転校生
「角田優華です。血液型はO型。誕生日は七月二十九日。特技はベースを弾ける事!! 軽音部に入ろうと思うので、よろしくお願いしま〜す!!」
元気に挨拶する転校生の優華ちゃん。私と同じクラスだったみたいで、目が合うと大きく手を振ってくる。
まさか、同じクラスとは思わなかったなぁ……。
「あれ、あの子、紫亜ちゃんと知り合い!?」
知り合いというかお隣さんかなぁ。
「きたみんの知り合いって事は三角関係の予感!?」
三角関係にはならないよ。
「ふむふむ。薄い本が厚くなりそう……」
などと皆、好き放題、噂をしている。私としては私に色々アピールしてくる優華ちゃんを目の前の席の微笑みつつ、殺気で圧を出してるエルちゃんが珍しく怖いのでそろそろ優華ちゃんはアピールを辞めて欲しい。
「じゃあ、角田さんの席は……」
それから、転校生の優華ちゃんの紹介も終わり、普通に過ごした後に放課後になる。なお、休憩時間は皆、優華ちゃんに興味津々に質問攻めしていた。
「うぇ〜」
帰り支度をして、エルちゃんと喫茶店行って帰ろ〜と約束をしていると優華ちゃんは机に突っ伏して唸っている。
「どうしたの?」
とりあえず聞いてみると、優華ちゃんは嫌そうな表情。
「従姉妹が私をシバき……いや、学校案内してくれるって〜」
「そうなんだ〜。優華ちゃんの従姉妹って誰だろ〜」
というか、今、シバきに来るって言いそうになってなかったかな?
まぁ、その疑問は置いといて、優華ちゃんの従姉妹というのは純粋に気になる。
でも、誰かに似てる気がするんだよねぇ〜。それも私の身近な人。
「えっ!? 紫亜ちゃん、聞いてないの!? 私をとりあえずシバくって言ってるのに!?」
困惑して、従姉妹が来る事に更に怯える優華ちゃん。
えっ……マジで誰なんだろ。優華ちゃんをシバきに来てちょっとキレてるっぽい優華ちゃんの従姉妹って。
「えっ……。聞いてないかも。エルちゃんは違う……よねぇ」
「シバきたくなる気持ちは同意だが、私では無いよ」
輝く程爽やかにそう言うエルちゃん。優華ちゃんにシンプルにイラッとしてるなって思ってたけど、やっぱり違うよねぇ。だって、似てないもの。エルちゃんに。
それに優華ちゃんのこの怯えよう、凄いし、反応的にやっぱり私が知ってる人だろう。
うーん。エルちゃんがこんなにイラつきを見せるのは優真くらいだったし……優真? 自分で言っていて気付く。エルちゃんは優真しか露骨にイラつきを見せてないという事は……。
そう思った所で今、クラスから迎えに来た優華ちゃんの従姉妹が優華ちゃんを呼ぶ。
「やっぱりこいつ、一回、シバいてから学校案内してあげるわ」
アッシュグレージュの髪を払いながら、イラつきつつも呼ぶ優華ちゃんの従姉妹……というか優真。
「あっ、やっぱり優華ちゃんって誰かに似てると思ってたけど、優真に似てるんだ〜」
優真は机に突っ伏ししている優華ちゃんを立つように促し、促したのに全然、立つ気配が無い優華ちゃんにノータイムで一発、背中をぶっ叩く。
「いた〜い。優真、ひど〜い」
バシィっといい音が鳴って、涙目になりながら優華ちゃんは席を立つ。優華ちゃんも身長高いな、と思っていたけど立つとほぼ優真と同じくらいの身長なので本当に高い。
「こいつは私の母さんの双子の妹の娘なのよ。私もこいつも母似だから、顔も似てる」
「あ〜。なるほどー」
だから、優華ちゃんの表情が誰かに似てるな〜って思ってたのか。納得。
「なるほど。だから、優真と同じ……いや、それ以上に彼女に腹が立つのか」
「なんか、そうしてると姉妹みたいだね!」
優真と優華ちゃん。優真はロングヘアをハーフアップにしていてアッシュグレージュの髪色に金色の瞳、優華ちゃんは金髪ショートヘアを編み込みハーフアップにしていて、灰色の瞳をしている。
「「こいつと姉妹だなんて嫌!(やだ〜!)」」
「おぉ〜。息ぴったりだぁ〜」
二人共、お互いを見つめて本当に嫌悪してる様な目をしている。
「優華は屑なのよ。こいつと似てるなんてすっごく嫌なんだけど」
「優真ってゴリラじゃん〜。やだよ。ゴリラと似てるなんて〜」
「はぁ!? 誰がゴリラだって!?」
