Pioneer
武井
Pioneer
世界的に見れば日本人は小柄で運動能力に劣る。
フィジカルの強さがモノを言うバスケットボールの、それも世界最高リーグであるアメリカNBAにおいて日本人は絶対に通用しないと言われていた。
日本では流麗なボール捌きと稲妻のようなスピードを武器に中学、高校、社会人と様々なタイトルを総なめにして、向かう所敵なしだったその男も例外ではなかった。
アメリカ挑戦も最初は練習にお試しでの招待。
NBAの試合に出られる登録メンバーの座は掴めず下部リーグに入団。
下部リーグで結果を残し、再度NBA挑戦。
やっと複数年契約と、登録メンバーの座を掴んだ。
国内で敵無しの男でも下部リーグで地道に努力と結果を積み上げて、そこで初めて契約を掴めるような、日本人にとっては本当に高い壁だった。
しかしそこは生き馬の目を抜く世界。
身体能力に優れる外国の選手だろうと試合に出ることなく数日で解雇されるのが当たり前で、契約を掴んだからといって日本人が試合に出られる保証などどこにもなかった。
それでもその男は言った。
「日本人一番というのはこだわっていた部分です。僕が小さい頃に上の人に憧れていたように、今、子ども達が僕みたいになりたいと思ってバスケを始めたり、続けてくれたらと思います」
コートに立つことなくチームを去るおそれなど微塵も見せず、母国の少年少女へエールを送ったのだ。
そして2004年11月3日。
身長は2mを超え、垂直跳びでは1mを跳ぶような怪物たちのひしめく異国のコートに、170cmそこそこの体躯に「1」の番号を背に纏ったその男は、日本人最初の一歩を踏み入れた。
日本時間では4日の深夜1時、2時。
眠い目を擦りながら衛星放送されるその姿を目に焼き付けた少年少女は私だけではないだろう。
あれから20年。
その男は44歳にして未だ現役選手として日本のコートに立っている。
何万回もパスをし、
何万キロもドリブルをし、
何万本もシュートを放ち、
続く日本人へ希望を見せた。
今なお褪せぬ輝きを放つその男。
田臥勇太。
私の永遠のアイドル。
Pioneer 武井 @cate0315
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます