窮夢

邑木ユウ

窮夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 思い出すだけで、震えあがってしまいそうになるくらい恐ろしい夢。


 いや、本当に思い出すだけで震えてしまう夢だ。


 そんな夢を、俺は9回も見てしまっているのだ。


 その事実だけで震えてしまいそうだ。


 なぜそんなにはっきり回数を覚えているのかというと、それほどまでに恐ろしいからというのも間違いないのだが、明確な理由が別にある。











 あまりの恐ろしさに、毎回おねしょをしてしまうからだ。











 28歳にもなって、恐ろしい夢――しかも同じ夢――を見たというだけで、9回もおねしょをしてしまっているのだ。


 最近はあまりの情けなさに、シーツに続いて枕も濡らしている。


 独り汚れたシーツを洗う、28歳独身男性のなんて哀れなことか。


 一人暮らしであるために、誰にも知られていないことだけが救いだ。


 これを誰かに知られてしまうことこそが、最悪の恐怖ではないか。


 3回目の時、医者に診てもらおうとしたが、できなかった。


 あまりにも恐ろしいことが起こったからだ。











 そう、いざ医者に行こうと決めていた日に4回目を見て、4回目のおねしょをしてしまったのだ。











 疾患等の心配よりも、それを他人に知られてしまうことへの恐怖が勝った。


 結局、今に至るまで誰にも相談したことはない。


 これから先もきっと、誰にも打ち明けることはないだろう。


 28歳が9回恐ろしい夢を見て9回おねしょをした、という話を誰にできようか。


 そして、これがいつまで続くのかということを考えてしまい、また震えあがりそうになる。


 10回、20回と積み重なるストレスと恐怖……。


 100回ともなったら、さすがに俺も慣れてしまっているのではないだろうか。


 いや、あの夢の恐ろしさだけは、慣れることなどできないだろう。


 なにせ、そんなに恐ろしいことが、いずれ現実になってしまうかもしれないということが恐ろしいのだ。


 ああ、また思い出してしまった。


 全身に寒気が迸り、不意に身体が震える。


 俺は下腹部に力を込め、間一髪で奔流を押し止めた。


 本当に恐ろしい夢だ……。


 これからの人生、あの夢を見ることがなくなるまで、俺は耐えられるのだろうか?


 そう、あの夢――











 ――30歳にもなって、おねしょをしてしまう夢を。

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窮夢 邑木ユウ @yu_muraki

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