オガミテキトウの心霊レポート

土刃猛士

第1話 色情霊


 んっふぁ……


 あふ……


  なんとも重く湿った空気が部屋を満たしている。


 あっあふーー

 んん……


 厚手のカーテンで薄暗く締めきった部屋にジジジ……と、古ぼけた蛍光灯が瞬いた。


汗と埃の臭いが入り混じった部屋に、花の腐ったような甘い匂いが混じり、顔をしかめたくなる。


 んむっは


 部屋の中に、なんとも淫猥いんわいな吐息が漏れた。


 はっ、はっむんあぁぁ


 ァァァあああぁ〜!


発情した猫のような絶叫が迸ると、白いブリーフ姿の男がベッドの上で大きく身をよじらせた。

 ギシギシと、シングルのパイプベッドが壊れそうなほど軋む。


 はふはふはふ、はぁぁ〜ん

 おふ。


信楽焼のタヌキのような腹を突きだした脂ぎった男が、まるでセクシー女優のように身をくねらせ喘ぎ声を迸らせる。


だが、当然のことながらその声は艶のある色っぽい声などではない。焼酎焼けした野太い中年男のものだ。


そんな信楽焼のタヌキのような男が、まるでAV女優にでもなりきっているかのように、薄くなった髪を振り乱し腰を大きく突き上げる。


 壁際にある安いパイプベッドが、ギシギシと軋みをあげた。果たしてこの狂態が終わるのとベッドが壊れるのはどちらが先だろうか。


 男がベッドの上で身をよじるたびに、フレームの四隅でなにやら白い紙がひらひらと揺れる。


 細い竹がベッドの四隅にしびりつけられ、その上に白い紙を折ったもの…紙垂しでが挟んである。


 その細い竹の外がわを、ぐるりと一周囲んでしめ縄のようなものが結ばれていた。


 それはベッドに張られた結界だった。

 信楽焼の男はその中でひとり狂ったように痴態を演じているのだ。


「あんた…こんなになっちまって」


 その様子を部屋の隅に立ち、金浦兼子かねうらかねこは痛ましい眼で見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る