第12話 生活

12話 生活

 男に犯されている最中時々リョウは部屋の角を見た。そこには布団を必死に被り震えるユズキがいて、物音が静かになると顔を出し行為が終わってないと分かるとまた隠れる。

 ユズキのその行動に男は全く気にしていなかったがリョウはなんだかイライラした。胸の奥から来る侮辱が湧き出そうですぐに目をそらす。

 そんな中、急に男はゆっくりとリョウの体から離れる。

「……?」

 まだへばるのには早くリョウはまだまだ足りず、顔を見上げる。

「はぁ……なんか違うんですよ。なんだろう?」

 グイッと顎を後ろから持ち上げられ顔を覗かれる。気持ちいいともっと大げさに言って演技したほうが良かったかと考えながら彼の次の言葉を待つ。

「なんだろうな?なんかもっと病みつきになるような感じを想像してた。周りの言うことは当てにならないな。」

 頭を軽く掻きながら思い返すように空へと目線を向ける。リョウはそんな男にバカじゃないのかと呆れながらこの苦しい体勢から逃れることを考えたりした。さっさと終わらせて帰りたかった。わざわざめんどくさそうなストレートの男に付き合って時間を潰すよりハッテン場で遊べば良かったと後悔しつつ耐える。

「手ぇ……離せ。」

 苦しさをイラつきながら示す。彼の手に指をつんつんとつつき睨む。

「貴方って苦しい方が好きなんじゃないですか?だから選んだのに。」

「っ……こっちに集中してない奴からは……遠慮しておくよ。幾ら変態でも……プレイに満足して終わりたいんだよ。下手くそ……。」

 上手く適切な言葉が見つからず最後に相手をバカにしてリョウは眉間にシワを寄せる。

「……。」

 男は真っ黒な目でリョウを見下げ、男が僅かに口角が上がっているのを見てリョウは怒らせたかと身構える。

 男はリョウから離れてベッドの上から降りる。何も言わず自分の着ていたスーツのポケットを漁るのをリョウはじっと見ていた。基本的にもう何されても驚かないほど沢山のことをしてきたリョウは体勢を楽にしながらベッドの上で男を待つ。

 今度は何されるだろうと色々想像しながら背中をゾクゾクさせていると男はリョウに近づき顎を掴み無理矢理口を開けさせ何かを飲み込ませる。

「ぐっ……。」

 チラリと見えた錠剤と口に広がる苦味に一気に気分が冷めるリョウ。敏感なのかヤクを使っても気分が悪くなるかその後の倦怠感に耐えられない。

 どうせ質の悪い不純物たっぷりのヤクだろうと嫌気が差す。無駄に暴れることも今後のことを考えればめんどくさくリョウはそのまま大人しくベッドに横たわったままになる。

「なんだ思ったより大人しいですね?」

 男はそっとリョウの顔にかかった髪を指先でどかし耳にかけ顔を上から覗く。

「はじめてじゃないんですね。やっぱり。」

「……。」

「静かな方がいいですね。顔もよく見えますし。」

 そう言ってリョウの頬を撫でる。そんな男を睨みながらもこれから起こるヤクの効果について考えていた。いったい何を飲まされたのか。すぐ効果が切れるのか、その後は?どうなる?次第に嫌なことが思いついてきてそれをヤクの効果のせいとしながら目を閉じて早く終わることを願う。

 それからはもうほとんど記憶が無かった。いつの間にか高揚した気分は抑えられず、男に好き勝手されながらも頭はどんどん冴えていくようでありながらフワフワと夢を見ているようで温かかくも冷たくもあった。

 最中、男は何かずっと言っていた。途中からそればっかりになり先ほどまでとは違い体をくっつけたりキスだってしながらセックスをした。ヤクをやる前はキスなんてせずにさっさと本番へと入ったのにと思いながら終わった跡はぼんやりと天井を眺めていた。

 シャワーから出てきたのか男がリョウの視界に入ると笑いかけ、何かを言いながらリョウの体に触れる。まだまだぼんやりとした意識で、夢にいるような感覚でリョウは何もできずに天井と男を眺めていた。

 すると、突然男はリョウを持ち上げ部屋を出る。突然のことに驚くが手足を垂らしたまま運ばれる。そんななか後ろから足音がする。きっとユズキだろうと思いながらリョウはそのまま眠りについた。


 ――


 

 目を開けると強い虚無感と脱力感に襲われる。もう一度目を閉じようとするとリョウの前に男が立つ。

「起きましたか?気分は?」

「……。」

 男を睨みながら辺りを見渡す、見たことがない場所。寝室?暗い。などと考えていると男はため息をつき頬を叩く。

「っ!」

「しっかりしてください。いくら飛んでおかしなことをしても返事はしてもらわないと。」

「っう、どこ……。」

 思ったより声が出ず、しかも掠れた声で話しえづく。

「ここは俺の家ですよ。リョウさん。」

 男がリョウの頭を優しく撫でる。

 リョウの体はボロボロで手足は震えているし髪はボサボサ。でも服はしっかりと着せてあり、辺りを見ても綺麗に整頓された部屋で生活感が感じられず男の性格が感じられる。

「起きたならお風呂入ってくださいよ。」

 男は笑いかけながら言った。

 ノロノロと起き上がり腕を引かれながらリョウは浴室へ案内される。途中リビングを通るとそこにはユズキが部屋の隅でうずくまり何か呟いていた。しかし、そんな彼に見向きもせず男が引っ張るのでリョウは仕方なくついて行った。

