私、こんな作品知りません!!

花唄まじり

第1話


(あーーあ、私死んじゃったんだ。ん?なんで死んだんだっけ、?まぁ…いいか。死んだんだし。でもどうせ死ぬんだったら転生とかしてみたいなー、可愛いドレスとか着ちゃったりして。そういや絵描きたいなー、久しぶりに漫画も読みたいし。あれ、死んだら私の部屋ってどうなるんだ?そういや見られて困るものとか、、心当たりが多すぎる…!!!スマホもか、!?まずいこのままじゃ死んでも死にきれない!!!!!!!!)


 ……ッ?!


まるで恐ろしい夢を見ていたかのような激しい焦燥感と共に飛び起きる。治まらない動悸の乱れに混乱しつつ、辺りを見回すとそこには到底自分の部屋とは思えない「お嬢様の部屋」という空間が広がっていた。それも中世の西洋美術で見るような装飾品で飾られた栄華の象徴みたいな部屋だ。深紅というべきだろうか赤というよりも紅という印象である色と純白だけで構成されて一体感がある。隅々まで綺麗に清掃され、すべてが日の光を反射して輝いているように見える。


(マジですごすぎる…………。なにここ、天国か何か………?)


さっきまでの焦りも忘れ、部屋の中を無我夢中で見て回る。まず目に入ったのは私を見下ろしている如何にもお嬢様か、どこぞの姫様が使うみたいな信じられない大きさのドレッサーだった。三面鏡のようになっているそれは木製で全体に精巧な草花の彫刻が施されていた。また、三面鏡の扉にはつまみがついていて、赤い宝石(宝石に詳しくない私にはルビーっぽい?としか言えないのが悲しい)が嵌っている。そして私は吸い込まれそうな美しさを放つその宝石に操られたのか、自然と扉を開いた。


「わ、、」


鏡だと思って開けたはずなのにそこにあったのは赤い目をもつ少女の絵画だった。驚いたような表情でこちらを見つめる長い黒髪の少女は正にこの部屋のために作られた人形みたいに息を呑むほど美しかった。あまりの美しさに声が零れ、それと同時に絵画の少女も口を動かす。もしかして鏡なのか?さっきよりも益々目を見開いている少女の表情は彼女の美貌にはそぐわず、とてもチグハグに見えた。まるで表情だけ一般庶民、、そう、私のような!!!!!


 まずは少し、状況を整理しよう。もし仮にこの神秘的で太陽を閉じ込めたみたいな瞳を持つ濡れ羽色のロングヘア美少女が私だとするならば私は転生願望を叶えたことになる!だがしかし、このままではまずい事がある。それは、この美少女に見覚えがあっても私が西洋のロマンス小説及び漫画を読みあさってるが為にどの作品の登場人物か分からないという事だ。しかも経験上もとい今まで読んできた転生系の作品にはゲームの中に転生した方々や自分の作った物語の中に転生した方々もいらっしゃるのだ。今思い返すと、こんな訳もわからん世界に放り込まれて家族と仲良くしようとかご機嫌を取ろうとか生き残る方法を直ぐに考えつくなんてものすごい能力だと思う。今まで、「私ならこうするのにー」やら「鈍感すぎんだろ!」等々自分が転生系物語につぶやいていた言葉を思い出すと転生系ヒロインやヒーローが本当に居た堪れなくなる。申し訳ありませんでした!!先輩方!!


 「お、お嬢様…?!」


 いきなり現れたメイド服を着た三つ編みの女性(おそらくこの家のメイド)に驚いて勢い良く立ち上がってしまった私は、


 「な、なんでもないですわ…!!!」


とっさにでた言葉はとてもそれらしいといえばそれらしいのだが明らかに違うだろ!といったものだった。というか、ノックぐらいしてくれ!


 「お嬢様、申し訳ございません。廊下で掃除をしていたところ、お嬢様のお部屋から大きな物音が聞こえたので思わず、、。本当に申し訳ございません。」


 新人なのだろうか、少し違和感を覚えたがここは抑えていこう。


 「大丈夫よ。次からノックして貰えればいいから。ええと、」


 メイドの名札を確認して、

 

 「アンナ。」


 私がそう言った途端にアンナの顔が一瞬、固まり、表情が曇ったようだったが直ぐに笑顔になった。


「はい!以後気をつけます。なんだか、お嬢様いつもよりも雰囲気が柔らかく、お優しいし、明るいですね!何か良い事でもありましたか?」


 失礼だな。いや、でももしかして私って普段はものすごく冷たかったりするのかもしれない。それこそ悪役令嬢みたいに。何かと抜けているこのメイドなら直ぐになんでも話してくれそうだ。


「そんなにいつもと違う?確かに気分はいいけど、例えばどこが違うとかあるかしら?」


「んーーと、なんでしょう。いつもはクールな感じですけど今のお嬢様は可愛らしいですね!!私は今日のお嬢様がとても素敵だと思います!あ、もちろんいつも素敵ですが!!」


 「あ、ありがとう。じゃあ、私は大丈夫だからお仕事頑張ってね。」


 そう答えるとメイドは元気100%といった感じで返事をして部屋から出ていった。


 なるほど、、、。具体的…ではないけどこの美少女はクールキャラということは分かった。それにメイドに虐げられてるとかでもなさそう。あとは家族か、、。家を見て回れば何か見つかるかもしれない。漫画とかでよくあるのは書庫の本で何か情報を得るパターン。幸運なことに、私には前世からの抜群の記憶能力が備わっている!はず…。ひとまず、私が何令嬢かを知らなくちゃいけないな。家からしてどこかの令嬢であることは間違いないと思う。だけど、公爵令嬢と子爵令嬢とかじゃ全く立場が違う。なるべく高い位で侯爵くらいだといいんだけど、、。考えても仕方ないし、とりあえず書庫を探すことにしよう。頼んだぞ、私の記憶力!


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