13 タンデム

 部屋に荷物を取りに帰った。

 階段の下に翔くんのバイクが見える。デザインはまぎれもなくオートバイだが、なんだか小さい。そしてピンクのナンバープレートがちょっと可愛い。イタリア製だと言っていた。その値段は、高いのか安いのか私には分からない。

 ときどき二人乗りをした。緑の木々に囲まれた峠のワインディングロード、夕日を背に受けて潮風と一つになる海沿いのバイパス。でも、スーパーへお買い物に行くだけでもいい。パワーがないからキツいって言いながら、翔くんは楽しそうに笑うから。ヘルメットで見えないけれど、私には分かる。

 大きいのにしないの、って訊いたら、好きじゃないんだ、と答えた。身の丈に合った、隅々まで手の届く大きさ、重さ。そんなマシンに、おまえと身を寄せ合って乗る。それがいいんだ。

 鍵を開けて、少し軋むドアを開いた。色とりどりの靴が乱雑に転がっている。ほとんどがスニーカーだ。隅っこに私の靴が一足だけきちんと置かれているが、その上にも翔くんのものがのしかかっていた。

 二人暮しなのに、そこだけ見ると一クラスまるごと遊びに来ているかのようだ。

 靴は体の部品なんだ。

 彼はよくそう言う。

 服はある意味、なんでもいい。寒さがしのげれば、デザインなんかどうでもいいんだ。でも靴は違う。運動性能に関わる。歩き方、いては生き方に影響を与えるんだよ。いい加減なことはできない。そして、服以上にその人物の内面が出る。もう一つの顔なんだ。

 キッチン周りはきれいに片付いている。広くはないが、守備範囲に全てがそろっていて使いやすい。

 翔くんが一人暮らしを始めた頃、この部屋には調理器具が何もなかった。包丁すらもだ。食事はカップ麺かコンビニ弁当。朝はソフトクッキーや菓子パンだった。

 珈琲だけは少しこだわっていて、インスタントは絶対に飲まなかった。豆で買ってきてミルで挽いて淹れていた。

 ここへ来る度に、私が道具や調味料を充実させていった。食器はタンデムで百均に行って買いそろえた。翔くんは、食器が安物なのは気にしなかった。

 ガスレンジは二口だ。三口のIHの方が便利だけど置き場所がない。それに、翔くんの好みに合わせて焼きそばを作るならこの火加減、生姜焼きはこのぐらい、というのを手が覚えているから、変わると困る。

 洗濯カゴはそろそろいっぱいだった。油断するとすぐに溜まる。明日も晴れるといいんだけど。室内干しはなるべくしたくない。

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