賢者の姉の魔術羅譚 〜辺境在住な自称庶民派『芋』魔導士、生き別れの妹が賢者の卵に成長し、何故かその師匠であると身バレする〜

22時55分

シケた村の芋娘。

第1話 芋娘、貴族の剣をヘスカトル。



「………け、剣士が、グー……、カハッ……………」

「ふぇ!!?」



 軽鎧の上から水月おなかにポスッ!と当てた私の右拳は、メリメリと予想外の音を立て………。


 ニマニマとお貴族様らしく、『それでは一手お手合わせ願えますか? 臨時講師レディ♪』などと微笑でお絡んでいらした何とか伯爵家の御子息様は、まるで『ひ、卑怯だ………』と言わんばかりの抗議な涙目をウルウルしながら、チ〜ン………。と、そのまま気を失ってしまわれました。



「あ、わ、私はその、ま、魔導士で、けけ、剣士では無いので、えっと………その…………、ですよ、ね……?」



 パチパチパチと『流石は姉様です♪♪♪』とニッコニコな妹と、ハァ〜……と、とても頭が痛そうに揃ってお溜め息を吐くイザベル様とエリー様を除き、ポカン………。と、肯定あり? とも否定なし? とも取れる、嫌に静かな周囲の方々に言い訳をしつつ、私は今、貴族院きぞくばたけの真ん中で多量の冷や汗をかいています………。


 わ、私なんて、ただのしがない『芋』魔導士なんですよ!? なのにお悪名が高いはずの高位なニマニマお貴族様がのお腹パンチでだなんて。


 ………い、一体、何がどうしてこうなってしまったのでしょうか、師匠せんせい


 


 ************




(数週間前)



「………お〜い、た、大変だ〜、ゼエ、ゼエ………。お〜ぃ!」



 アレは、今日も今日とてとても良き年貢の納め時なギラギラ陽気だった午後の砂漠はたけでの出来事でした………。

 いつもと変わらず、この村唯一にして無二の生命線であるの栽培をよっこらしょ〜♪の、せいや〜♪ な私達の元へ、村の若集の一人、事務方のベンさん(若いと言っても四十代)が、ゼー、ハー、ヒュー、ゼー………。と、息も絶え絶えにやって来ます。



(のほほんが基本なウチの村で、ひ、人が走ってる!!?)



 そんなベンさんの蒼白な形相と揺れに揺れる我が儘ボデーに驚いた私は、何だか〜く嫌な予感がしつつも、一先ずお知らせのお礼に冷風エアコンの魔法を込め直した魔石と、程々に冷え〜♪なお水を提供し、そのお客様が待っているという村の中央へと戻ります………。


(やだなぁ。なんだか腕痒くなって来たし、正直会いたくないなぁ……………、ハァ〜ァ)




 **********




「突然の訪問失礼致ぁす! 貴女がフォン・イブリアス公爵家が御息女・シスリア嬢が、ネーネシア殿で間違い無いであろうか!!!」

「ひゃ、ひゃい! ネ、ネーネシアは、たたた、確かにわたくしでございますです!」



 村の居住域中央の井戸広場には、こんなド辺境の砂漠際がまっっっったく似合わない全身鎧姿のゴリゴリな騎士ゴリ様が、ドドン!!!と仁王立ちで待っていて………、



(私の痒さの増した左腕とズレる眼鏡が言っています。こ、この騎士様は、おおおお様である! と………。)



 きっと鎧に熱が籠っている所為、でしょうか?

 キラン☆とサンシャインな騎士様のスキンな御頭ヘッドには血管が異様にビキビキで、井戸水を被ったであろう鎧からは異常な量のお湯気がユラユラと揺らめいています。

 加えて距離と声量が全く一致していない騎士様の背後には、ゴゴゴ! と謎の文字オーラが浮かんでいる様な気さえして………。


 そんなゴリゴリ様の無駄な迫力ゴゴゴ!に思わず一歩下がると、何故か騎士様は一歩前進して来て再びビシッ! と胸前右手ドン!!!の敬礼を取りなさり………。



「え、えっと、こ、この様な辺境の地に、よよよ、ようこそ、いらっしゃ………ヒュィィィッ!」



 一歩下がっては一歩前進し、二歩下がれば何故か三歩前進され、近い近い近い! を繰り返し、とうとう私が背後の壁際にまで追い詰められた時、



「まったく………、バルドス卿!

