別れの花が咲く季節

秋葉原龍之助

卒業

 私は明日、中学校を卒業する。それなのに実感が一ミリもわかない。なぜだろうか。卒業式練習もたくさんしたのに、学年解散式も学級解散式もやったのに、それなのにまだ実感がわかない。


 明日、私は卒業する。


 そう心に言い聞かせても何も感じない。そもそも、明日、私が卒業する姿が想像つかない。


 友達に別れの手紙を書いてもまだ実感がわかない。


 結局、翌日の朝になっても実感はわかなかった。卒業式は午後から。緊張はしていない。ゆっくりと起きて、午前中をだらだらと過ごす。休日の日のように。


 そこから、実感がわかないまま、卒業式が終わっていく。もちろん、卒業式の間も実感が一切わかなかった。悲しいという感情すらわかない。まるで、卒業式を発表会のように感じていた。


 でも、友達は目の前で泣いている。私の目からは涙が一粒も流れてこない。なぜ、こんなにも泣くことができるのか。私にはわけがわからなかった。


 私はその日に好きだった人に告白をした。私の恋はあっけなく終わってしまった。ただ、私はその時も泣くことがなかった。


 そこからなんとなくときを過ごし、その日が終わる。


 卒業から十日経った日。ようやく、卒業した実感がわいてきた。学校でいつも話す人たちとも会えない。もう、その人たちに理由もなく会うことは許されない。そう思うと、心が痛くなり、さみしく感じる。


 しかし、一体どうしてここまで実感がわかなかったのか。


 それはきっと、学校で見たり過ごしたりした光景を当たり前にあるものだと勘違いをし、その日々が永遠に続く、と心のどこかで思っていたからではないだろうか。


 ああ、なんでもっと早くに気づかなかったのだろうか。誰もいない部屋で静かに呟き、涙を流した。


 そして、馬鹿みたいな勘違いをしていた自分をぶん殴ってやりたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

別れの花が咲く季節 秋葉原龍之助 @Feaja

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