発見2
俺は基本的に他人の言葉を信じない。
人間の耳はただ聞くという受動的な役割だけだ。耳では意志は伝えら
れない。
耳だけからの情報で相手を理解するには熟練の訓練が必要だ。
また、口はほんの少しの感情と共にただ一方的に脳の指令通り動くだ
けだ。
しかし、目だけは、相手に意志を伝えながら、相手の意志を受ける事
ができる。さらに、全く反対の態度、つまり受動と拒否が同時に出来る
のは目だけだ。
俺はもうここで無駄な時間を費やすのは意味がないと考えた。
そして俺は彼女の目を見ながら、単刀直入にこう言った。 「君は、俺が誰で、仕事は何で、今、何を探しているのかを知っているね」
彼女の目は、驚きを隠そうとしながらも、その瞳はイエスだ。
そうだ、彼女は知っている。
俺は彼女の瞳の奥を再び凝視した。
驚き、脅え、戸惑い、そして最後にはハッキリと自分の意志を話す決
意の意志が彼女の瞳に見えた。
「知っているわ。貴方の名前はヒョウ。ボディパーツ屋さん。現在探し
ているのは15歳の女の子の右手。それも非合法なアイルランド国籍の
物......」
「なるほど、しかし非合法というのは正確ではないな。例えばUSA
ここでは合法だからね」
「......で......見つかったの?」
俺はここで正直に答えるべきかどうか迷った。
正直に答えた場合のプラスとマイナス、嘘をついた場合のプラスとマ
イナス。
今度は彼女が俺の瞳の奥を凝視し始めた。
彼女の瞳の奥には哀しみと忍耐があった。
俺はふと、ひょっとしたら彼女は幼い頃に俺と同じ境遇で育ったので
はないかと思った。
孤児院で生きていくための心の鎧として哀しみと忍耐が必要不可欠だ
からだ。
俺は思わず本当の事を言っていた。
「いや、残念だがまだだ。しかし諦めたわけではない」
「そう、まだなの」
彼女は明らかに落胆していた。
なぜ落胆を?
アイルランド政府やロンドン警察の関係者なら今、俺が今ブツを持っ
ていなくても落胆はしない。
彼らはまずしょっぴいてから、事実関係を完全に調査して俺が非合法
をしていないという事を確認した時に落胆する。
でも、今彼女はがっくりとしている。
なぜだ? 一体彼女は誰だ?
「......で、君の本当の名前は? 俺に近づく目的は何なんだい?」
彼女は、一番奥のテーブルに向かってグラスを持って、俺に目でつい
てくるように指示した。
もちろん、俺もビンを持ち上げてついて行った。
この時には、後で俺は彼女の話に驚愕することになるとは思いもよら
なかった。
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