第36話:もう一つの村

 朝の光が、木々の間から差し込んでいた。

 村の一角、見張り台の傍に設けられた簡易な小屋の前で、ラウルは足を止める。

 その前に、探索者の青年が静かに座っていた。

 縄は緩く結ばれたまま、しかし彼は逃げようとも暴れようともしなかった。


 ラウルがゆっくりと近づく。

 目を合わせると、青年はわずかに身を硬くする。

 ラウルはその場に膝をつき、静かに目を閉じると――意識を彼へと向けた。


 崖沿いの道。

 ぼろぼろの建物。

 乾ききった井戸の底。

 飢えた目をした人々。

 腐りかけた根菜を分け合う子どもたち。

 そして、魔物の襲撃で散った仲間。

 誰かが言った。「探してこい。まだ生きられる場所を――」


 映像が、ラウルの中に流れ込んでくる。

 青年の記憶。彼の集落。

 そして、その集落が置かれた、限界すれすれの状況。


(ここではもう、生きられない……だから彼は、ここまで来た)


 ラウルは、静かに目を開いた。

 彼の中で、「知らない人間」だった探索者が、ようやくひとりの“生き延びようとしている者”に変わっていた。


 村の広場。

 ラウルは老婆に簡略化したイメージを送り、集まった住人たちへ情報を伝えた。


「……他の村だと?」

 青年の一人がそう呟く。

「助けを求めてきたんじゃないのか? だったら、こっちから話を――」


「いや」老婆が遮った。「外に手を伸ばせば、また傷つくかもしれない。あたしらは忘れていないよ。かつて、追われた日のことを」


 言葉の端ににじむのは恐れだけではなく、悔しさと諦めだった。


 ラウルは黙って聞いていた。

 けれど、すでに決意はあった。


(俺たちがこのまま籠もっていても、いずれ限界が来る。なら――)


 ファシムが2体、ラウルの前に並ぶ。

 探索者もまた、見張りのファシムに付き添われて立っていた。


 ラウルは静かに3人を見る。

 ファシムたちは無言のまま、意志を感じ取っている。

 探索者もまた、身を固くしながらも後退はしない。


(探るだけだ。無理に近づくわけじゃない。ただ、知るために)


 ラウルはイメージを送る。


 ――斥候の足跡。崖の村。疲弊した住人。

 ――そして、ファシムたちが林を抜けて、集落を見下ろすイメージ。


 探索者は、じっとそのイメージを受け取っていた。

 やがて、彼は視線を逸らし、わずかに頷いた。


 その反応を確認したファシムが動き出す。

 探索者を中央に、前後を固めるようにして、林の方角へと歩き出す。


 村の入り口で、ラウルは静かに見送っていた。

 焚き火の煙が、朝の空に細く立ちのぼっていく。


(この先に、何があるかは分からない。だが――)


「……次に動くのは、俺たちだ」


 呟きとともに、視線は遠く、森の奥へと向けられていた。


【現在のファシムの数:24体】

 ダンジョン攻略班:2体(魔物討伐・解体)


 食料搬送班:2体(村への搬送)


 洞窟との往復班:2体(物資補給)


 村内作業班:7体(素材加工・修繕・農耕補助)


 外部見回り班:5体(境界警戒・夜間巡回)


 拠点整備班:3体(見張り台・罠設置)


 偵察遠征班:2体(探索者同行・別集落方向へ)


 控え待機:1体(即応対応)

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