第12章:闇の試練

 《幻影の谷》に響く不気味な笑い声。エリオスの前に立ちはだかる《闇の使者》は、まるで霧のようにゆらめきながら、形を変え続けていた。


 「お前の心の隙が見えたぞ……。『父を信じたい』という迷い、それが貴様を滅ぼす!」


 《闇の使者》の声が響いた瞬間、エリオスの目の前に再び父の姿が現れる。


 「エリオス……お前は間違っている。闇の力を拒絶すれば、すべてを失うことになるぞ」


 「違う……! 父さんはそんなこと言わない!」


 エリオスは叫び、剣を構える。だが、幻影の父の姿は消えず、むしろその手を差し伸べてくる。


 「私と共に来い。そうすれば、真実を知ることができる……」


 エリオスの心が揺れた。


 もし本当に、この幻影が父だとしたら――?


 だが、そんな迷いを吹き飛ばすように、リナの怒声が響いた。


 「惑わされないで! それはただの幻よ!!」


 彼女の言葉に、エリオスの胸の奥に眠る確信が蘇る。これは《闇の使者》の罠だ――。


 「……騙されるもんか!」


 エリオスは剣を振り抜いた。


 光を帯びた刃が幻影の父を切り裂く。


 「グゥゥゥゥ……!」


 父の姿は霧散し、代わりに黒い霧の塊が現れた。それこそが、《闇の使者》の本体だった。


 「やるな……だが、これで終わりではない!」


 《闇の使者》は黒い腕を伸ばし、エリオスに襲いかかる。


 しかし、その瞬間――


 「風よ、導け!」


 どこからともなく、澄んだ声が響き、突風が吹き荒れた。


 風が《闇の使者》を切り裂き、その身体を霧散させる。


 「何……!?」


 エリオスとリナが驚いて振り向くと、そこには長い青銀の髪をなびかせた一人の男が立っていた。


 「間に合ったようだな」


 彼の手には、青く輝く杖が握られていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る