2 放課後☆ときめきシチュエーション!

「ねぇ、みどり!」


 その日の放課後――。

 私が帰り仕度をしていると、クラスメイトのメグが大きな声で言った。

 ニヤニヤとこちらに近づいてくる。


「何? どうした、メグ? 何かあった?」


「どうしたじゃないよぉ! こんのぉ! うらやましいぞぉ!」


「は?」


 すぐそばに来たメグが、キョロキョロと周りを警戒する。

 めちゃくちゃ小さな声で続けた。


「キタよ、みどり。これは間違いなく、キタ」


「キタ? 何がキタ?」


「みどりの人生の春――つまり、モテ期♪」


「モテ期?」


 メグが何を言ってるのか、私にはまったくわからない。

 キョトンとする私に、彼女はさらに続けた。


「い、いい、みどり? お、落ちづいでぎいで……」


「メグが落ちつきなよ」


「いや、ごめん。でもね……呼んでるんだよ……」


「呼んでる?」


「そう。狐野くんが、みどりを呼んでる……」


「狐野くんが? 私を?」


 狐野くんは、私たちのクラスの男子。

 ウチの学校では、ぶっちぎりトップのイケメン。

 めちゃくちゃ顔が整ってて、そこらへんの女子より美人系な人。


 おまけに彼、ものすごい高身長で、勉強もスポーツもすべて一位なんだ。

 何て言うか――女子にモテる要素、テンコ盛りな感じ?

 いつも大人っぽくて、クールな人。


「くっはぁ、激ヤバだよ! なんか私の方が興奮してきたぁ!」


「なんでメグが興奮してるの?」


「は? なんでって――」


 メグが私の両肩をグッとつかむ。


「放課後だよ? しかも呼び出し場所は校舎裏。校舎裏っつったら、あーた!」


「校舎裏? 校舎裏が……何?」


『あぁ、メグさん。あの、オレ、赤居さんにちょっと話があるんだ。できれば二人きりで話したい。悪いけど、彼女を呼んできてもらえないかな? 校舎裏で待ってる』


 いきなり、メグが狐野くんのマネをはじめる。

 ちょっと似てたので、私はプッと噴き出した。

 

「うわぁ~似てる~。狐野くんって、いつもそんなキザな感じだよね~」


「でしょう? って、いや、そうじゃない! そうじゃないんだよ、赤居みどり!」


 メグが、私をグイッと自分に引き寄せる。

 耳もとで、ささやくように続けた。


「これはアレだ……間違いなく、アレだ……」


「アレ? アレとは?」


「は? 放課後だよ? 校舎裏だよ? そんなの――告白に決まってんじゃん」


「こ、告白? き、狐野くんが? 私に?」


 そこまで聞いて、私はようやく理解した。

 放課後、校舎裏、女子が男子に呼び出される。

 こ、これはたしかに……どう考えても、放課後☆ときめきシチュエーション!


「えぇ……いや、そんな、急に……ど、どうしよう、メグ……」


「どうしよう、じゃないよ。どうするかは、自分で考えなさい」


「えぇ……でも……えぇ……」


「とにかく! みどりは今から学校一のイケメンにコクられるんだ! これは、もぉ、間違いない!」


「間違いないって……私、コクられるのなんて、生まれて初めてなんですけど……」


「でも、みどりって、前からイケメンが好きだよね?」


「ま、まぁ……」


「だったら、狐野くんと付き合っちゃえばいいじゃん。キザだけど、間違いなくイケメンだし」


「でも私、狐野くんと一度も話したことがないんだよ?」


「付き合ってから、話せばいいじゃん。そんなの、ぜんぜん問題ないよ」


 そう言って、メグが私の背中を押す。


「ささっ、行った、行ったぁ! イケメンを待たせちゃいけない! 校舎裏ね!」


「メ、メグ、ついてきてよ!」


「なんで私がついていくの? 彼は二人きりで話したいって言ったんだ」


「メ、メグぅ~!」


「結果は、明日教えてね。楽しみにしとく♪」


 人ごとだと思って、メグはなんだか超楽しそう。

 私は、一人で校舎裏に行くことになる。


 えぇ……いや、でも、狐野くんって、一体どんな人なんだろう?

 私、マジで一回も話したことがないんだよね……。

 ただ、まぁ、女子にめちゃくちゃ人気があることだけは知ってます……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る