 レディが怯えているぞ、少し下がられよ」


「ん? おっと、コレは失礼、退がられるのでつい………」


「すまないレディ。卿は多少……、いや大変に暑苦しいが、決して悪い男では無いんだ。許してやって欲しい」


「は、はひ………」

(は、挟み撃ちぃぃぃ!!!?)



 家の影からまるでタイミングを計った様に現れた、にこやかで軽鎧姿の金髪な女性騎士様………。



(私の左腕と背中の蕁麻疹が言っています。この騎士様はお貴族様である。と………)



「いやぁそれにしても、ずいぶんと見違えたなレディ。あの頃は可愛いダガーの様な印象であった少女が、今ではすっかり研ぎ澄まされたレイピアの様だ♪」

「は、はぁ……お、お褒め?いただき、ありがトーゴザイマス………」


(ん? ダガー? とか、レイピア? ってどういう意味ですか………? それにこのお貴族様、私を見違えたって言われてますが……前に何処かで? ん? ん?????)



 私達の育ての兼、この西果ての集落・通称シケ村の実質的(支配者的意味で…)だったは常々こう言っていました。



『フンッ! 良〜い、ネーネシア。お貴族なんてヤツらにはね〜ぇ、


 へぇー、そうなんですかぁ?

 スゴいですぅ!

 憧れますぅ♪

 いつか機会がありましたら、オホホホホ。

 アハン♡

 ウフン♡

 ハニャ〜ン♡


 この7つの言葉さえ憶えておけば十分よ。

 もし余りにしつこい様だったら、所詮は一見様なんだから昏睡魔法でもかけて、お付き共々ダンジョンにでも捨てときなさい? 大丈夫よ、何も残らなければバレる事なんて無いんだから。オ〜ホッホッホ♪』



 ………と。

 そんな師匠の言葉たかわらいを思い出しつつ、親しげに握手を求めて来る女性騎士様のお手を取って良いものかしら? と、おっかなビクビクしていると、にこやかな騎士様が急にドン! と、私の慎ましい胸元に向かって飛び込んで来るではありませんか!



「お下がり下さい姫様!!!」

「ウワッ!」

「ヒャァ!!!」



(エグいエグいエグい。お貴族の距離の詰め方がエグランディです〜〜〜〜〜!)



「な、何事だバルドス卿?」

「アワワワワワ……」



 私は足の先から胸元までザワリと浮き出た蕁麻疹を我慢しながら、ゴリゴリ騎士様の方ヘ目を向けると、騎士様は背中に担いでいた大剣を構えながら、ジリジリと何か家の壁の向こう側を警戒されています。



「姫様………ドラゴンです」

「何!?」


「お静かに。未だ幼体の様ですが、子ドラゴンの周囲には必ずがいる。我が騎士団では代々、


見たならは覚悟せよ!』


 という教訓がございます………」



「不味いな。ネーネシア嬢、即刻住民を避難させよう。手を貸してくれ!」

「ヘッ!? あ、はぁ………」



 騎士様お二方がヒソヒソと何をそんなに警戒されているのか解らず、ゴリゴリ騎士様の向こうを覗いてみると、銀色の小さな子龍が自分と同じ位の大きさのヤーシの実を抱えながら、フヨフヨと飛んでいます。子龍は私と目が合うと『クゥ♪』と喜声を上げてコッチに向かい………、



「あぁ〜、なんだ、クーちゃんの事でしたか。き、騎士様方、あの子は」


「斯くなる上は先手必勝!!! 親を呼ばれる前に討ち取り、住民を退避させますぞ姫様!」

「あい解った!」


「コオオオオオ、チェアァァァァァァァァァ!!!」


「ウヒャッ! ちょ、ちょっとお待ちくださぁぁぁい!!!」

「「!!!?」」



 一体何を血迷いなさいやがりましたのか!!?

 ゴリゴリ騎士様が突然身体強化ゴゴゴ!魔法全開でクーちゃんに斬り掛かり、私は大上段から振られる大剣の超高速な一撃を右手一本で白羽取る羽目となります。

 咄嗟の出来事に強化まほうの加減を間違え、指がバキリ! と食い込んだ刀身はビキビキと嫌な音を立て………、騎士様方は揃ってそのままパラパラと砕け散る大剣の無残な様子にパチクリと目を瞬かれていました………………。



「………ア、アアアアアア!!!? す、すみません、つつつ、つい力を入れ過ぎちゃって、すみませんすみませんすみませんすみませんすみませぇぇぇんんんん!!!!!」



(うぅぅぅ、やってしまいましたぁぁぁぁぁぁぁ………)




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