 男はリョウの服を丁寧に脱がし白い浴室の白い椅子に座らせた。男はシャワーを手に取り温度を確かめるように手を伸ばさせる。

「どうですか?」

 微笑みかけてくる男にリョウは頷くと男リョウの頭からシャワーを浴びせる。思わず目を閉じ手を前に出すが男は手を掴み下ろさせ体を洗っていく。

 壁際の棚に四角いボトルが綺麗に四つほど並んでいて、それの一番左から液体を取り出しリョウの髪につける。

「自分で洗えない?無理そう?」

 リョウの髪を掴み目を合わさせる男。

「……っ。」

 震える手を伸ばし髪を触る。つけられたのはシャンプーだろうと泡立てるように指を動かすがすぐに疲れ休憩しながら洗う。

 チラリと男を見てはこいつは何がしたいんだろうと考える。味見する程度なら家になんて連れ込まないで捨てておけばいいのにと思いながら髪を洗う。

「そろそろいいか?」

 男はそう言ってシャワーを浴びせ泡を流す。それをコンディショナー、ボディソープと2回ほど繰り返して、全てが終わると男はリョウの体をタオルで拭きドライヤーで髪を乾かす。

「一通りの場所は覚えた?」

 ドライヤーが終わると髪を撫でながらそう言う。

「これからは自分でするんだよ?」

「……?」

 何を言っているのか分からないでいると男は微笑みながら言葉を続ける。

「貴方とセックスしてる時に思い出したんだ。家族のこと。貴方のことが気になったのはきっと俺に家族のことを思い出させるためだったんだ。」

 リョウはこいつが頭のイカれたヤク中ということまず疑った。でも、セックス中の彼の体、腕には注射痕は無かったしなと思い返す。

 そんな事を思いながらボケっとしていると男はリョウが聞いているのかも確認せず言葉をまだまだ続ける。

「俺の部屋でね、部屋の隅には大人しい犬がいて。俺の下には姉さんがいるんだ。」

 リョウはその話に眉を上げたが下品な所ではよく聞く話だと分かり興味を無くす。

「俺はまだあの時の姉さんに囚われてるんだ。それを直したくて普通になりたくてなりたくて。……貴方を見つけて本当によかった。貴方はあの姉さんに似てるけど違う。それでこそあの思い出を破壊できるんだ!」

 男の最初見せた物優しさは消え大声で訴えかけるようにリョウに話しかける。もはや話しかけているとは言えないほどペラペラと自分のことを話しては表情をコロコロ変える。

「貴方を見つけた時の幸福感、世界が変わったような気がしたよ。」

 男は満足そうにリョウを抱きしめる。


 ――――


 

 その日から勝手に男との共同生活が始まった。

 男の言う事をただただ聞いて毎日をダラダラとリョウは過ごしていた。以前にもろくでもない男や女に似たような事をされていたので特段何も問題に思わず、金を稼がなくて良いから楽だとか楽観的に捉えていた。何より家事はしなくていいし、変な首輪や足輪をつけることもしなかった。しかし、夜になれば薬を飲まされセックスする。リョウはうめき声を出し、男は気持ちよさそうに息を吐く。時々ユズキの悲鳴が交じり部屋を歪な音で満たした。

 リョウは慣れ始め生活の中に薬が登場した。リョウは嫌だった。毎回男の指や手を噛み抵抗したがユズキを使って押さえ込まれ薬を飲ませられる。男とユズキは薬を飲んでいるところは見たことがなかった。一人だけ薬によってグズグズにされ犯され、次第にセックス以外にも常時欲するようになる。

 セックス以外では欲しても欲しても得られないためリョウはベッドの上で横たわり時間が過ぎ去るのを拷問が終わるのを待つように耐えしのび、夜になれば男に犬のように愛想を振りまき甘えた声で薬をねだる。

 ユズキは部屋の隅でいつものようにうずくまりながらそんなリョウの様子を見たり、毎朝毎晩床に置かれるトレーから食事をしていた。

「ユウジさん……。ユウジさん……。ごめんなさい、助けて……。」と、そんなことばかり呟いては泣いたり。

「捨てられたんだ……くそくそ!あの裏切り者!」と男が居ない時に暴れたり自傷をしていた。

 そんなユズキを見てもリョウは不思議と焦りや不安を感じていなかった。どこか優越感、安心感があって、それは何なのかリョウには分からなかったがそれがあるおかげか毎晩目を閉じて眠ることができた。

 夜の薬のせいで勝手に火照る体には男とユズキの手はひどく冷たく感じられたが、全てが終わり眠りについた後目覚める前に見る夢では温かい大きな手が頭を撫でてくれて、リョウはそれを毎朝の楽しみとしていた。目覚める前のほんの少しの時間に見る影は大きく、金色が光って眩しく感じられ目を閉じてまた開けるといつもと変わらない男の部屋に変わっている。

 そんな生活を続けてカレンダーはめくられ、男の私服は長袖へと変わっていった。

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