾かれたにしてはかなり滞空していた斧を回収する。


 確信している様に笑う【猟犬】に、【Dr.アレク】は舌打ちする。


 斧から発生した高温によって蒸発した体液と、焼けた甲殻から発生した白煙が、煙幕の様に【多腕の大型マネキン】の姿を覆い隠し、其れを突き破って数本の腕が伸びる。


 「チッ、巫山戯ろ【駄犬】が」


 其れを身体の動きと足運びで躱し、左腕の装甲で受け流し、其の動きを乗せた右手の斧で弾き逸らして、脚力と斧から発生したエネルギーを推進力にして潜り抜けて【多腕の大型マネキン】に向かって踏み込んでいく。


 爆発の残り火と薄らぐ白煙を振り払う様に引いた、縁が黒く焼けた深い切創が刻まれ、其の周囲の甲殻に亀裂が広がる腕を一気に伸ばして、大きく開かれた鋏が、姿勢を低く駆ける【Dr.アレク】へと迫る。


 他の腕で直前まで隠し、其の隠す役目を終えた腕が逃げ場を奪う様に面で追随する必中だろう一撃。


 「――助けろ・・・

 『――《髢九¥髱槭★縲∵挙縺冗黄其は開くのでは無く拓く物霍ッ蠑輔″蟆弱¥迚ゥ路引き導く物雕冗?エ縺ョ霆瑚キ。縺ォ髱槭★其れは軌跡に非ず騾イ霍ッ縺ィ莠代≧蜷阪?謖??荵進路と為りて指し示す物謨?↓豁ゥ縺ソ繧帝仆繧?驕鍋炊縺ッ辟。縺故に歩みを阻む道理は無し》ッ!!』


 ――其れが到達する前に【Dr.アレク】は立ち止まると、動きを止めた触角の先からあおぐろい靄が溢れ出す。


 其の内に黄金の眼が垣間見える靄から、【猟犬】の力強い詠唱が響くと同時に、黝い靄が天井まで吹き上がりながら真っ直ぐに正面に奔り、其れを中心に・・・・・・通路ごと・・・・左右に分かれる・・・・・・・


 【Dr.アレク】は【猟犬の召喚獣】と共に奔る線の中へと入って再び駆ける。


 明らかに左右に拡がった通路の中を伸びる何本もの腕は、中央を奔る線が存在しないかの様にすり抜けて進み、線の中を走る【Dr.アレク】と【猟犬の召喚獣】に触れる事無く通り過ぎて、鋏はガチンッ!!と音を立てて閉じて床を打ち、追随する腕は標的の居ない空間や壁を撫でる。


 取り敢えず、必中に等しい攻撃を躱したとは云え、いつまでも線の中にいる訳にはいかない。


【Dr.アレク】は、其処で漸く【蘇芳】と【粉擬】へと、明確な意思を持って視線を向ける。


 「おい、お前等!!」

 「あ、アタシ達!?」

 

 突然話し掛けてきた事に狼狽える【蘇芳】を気にする事無く、【Dr.アレク】は線から出て、引き戻されていく腕と腕の間にある、人一人が潜り抜けられる程度の隙間に滑り込んで【蘇芳】と【粉擬】に出ると、二人に話し掛ける。


「あぁ、お前等だ。


 おい【犬っころ】、引き受けてやるから手伝え」


 視線を僅かに逸らして、後ろにいる【猟犬の召喚獣】に軽く命令すると、【猟犬の召喚獣】は不快気に小さく唸る。


 然し、背後の【管理番号:2091】と、正面に見える、引き戻した腕を突いて、焼け焦げた浅い切創が眉間に刻まれた顔をこちらに向ける【多腕の大型マネキン】の姿を見て、仕方ないとでも言いたげに鼻を鳴らした。


 『ちゃんとやれよ』

 「誰に言ってやがる。寧ろ、お前が足を引っ張らないか不安だぜ?【駄犬】」

 『言ってろ。【問題児】』


 ニヤリと笑い合う【猟犬の召喚獣】と【Dr.アレク】を、走りながら不安そうに見る二人だったが、少なくとも戦闘能力は十分にあるだろうと考え直す。


 「えっと、取り敢えずは宜しく」

 「あいよ。兎に角、真っ直ぐ走りな」


 【Dr.アレク】の言葉を聞いて、二人は通路の先を見る。


 上体の殆どをエレベーターの中から出した【多腕の大型マネキン】は、良く見れば、全ての腕の根元は異常に変形した両肩の二点であり、更に腕の関節部分も増加させる事で、本来であれば可動域が極めて狭くなる問題を軽減している様だ。


 僅かに見える、未だエレベーター内にある下半身は複数の脚が集まった物に見えるが、仮面じみた頭部と上体から生える腕で隠れて細かくは見えなかった。


 更に其の向こうの奥に伸びる通路には、先程まで【Dr.アレク】を手助けした【猟犬の召喚獣】が【蘇芳】達を待つ様にこちらを見て漂っている。


 『《髢九¥髱槭★縲∵挙縺冗黄、――』


 【Dr.アレク】は一度左腕の装甲に斧を打ち付けて小さな爆発を起こしてから、反転して【多腕の大型マネキン】に向かって駆け出し、こちら側にいる【猟犬の召喚獣】が《魔術》――《間開の路引き》を再度詠唱する。


