何度も見る夢のこと

@mia

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 夢の中で僕は若い女性に一生懸命何かを訴えている。何を訴えていたのかは目が覚めたら覚えていなかった。唯一覚えているのは相手の「大丈夫よ」の一言だけだ。目が覚めた僕はその一言に安心していた。

 1回目は中学生の時、初めて付き合った女の子と別れた日に見た。付き合っていたという表現があっているのかは分からないが、一番親しい女の子だった。

 彼女はお母さんの友人の娘でありお父さんの会社の取引先の人の娘でもあった。   

 彼女とは家族で行った会社のパーティーや食事会などで何回も会ったことがあるが、彼女に好意を持ったことはない。彼女も同じだったが大人の思惑で僕と彼女は会うようになった。会うと言ってもお互いの家で行われるホームパーティーやお茶会などで二人で話をするくらいだった。

 一年かけてお互いに話が弾むようになったと思ったら別れさせられた。

 後から聞いた話だが、彼女のお父さんの派閥のプロジェクトが失敗したかららしい。地方に転勤になりそれから彼女に会っていない。

 2回目に見たのも女の子と別れた日だった。

 彼女もお父さんの仕事関係者の娘だった。彼女と別れる原因は彼女の父親が良くない人たちと付き合いがあり会社での役職を解かれたからだった。これも後から知った話。

 それ以降も似たようなものだった。あまり長く続かない。


 悪影響を及ぼしそうな女性と別れた日にあの夢を見るようだ。女性自身に非はないのに。

 好きで付き合い始めた女性ではないが、僕なりに気を遣っていた。成人してからは結婚も視野に入ってくるのだから。

 結婚してもうまくやっていけると思えるほど、付き合った女性は皆いい人だった。

 相変わらず夢の内容を覚えていないが、夢の女性は僕を慰めているのか。気づいていないだけで僕は傷ついているのだろうか。

 

 9回目の夢を見たが、誰とも別れていない。付き合っている女性などいないのになぜあの夢を見たのだろうか。

 数日後、あの夢を見た理由が分かった。

 お父さんの会社の近いところにいる代議士の孫娘が、交際相手とトラブルを起こして入院していた。別れる別れないでもめて刺されたらしい。彼女が入院したのはあの夢を見た日だった。

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