素晴らしい未来と希望に、どうかよろしく

桃鬼之人

 貴方は、ベッドに横たわっていることに気づく。


 音はなく、静寂に包まれている。


 貴方は、ゆっくりと眼を開け、身を起こして周囲を見渡す。


 見知らぬ部屋だ。白色に近い灰色を基調とした無機質な部屋。壁には窓もなく、扉の姿も見えない。四方の壁には模様はなく、ただの平面が広がっている。何も特別なものは見当たらない。天井全体にぼんやりとした光が広がり、室内を照らしている。家具は最小限で、ベッドと小さな棚があるだけ。ベッドは至って普通の形状で、床と一体型になっている。ベッドの下に隙間はない。棚は固定されており、動かすことはできない。

 そして、床には、人がぐったりと横たわって倒れている。貴方と同じ服を着ている。動く気配はない。


 貴方は、まず床に横たわっている人を確認する。


 よく見れば人ではない。細部まで人に似せて作られているが、生活支援用の汎用アンドロイドだ。首の後ろに起動ボタンがある。指先で触れてみるが、反応はない。バッテリーが切れている。


 貴方は、次に棚を確認する。


 上下二段の棚には、それぞれ引き出しがある。上の引き出しは暗証番号でロックされており、6桁の数字を入力する操作パネルがある。下の引き出しはロックかかっていない。棚の上には、超長期保存可能な水筒が1本と、紙の切れ端が一枚置かれている。


 貴方は、超長期保存可能な水筒の口を開け、水を飲んでみる。変な味はせず、喉の乾きが次第に潤っていく。その後、棚の上にある紙の切れ端を手に取り、確認する。紙には次のような文字が書かれている。

 ――――

 ②PC

 ――――


 貴方は、下の棚の引き出しを開ける。引き出しの中にも紙の切れ端が一枚ある。手に取ってみるが、何も書かれていない、真っ白な状態だ。


 貴方は、再び棚をよく調べる。棚と壁の隙間に何かが落ちているのが見える。その隙間は腕がギリギリ入る程度の広さだ。貴方は腕を差し入れ、落ちていた物を拾い上げる。それは短い鉛筆だった。


 貴方は、下の引き出しに入っていた真っ白な紙を再び確認する。よく見ると、紙に凹凸がある。棚と壁の隙間に落ちていた鉛筆を使い、軽く塗りつぶしていく。すると、凹凸のある部分が文字として浮かび上がる。その文字は次のように記されていた。

 ――――

 ③B

 ――――


 貴方は、自分の衣服のポケットを調べる。しかし、特に何も見当たらない。


 貴方は、再び床に横たわっているアンドロイドを調べる。衣服のポケットを探ると、胸のポケットに紙の切れ端が入っている。その紙には次のような文字が書かれている。

 ――――

 ①ID

 ――――


 貴方は、その他の場所をくまなく調べる。しかし何も見つからない。まだ調べていない場所は、棚の上段の暗証番号でロックされた引き出しだけだ。


 貴方は、ベッドに腰掛け、三枚の紙に書かれたメモを見つめながら思案する。

 ――――

 ①ID

 ②PC

 ③B

 ――――




 ───しばしの時間が流れる。それは短くもあり、長くもある。




 貴方は、ふと閃いたはずだ。そして、引き出しの暗証番号の6桁を入力し、エンターキーを押す。


 すると、上の引き出しが自動的にスライドし、開かれる。


 その中には、手紙と小さなリモコンのような物が入っている。


 貴方は、それらを手に取り、まずは、手紙を広げて読んでいく───

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