第11話 最後は神頼みに限る
「男なんて最低。男なんて大っ嫌い!」
朱音の話を聞いて、わたしは、そう思うようになった。
双子ならどっちでも良いなんて……わたしと朱音に対する
それは一概に男だけとは言えないが、それを言ったらキリがない。ひとまず、男は皆敵だと思うことにした。
朝っぱらからリビングで恋愛ドラマの録画を観ながら呟いてしまったばっかりに、ショックを受けた父が、わたしの肩を強くゆする。
「パパのことも嫌いになってしまったのか!?」
「お父さん……なにも泣くことないやん」
「パパは彩音と朱音が大好きだ!」
ギュッと強い抱擁を受ける。暑苦しい。
「お父さん、ウザい。チューして来んといて。子供や無いねんから」
「でも、彩音はパパの事も嫌いに……」
「お父さんは例外や」
なんせ父だから。嫌いも何も、大……まではいかなくとも、普通に好きに決まっている。それに、わたしと朱音を見分けることが出来るのだから。
朱音を見て、ふと思った。
(やから、お姉ちゃん。吉田君のことが好きなんやな)
わたしと朱音を区別出来るということは、一個人を見てくれているという証拠。わたしも無意識にそんな所を好いていたのかもしれない。
だって、顔はモブ。勉強やスポーツも並。話が特別面白いなんてこともない。どこが好きかと問われたら、“何となく”これしか出て来ないのだ。
「お父さん、仕事行かへんで良いの?」
「はッ、そうだった」
父は我に返ったようで、わたしから離れ、自分の支度をし始めた。
「ママ、一緒に出るから待っててよ!」
「はいはい。はよ支度しぃや。日曜やのに、夫婦揃って仕事なんて嫌やなぁ」
毎朝一緒に家を出る両親は、子供のわたしから見ても仲が良い。正におしどり夫婦。
余談だが、父は東京出身。わたしと朱音の標準語も、父の言葉遣いを真似ている。父の前では照れるので、何となく関西弁でしか話していない。
「彩音もテレビばっか観てないで、勉強しぃや。受験、明日やろ?」
「うん。これからする」
そう、何だかんだ受験まで残り1日。
だから、もう勉強は良いかなと思っている。1日足掻いたところで結果はさほど変わらないだろう。
両親を見送れば、朱音がニコッと笑って言った。
「よし、あたしらも行こっか。デート」
「お母さんら、デートちゃうよ」
「2人で出かけたら、それはもはやデートよ」
その言い分は良く分からないが、わたし達はこれから神社に行く予定だ。
最後は、やはり神頼み。これに限る。
◇◇◇◇
いつものように双子コーデで決め、いざ神社へ!
「やっぱ、まだまだ寒いなぁ」
手にハァと息を吹き掛ければ、息は白くなった。
朱音に手を差し出され、わたしは自然とその手を握る。
「お姉ちゃんの手、あったか」
「せやろ。ポケットにカイロ貼ってみてん」
手を握ったまま、朱音のコートのポケットに2人で手を入れれば、そこは、もはや天国かと思った。
「ええやろ?」
「うん。わたしも今度これしてみよ」
仲良く手を繋いで歩けば、街の中心からやや離れた護国神社に到着した。
「初詣ん時はヤバいくらい人おるのに、今日はぼちぼちやな」
「せやね」
チラホラ人はいるが、参拝するのに行列までは出来ていなかった。
「お姉ちゃん。どうやったっけ? 2回礼して……?」
「二礼二拍手一礼」
「せやせや」
お賽銭を入れ、朱音の真似をしながら、パンパンと手を叩いた。
(神様、どうか受験が成功しますように)
心の中でお願いをして、もう一度お辞儀する。
「よし、帰ろ……」
朱音は、何やら必死にお願い事をしているようだ。まだ終わっていなかった。
それから1分が経過。やっと朱音は顔をあげた。
「彩音、帰ろっか」
「うん」
わたし達は、神様に背を向け、歩き出した。
ちなみに、おみくじはしない。悪い結果が書かれていたら、引きずりそうだから。
「それにしても、お姉ちゃん。何お願いしてたん? めっちゃ長かったやん」
「そんなん、彩音のことに決まってるやろ」
「わたしのこと……」
朱音は、わたしのことをそんなに馬鹿だと思っていたのか。自分の受験より妹の受験の心配をして祈願するとは……。
複雑な気分で、手を繋ぎながら来た道を歩いていると思わぬ人に遭遇した。
「小鳥遊さん……?」
「え、吉田君!?」
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