第2話
「……わかりました。もう一度だけ説明します」
リディアは深呼吸をし、気を落ち着けた。ギルドの受付嬢として、ここで感情的になっては負けだ。
「Fランクのあなたは、まず簡単な討伐依頼や収集依頼をこなして実績を積んでください。それによってギルドが評価し、一定のポイントが溜まれば昇格試験を受けることができます」
「昇格試験?」
「はい。Eランクに上がるためには、ギルドが指定した依頼を達成する必要があります。実力を示せば、Eランクに昇格できます」
「じゃあ、Dランクには?」
「Eランクの依頼をこなして実績を積み、また昇格試験を受けてください」
「Cランクには?」
「同じです!」
「Bランクは?」
「もういいでしょう!?」
リディアはこめかみを押さえながら、ぐっと堪えた。彼のような新人は珍しくない。というより、ほぼ毎日のようにいる。冒険者ギルドの受付は、ただ依頼を受け付けるだけの仕事ではない。新人の教育、トラブル対応、時には戦いを止める仲裁役までこなす、まさに縁の下の力持ちだ。
しかし、だからといって、同じ説明を何度も繰り返すのは精神的に辛い。
「じゃあさ、Fランクのままでも効率よく稼げる依頼ってある?」
「それは……」
リディアは一瞬考えた。確かに、Fランクの依頼は基本的に報酬が安い。しかし、中には効率よく稼げるものもある。
「安定して稼ぐなら、薬草採取の依頼ですね。ギルドや薬師が常に需要を持っているので、報酬は低めですが、数をこなせばそれなりになります。狩りが得意なら、指定された魔物の討伐依頼も良いでしょう。スライムやゴブリンならFランクでも十分対応できます」
「ふむふむ……」
「ただし!」
リディアは指を立て、念を押した。
「効率だけを求めるのはやめてください。依頼の経験を積むことが、あなたの将来のためになります。Fランクのうちに基礎をしっかり学んでおかないと、上のランクに上がったときに苦労しますよ?」
「なるほどなぁ……。じゃあ、オススメの依頼ってどれ?」
リディアはため息をつきながら、掲示板に貼られた依頼を指差した。
「今なら、近くの森で薬草採取の依頼が出ています。もしくは、ランバートの町近くでスライムが増えているので、討伐依頼もありますね」
「ふむ……。じゃあ、スライム討伐で!」
「かしこまりました」
ようやく話がまとまり、リディアはほっと息をついた。依頼の用紙を手際よくまとめ、ギルドの印を押す。
「では、こちらが正式な依頼書です。報酬は討伐したスライムの数に応じて支払われますので、証拠としてコアを持ち帰ってください」
「了解! ありがとな、お姉さん!」
「……どういたしまして」
新人冒険者が意気揚々とギルドを出ていくのを見送り、リディアはぐったりとカウンターに突っ伏した。
「ふぅ……」
すると、隣の受付嬢がクスクスと笑いながら声をかけてきた。
「お疲れさま。今日もまた新人さんと格闘してたのね」
「ええ、もう何回目かしら……。ギルドのランク制度を一回で理解してくれる新人がいればいいのに」
「まあまあ、それが私たちの仕事でしょ?」
「わかってるけど……はぁ……」
リディアは疲れた顔のまま、次の冒険者の対応に備えた。ギルドの受付の日々は、今日もまた終わることなく続いていく。
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