第6話 ハイ・ゴブリン
ペナルティを食らったあの日から、俺のダンジョンマスターとしての生活は順調に進んでいる。
E級冒険者は現れなくなり、代わりにD級の冒険者がソロだったりパーティを組んでやってきたりしたが、特に困った事にはならなかった。
逆に一人あたりのDPが豊富だから、一旦止めていた魔物の召喚と強化を行えたくらいだ。
一応一匹ずつ召喚して、それぞれに900DP…合計2700DPを消費して、九回の強化を行った。
つまり、全能力値が90%上昇している。
ゴブリンはE級の冒険者ならば急所を狙わずとも一撃で即死させられるようになり。
スケルトンはD級冒険者に致命傷を負わせる膂力を得て。
スライムは透明度が増し、ぷにぷに感も増し抱き心地が良くなり。
そして俺はC級冒険者を倒した事により、左脚の枷が解放された。
案の定鉄球が出てきただけだったが、両足の解放によりバランスが保てるようになった事でできるようになったことがある。
一度は考えたんだ、この鎖と鉄球を使った頭の悪い戦法を。
___ブレイクダンスしてる時の足に鞭とか鎖鎌付けたら滅茶苦茶無双出来そうじゃないか?
その戦法は意外にも刺さりまくった。特にパーティ戦では。
ブレイクダンスと呼べるものではない、ただ逆立ちしながら足を広げて回転するだけというだけのものだったが、鎖の伸縮が俺の意思により自由自在な為壁に逃げ込もうが至近距離にいようが悉く鉄球の餌食となる。
更に言えばC級冒険者はこれで倒した。
500DPという破格なポイントを落としてくれたあの男の末路は酷いものだったな…俺がやったんだが。
まさかあの男が弾いた鉄球が鉄球を弾き、そのまま跳弾のようになった鉄球の片方が男の股間をぶち抜くとは思わなんだ。
思い出すだけで寒気がしてきた。考えるのはやめておこう。
今は目の前の事だ。
「ギ」
心なしか筋肉質になったゴブリンが俺の前で首を傾げながら立っている。能力が上がってから最初のような陽気さが無くなり、頭を撫でてやっても小躍りはしなくなった。
滅茶苦茶耳は動くけどな。
しかし俺の目はゴブリンに向いてなく、ウィンドウに向いている。
『ゴブリンの進化が可能です。:必要DP500』
これはスケルトンにもスライムにも表示された画面だ。
現在の残りDPは530。一応俺の強化用として貯蔵していた。出来ればそのまま俺の強化に使いたい。
しかし、今になって出てきた進化という単語に心が躍っているのだ。
ゴブリンが進化すればどうなるのだろうか。能力のアップは当然として、何か特殊能力が出てきたりするのだろうか。
でも、500Pはデカいよな…。
…。
「やるか」
「ギ?」
「エンター」
進化を決行するワンワードを唱えた。
すると、目の前のゴブリンが突然地面に飲み込まれて…いや、違う。吸われている。
「ギ」
そして目の前のゴブリンは特に慌てる事なく沈んでいく。俺と、同僚であるスケルトンとスライムに別れのようなものを告げて、そのままダンジョンへと吸い込まれた。
暫く待つ事数秒。
吸われたゴブリンがいた場所を不思議そうに石剣で突くスケルトンを見ながら寄ってきたスライムを抱えて撫でる。
そして、その場所に鬼の紋様が刻まれた魔法陣が現れた。
そしてそこから出てきたのは…。
「ギ!」
鳴き声はそのままに、デカくなってマッチョになったゴブリンだった。その傍には馬鹿デカい棍棒がある。
「…随分と見違えたな」
「ギ」
しかも声が渋くなるおまけ付きと来た。
最初の時のように、何かをしてみろと命令してみる。
「…フン!」
ふむ…攻撃手段こそ変わらないが、威力が桁違いだ。特にあのデカい棍棒の一撃は、俺でも軽くはないダメージを負うだろう。
恐らく、冒険者の等級で表すなら間違いなくC級以上は固いだろう。
「しかも、だ」
再召喚・追加召喚の必要DPは変わらずの50。つまりさっきの500Pがあればコイツを十体召喚できる。
D級冒険者を圧倒するゴブリンが進化し、恐らくC級とも渡り合える存在となったハイ・ゴブリンが十体。くくっ、良いぞ、これは大きな進歩だ。
俺はチラリとスケルトンとスライムを見る。
攻撃力特化のスケルトンと、奇襲と搦手と抱き枕のスライムが進化すれば、果たしてどうなるんだろうな。
次の500Pが楽しみだ…。
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