んん? 兄は、もしかして…?
蓋をした鍋の隙間から、ごぽごぽと放たれる湯気と共に、三角形のちまきが覗く。大量に作ったちまきを鍋に入れて数分が経過し、茹で上がるのを今か今かと待っていた。
「んん、何分だったか、忘れちゃったからなあ……。こればっかりは勘でやるしかないね」
近くに置いていた椅子に腰掛けて、
ここ数年は思い出す事もなかった、前世の出来事。ちまきを作る事によって刺激されたのか、忘れてたのが嘘のように次から次へと溢れ出てくる。
長閑な風景が広がる故郷、そこそこに仲良い両親。気兼ね無く話せる友人達、そしてーー
「……
4歳差の妹、小牧。兄である
視線を感じたと思ったら、何故か睨まれてた事もあったし。あ、思い出しただけでちょっと泣きそう。
兄妹仲は悪くなかった、とは思う。
思うんだけど、なぁ。幼少期のように、こう常に仲良くとはいかないまでも……、いや、幼少期の
……仲、良かったんだよな??
あれ、なんか、自信なくなってきたぞ。
「元気にしてるのかなぁ、してると良いなぁ」
湯気が漂うキッチンで、思わず口から出た言葉。会話らしい会話はなくとも、大事な妹である事には変わりないし、何より幸せになってもらいたかったから。
「でも、嫌ってたかもしれない
眉を下げ溜息を吐くと同時にガシャアン!!と激しい音が隣室から響く。何事かと思い、慌てて立ち上がるも何かが折れた音と割れた音。その後に漏れた声が耳に届くとサッと顔色を変えた。
「に、兄さん!? 大丈夫!?」
「あははは、やあ、リティシア。良い匂いに吊られてソファから立ち上がったら、こう、絨毯に躓いてね……めちゃくちゃ痛いんだ」
「でしょうね! 血が出てるもの!」
隣室に顔を出せば、予想通りの状況になっていた。近くにいたスライム達に指示を飛ばしながら、棚に置いていた救急箱へ手に取り、兄へと駆け寄る。
今回は引っ転んだ兄の両頬が切り傷だらけになり、血があちこちから滲んでいた。
そして、何匹かのスライムが踏み潰され
、ぶつかった衝撃で分離している。ああ、可哀想に……。心無しか、スライム達の表情が暗い。
「もう、兄さん。気を付けてって言っているでしょう。何で、勢い良く立ち上がったりしたの」
「だって、あの匂いには、あがらえないよ。嗅いでるだけでお腹減ってきたからね」
ぐきゅるるる〜と可愛らしい音がお腹から鳴る。そうだった、兄は、暫く碌な食事をしていなかった。ならば、この香ばしい匂いはかなり堪えるのだろう。
クンクン、と確かめるように鼻を揺らすと兄は緩やかに目を細めた。
「この匂い、ちまきかぁ。懐かしいな。もう出来たの?」
「まだだよ、もう少し待ってて。兄さんは! 一歩も動いたらダメだからね!」
「はいはい」
パチン、と最後のガーゼを当てて治療を終えると
早く兄に食べさせないと……、んん?
鍋の具合を見ようとして、
あれ、どうして、兄は、ギルノールは
匂いだけでちまきを作ってるって、わかったんだ? 今世では始めて作るのに。
嫌な汗が、背中を伝う。
先程の独白。懐かしい記憶。ギルノールは小牧とは似ても似つかない仕草や表情をしている。だが、飛び起きた様子。鍋のアレをちまきと断定した事が、妙に引っ掛かる。
あの調理方法は、我が家独自のものだ。
もしや、兄はーーーー……
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