第2話 どうやら異世界転移をしたらしい……
「どこよ、ここは!!」
双葉さんの元気な声に起こされたわたしは、足元の布団がなくなっていることに驚く。
双葉さんがみんなの気持ちを代弁してくれた。本当、どこなんだろう。
見張りの先生がトイレに行っていた瞬間に転移させられたのか、どこかのお城と思われる場所にはクラスメイトしかいない。さっきまで寝ていたはずなのに、普段着になっている。
「おお! 我がグランドランドを救う救世主達よ! よくぞ我が国の招喚に応じてくれた!」
ん? 今、なんて??
わたしは覚えがありまくる国名を聞いて、クラスメイト達とは違う驚きを禁じ得なかった。
「みんな! これはクラス規模の異世界転移だ! ステータスオープンって言ってみて!」
わくわくとした声で言ったのは、一ノ宮君。オタクが同じ発言をすると引かれちゃうけど、さすがはクラスカースト一位の一ノ宮君。クラスメイト達は一ノ宮君の指示通りに自分のステータスを見ているみたい。
ステータスは、いわば個人情報の塊だ。本人が心の底から開示OKと思わないと、他人には見えないように設定した。
「
不意に中村◯一さんのような美声に名前を呼ばれた。驚いてそちらを見れば、大君しかいない。
え、大君の声ってもう少し高くなかった??
家に帰ったら声の情報を入れて更新しなきゃ。声のイメージは重要だからね。
そう思って、我に返る。
「大君。わたしは大丈夫だよ」
「そっか。それなら良かった」
耳が幸せすぎる……。
推しボイスが、わたしの隣で喋っているよ。こんな魅力的な声、大君の高スペックにさらなる磨きをかけるってば。
わたしが作ってWeb上に載せている話『王子を支える庶民ですが、何か?』略して『
そう。まさしくわたしが設定した通りなのだ。玉座の後ろにある天使が描かれた大きなステンドグラスも、赤字に金の刺繍が入った絨毯も、兵士が壁際にずらりと並んでいるのも。
「そなたらには、今も尚グランドランドに侵攻しようとしている鬼の首領ドン・オーニを討伐してもらう」
「えっ、おれ達が!?」
「
「
「三吉さんに治療してもらえるなら……♡」
「ドン・オーニはどこにいる? 私が刀の
「活躍するのは隼人に決まっているでしょ! 隼人は勇者なんだから!」
一ノ宮君が勇者、その勇者を支えるのは魔法使いの双葉さん、治療ができる聖女は三吉さん。三吉さんを見ている
そう。『王民』はわたしが考えた、「わたしの片思いの相手である大君とわたしが幸せになる話」なのだ。クラス転移にしたのも、王子である大君よりも目立つ人達が天下無双の動きをしてくれれば、その間に大君との仲が進展すると思ったから。
西洋風の世界観で鬼なんてアンバランスだって、P.N.雷男さんみたいなことは言わないでほしい。PV数が伸び悩んでいることを自覚しているし、現実では難しい妄想で楽しみたい、わたし得の話なので。
でも、まさか、そんなわたしの妄想話を現実で体験するとは思わなかった。いや、誰が思う? 自分の話に転移するなんて。
っというか、本当に夢じゃないんだよね?
クラスカースト上位の五人と王様が盛り上がっている中、わたしは自分の頬をつねろうとした。それを、大君が止める。その結果、大君の手がわたしの手に重ねられた。
え。やっぱり夢かな。
わたしが書いた覚えのない行動をされた。『王民』の中の王子は、あくまでもわたしのイメージの中の大君だ。もしここが夢の世界なら、こんなに積極的なはずがない。
だから、ここは夢じゃない。現実だ。
現実なんだけど、調子が狂う。大君が、重ねた手を動かして指を絡ませてくる。
ちょ、こん、こんな積極的な大君なんて知らないんだけどっ。
『王民』は、確かにわたしと大君の仲が進展する話だ。他の子達が設定した通りだったから、「王子」の大君はわたしというちょっと鼻がいいだけの庶民に気持ちを寄せているようにしている。
かといって、大君が美声で推しボイスとわかった今、積極的すぎるとどうすればいいのかわからなくなる。
大君への対応をどうしようかと悩んでいるときに突然異臭がして、周囲を見回す。
「どうしたの、花ちゃん」
「なんか、腐った肉みたいな強烈な
きょろきょろと周囲を窺うと、竹塚君が近づいてきた。臭いが強烈すぎて、鼻がおかしくなったみたい。竹塚君が近づくたび臭いが強くなる気がする。
思わず鼻を押さえた。
「大森大輝! 俺は
心なしか、竹塚君が生き生きとしている気がする。もしかしてP.N.雷男さんともう一人の読者さんだったりする?
『王民』内で魔工師は、かなり人気のある職業にした。魔法で様々なものを造れる職業で、レベルを上げれば家だって造れるようになる。勇者のような名声はないけど、食いっぱぐれない職業として考えた。
竹塚君の手先が器用そうだったから設定したけど、正直、レベル上げがある職業はわたしにとってどうでもいい。
メインは、「王子の大君と庶民のわたしとの仲が進展する話」だから。
腕を組み胸を張る竹塚君は、大君の職業が自分よりも下だと思っているみたい。
ふふふ。偉そうにしていらえるのも今の内だぞ。さぁ、驚くがいい。大君の職業を!
なんていう思いをこめて、大君の手を握った。大君が頷く。
「ステータスオープン! 開示する!」
あ。
大君。それはやっちゃいけないやつ。開示するときは対象を指定しないと、他の人も見えちゃう。見られちゃう。
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