File.1自故物件【グラウハイム305号室】の調査
第7話 自故物件【グラウハイム305号室】
翌日の9時半頃、【豹ヶ崎】は【特事課】の敷地前に来ていた。
時は戻り、今朝6時頃に自宅にいた【豹ヶ崎】が持つ【支給端末】のスマホに【
少し気合を入れてメールを開いて内容を確認すると、
『【グラウハイム305号室】内に発生する異常について調査を行います。今回は事前に打ち合わせが行われていない為、10時迄に【特事課】に直接お越し下さい。
追記:前回支給した備品を持って出社し、到着したら敷地前で待機する事。もし、私が来る様子が無いと判断した場合は、【支給端末】でメールを送る事』
と書かれていた。
時間的余裕もあったので、家の事を一通り熟して電車とバスを利用して出社し、現在に至る訳だ。
立ち止まってスマホで時刻を確認して辺りを見回す【豹ヶ崎】の耳に、近付いて来る車のタイヤが地面を擦る音が聞こえてきた。
視線を向けると、敷地内から白いバンが割と速い速度でこちらに向かって来て、【豹ヶ崎】のいる敷地に出入りする為の門の近くで急ブレーキを掛けて、タイヤを高く鳴らして引き摺りながら停車させる。
「お早う御座います、【暗猫】。待たせましたか?」
バンから降りて、左肘でバンに寄り掛かって身体ごと傾いた頭を支え、脚を交差させて真顔でチャラ男じみた割とダサいモーションでデートの待ち合わせみたいな事をほざいた【
「いえ、丁度今来た所です。其の車は?」
「社用車ですよ?此の業界で自家用車とか使ってられないので。
では、早速乗って下さい」
【豹ヶ崎】はぶっちゃけ、今見た運転の時点で絶対に荒いので乗りたくなかったが、車内でほぼ確実に此れから向かう先に関わる内容の打ち合わせが行われるので、顔には殆ど出さないが、嫌々助手席に乗り込んだ。
急発進するかと思ったが、思いのほか静かに走り出して普通に安全運転で走行して少しして、【一】が【豹ヶ崎】に話し掛ける。
「グローブボックスに今回の資料が入っているので、眼を通しておいて下さい」
【豹ヶ崎】は言われた通りに、眼の前のグローブボックスからファイルを取り出して中を見る。
【【グラウハイム305号室】調査依頼】と云うタイトルの其れは、どうやらマンションの一室についてらしい。
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【報告対象】:【グラウハイム305号室】
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【リスクレベル:Safe】
【特殊分類:N/A】
【拡散度:1】
【精神干渉力:White(限定的Grey)】
【現実干渉力:Infrared(限定的Red)】
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・【確認された異常実体】
・【生存している様に見える死んだ筈の【
・【各部屋に存在する自殺の痕跡と、其れによる劣化しない屍体(注意:屍体に触れない事)】
以上
・【確認された異常】
・【部屋の屍体に接触すると、其の屍体の自殺過程を接触者に転写する。退室する事で対処可】
補遺:暫定的に【屍体】と呼んでいるが、正確には屍体になる直前の状態を延々と引き伸ばされた生者の模造品と思われる。故に、死因は
・【【
補遺:彼は自身の屍体が認識出来ない。つまり、認識出来た彼自身の屍体は、彼の死因となった屍体では無いと推測出来る。
最終編集:R6/03/17
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・追記:新人の為に此れを情報制限してやらせるとか、其奴の担当している奴は正気か?
兎に角、一応、対処完了になっている事案なんだから、今更になってインシデントだけは起こすなよ。
担当職員:【鎮圧部隊:【黄泉軍】】所属 【菊華】
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「あ、ヤベ」
「え?」
一枚目を捲り、二枚目の書類を見た瞬間に隣から聞こえた声に、【豹ヶ崎】は【一】を見る。
【一】は前を向いて、視線すら隣にいる【豹ヶ崎】には向けないが、どうも頬が引き攣っている様に見える。
「えっと、そ、そろそろ到着しますよ!!」
誤魔化した。……そもそも打ち合わせしてなくないか?
「あの、打ち合わせは?」
「……あぁ〜、そうでしたね。
まぁ、二枚目にある通り、一応は対処完了となっている事案なので、私は完全に問題が起きそうな時だけ口を出します。
そして本来ならば出さない、と云うか
【暗猫】、今回の目標は【対象の本当の死因を特定する事】です」
其れから暫く走って、それなりに築年数が経っている事が分かる、灰っぽい色合いのタイル貼り外壁の5階建てのマンションと呼ぶには低いか?と思う様な建物の前に到着した。
「此れを持っていって下さい」
そう云われて【一】に渡された鞄の中を確認すると、どうやら消臭剤や清掃の道具らしい。
つまり、其の様な作業をするのか?と【豹ヶ崎】は思いながら、先に降りてエントランスに向かう【一】を追う。
一応は防犯対策として導入したのかオートロック式の自動ドアの部屋番号を打ち込む為の
何処か古さを感じるエレベーターに乗って3階へ行き、部屋番号が書かれたプレートを横目に目的の305号室の前に来た。
カメラの付いたインターホンを鳴らして少し待った所で、『はぁ〜い』と先程聞いた男の声が聞こえ、扉が開かれる。
開かれた扉から現れた其の男は、長い間日光を浴びてない様な不健康な蒼白い肌は、何処かゴムに似た印象を受ける。愛想笑いなのか口角を上げて歪に笑う黄ばんだ尖った歯が並ぶ口は、奇妙にも前に突き出しており、犬か何かに近い面影を感じさせた。
まともに洗い流されずに蓄積したと思われる脂によって不快な光沢を持つ髪を、ボリボリと掻く筋張った枯れ木の様な手の爪は手入れされておらず、伸びた爪が鉤爪の様にも見えた。
絵具か何かの染みや粉っぽい何かで汚れた前掛けとヨレヨレのシャツは、未だ肌寒い時が多い此の時期に対して明らかに薄着に見える。
其の男は、決して玄関から出て来ようとする素振りが無く、ただ鼻を衝く悪臭がその男の向こうから流れ出す玄関の手前に立っている。
眼の前にいる、病的な痩せぎすの若者にも老人にも見える此の男こそが、恐らく【
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