 「――――ッ!!」


 【多腕の大型マネキン】が、其の詠唱が何か理解しているのか、明確に向かってくる【Dr.アレク】では無く、詠唱者たる【猟犬の召喚獣】へと顔を向けて、腕を動かしてゆっくりと這いずり始める。


 そして、其れだけでは終わらない。


 顔の口に当たる部分が横に罅割れると、其れがボロボロと破片を溢して開き、鳥籠の様な格子状の金属の骨組みに囲われた、いびつに歪められた干乾びた人間の頭部の集合体が、口内から露わになる。


 手始めに【多腕の大型マネキン】は、愚かにも真っ直ぐに近付いてくる【Dr.アレク】を今度こそ叩き潰そうと、移動に使っていない手を開いて伸ばす。


 【猟犬の召喚獣】が側に居らず、支援を直ぐには受けられないだろう状況で、正面の空間を面で押し潰しながら開いた手が迫る。


 「やっぱり、碌な物じゃねぇ、なッ!!」


 再度、左腕の装甲に斧を打ち付ける。


 爆炎に焼かれた熱が残る空気の中に踏み込み、獰猛な捕食者じみた笑みを浮かべて斧を全力で投擲する。


 宙を真っ直ぐに奔り、一番先にある手を穿ち爆発する。


 ほぼ同時に、踏み出した脚で床を強く打つ。


 瞬間、【Dr.アレク・・・・・・の姿が消え・・・・・、|【多腕の大型マネキン・・・・・・・・・の顔の下に・・・・・現れる・・・


 「――よう」


 姿勢は低く、身体を捻り下げられた左腕は大きく引かれ、次の行動が何かが容易に想像出来る。


 思い出した様に、ゴウと強い風が【Dr.アレク】の背中から【多腕の大型マネキン】へと吹き抜ける。


 【多腕の大型マネキン】は想定外の事態に、僅かに身を引いて硬直する。其の致命的決定的な隙を、当然【Dr.アレク】は見逃さない。


 「かち割れなッ!!」


 左腕を【多腕の大型マネキン】の顎辺り目掛けて振り上げる。


 左腕の装甲――【吸衝充填式13型穿杭殻】に装填された杭が、【多腕の大型マネキン】の顎を打つと同時に、機構が稼働し今迄蓄積されていた【衝撃】を炸薬にして射出される。


 杭は顎に食い込み、更に一点に籠められたエネルギーは、衝撃となって真っ直ぐにその先へと奔る。


 「―――ッ!?ゴパァ……ッ!!」


 脳天まで突き抜ける衝撃を受けた【多腕の大型マネキン】は、下顎を打ち上げられて罅を広げながら無理矢理閉じられ、通り道にあった一部の頭部が崩れて、内部から粘度のある赤黒い淀んだ腐血を穴から漏れ出させて、遅れて開いた口から吐血する様に吐き出す。


 勢いのまま天井に打ち付けて頭頂部が砕けた【多腕の大型マネキン】は、何本かの腕を肩から脱落させながら、気絶した様に脱力して倒れ始める。


 其れに巻き込まれては堪らないと身を翻して退却する【Dr.アレク】は、床に転がる腕を避けながら、直ぐ側まで来ていた【蘇芳】と【粉擬】の姿を見て軽く息を吐く。


 「今の内に行け!!」

 「分かった!!」


 【Dr.アレク】のその言葉を聞いて、二人は口から液体を零す【多腕の大型マネキン】を避けて壁際に身を寄せて通り抜ける。


 『ほらよ』

 「お、手間省けたわ」


 《魔術》の詠唱を囮にして視線を向けさせたヘイトを稼いでいた【猟犬の召喚獣】から、道中で回収していたらしい斧を受け取り、【蘇芳】と【粉擬】の後を追う。


 【蘇芳】と【粉擬】が問題無く来た事を確認して奥へと移動し始めた、先に向こうで待機していた【猟犬の召喚獣】に続いて駆ける二人と、其の後を追う【Dr.アレク】ともう一体の【猟犬の召喚獣】が脇を抜けた辺りで、【多腕の大型マネキン】が腕を突いて起き上がり始める。


 そして顔を向け、向き直って追跡をしようとした時、先に後を追っていた【管理番号:2091】が、腕を伝って、或いは天井から落ちて【多腕の大型マネキン】へと集り始める。


 最初は気にする様な物でも無いと無視しようとした【多腕の大型マネキン】だったが、直ぐに自身が喰われている・・・・・・事に気付いた。


 ガリガリ、グチュグチュと体表を削り喰む音が至る所から聞こえるが、其れ以上に問題なのは、【魔力・・も一緒に・・・・吸い上げられて・・・・・・・いる事だ・・・・


 振り払おうにも、既に全身を覆い隠す様に纏わり付かれて、其れも難しいだろう。


 蠢く蛆に沈んだ【多腕の大型マネキン】は、其の状態のまま、緩慢に移動を始めた。

――――――――――――――――――――――

 因みに、【Dr.アレク】さんは滅茶苦茶舐めプしてます

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