「誰が屑なんだよ〜」
「あーはいはい。二人共、分かったから落ち着いて」
とりあえず、ヒートアップしていく喧嘩を止めると二人共フンッとそっぽを向いている。
本当に変な所で息ぴったりだなぁ……。
あの後、優真は優華ちゃんと学校案内をすると言っていたので私はエルちゃんと喫茶店に行き、気になっていたスイーツを食べて来た。
その後にいつものスーパーに行き、自宅に帰る。
「うんうん……やっぱり美味しかったなぁ〜。あのガトーショコラ」
思い出すだけで、ちょっとヨダレ出る。だって、なんかチョコが濃厚でしかも甘過ぎない上に美味しい。
また食べたいので、食べに行こうとエルちゃんと約束した。こういう甘い物食べたい時はやっぱりエルちゃんと行きたいんだよねぇ。優真だと、食べ物にそんなに執着してないし、そんなに食べれないって言うし。
だから、普通に優真にも京都旅行の時が大変だったのか、「エルと行けば」と言われている。
冷蔵庫に買った物を入れるとそのタイミングでチャイムが鳴る。誰なのか確認すると優真と優華ちゃんだった。
「あれ、いらっしゃい〜」
「お邪魔するわね」
「お邪魔します〜」
二人共、招き入れると、優真は不機嫌そうに優華ちゃんを見つめている。
「なんで、こいつ、紫亜の隣に住んでるのよ」
「え〜。たまたまじゃんか〜。なんでそんなに怒るのさ〜」
唇を尖らせながら、不服そうな優華ちゃん。優真にその事でシバかれたのだろうか。
「紫亜ちゃんと私は仲良い隣人だよ〜」
そう言ってグイッと腕を組まれてスリスリされる。そんな事したら、優真が怒りそう……と思っていた矢先、本当にキレているので辞めて欲しい。
「優華ちゃん、自分で料理作らないから、私に作らせるじゃん〜」
「は? こいつ、ぶん殴る」
「え、なんで優真が怒るの〜。紫亜ちゃんとはマブダチなだけなのに〜」
「殴る」
「え〜。や〜め〜て〜」
本当に優真が優華ちゃんにイラっとして殴る体制を取ったので、慌てて止めに入る。
「なんで、そいつを庇うのよ」
「とりあえず、私の部屋で暴れて欲しくないもん。優真、落ち着いて」
「……それもそうね」
数秒、考えた後に優真は拳を納めてくれた。
「で、紫亜、こいつと本当に友達なの?」
ジト目で優華ちゃんの事を見つめながら、優真は私に本当なのか聞いてくる。
「気が合ったってのは本当だから、友達かな〜」
「チッ」
「あ、舌打ちした〜。そう言う優真と紫亜ちゃんも友達でしょ〜。なんで紫亜ちゃんと仲良くしただけで怒るんだよ〜」
「友達じゃない。恋人」
あんまりにも優真がハッキリ言ったので、優華ちゃんはその言葉に驚く。
「え、マジで……?」
そう言って、目をパチクリさせて私の反応を伺う優華ちゃん。
「本当だよ。優真と私は恋人」
そう言うと優華ちゃんはあちゃーという身振り手振りをして、そっと私の腕を解いてくれた。
「紫亜ちゃん、私も狙ってたのに〜。もうこのゴリラと付き合ってたのか〜。てっきり、大分前に会った時は玲奈ちゃん一筋っぽかったから、まあ、ライバルはエルちゃんくらいだけど、行けると思ってたのに〜」
「誰がゴリラよ」
……あのエルちゃんの威圧受けてても私を狙ってたんだ。その根性、凄いな。
「という事で今は紫亜、一筋だから、あんたの入る隙はないわ」
グイッと優真に腕を組まれて、ドキッとする。やっぱり、私が恋愛的にドキドキする相手は優真しか居ないな、と再確認。
だって、さっき優華ちゃんに同じ事をされた時にドキドキしなかったし。
「え〜。じゃあ、勝負! 私の家で格ゲーあるから、それで勝負しよ〜。私が勝ったら、紫亜ちゃんを惚れさせる権利ちょうだい」
惚れさせる権利ってなんだよ、というツッコミはさておき、優真がそんな挑発に乗る訳……。
「は? あんたが私に勝てると思ってんの?」
「え? 受けるの??」
「当たり前よ! 優華に負ける要素ないし、勝負は全部受けるわよ」
乗りますよね〜。分かってた。分かってたよ。薄々。
「よしゃ! 決まりね!!」
「そうだよね! 決まるよね!!」
私の感情抜きで二人して、話を決めるの辞めて欲しい。
……というかこれ、優真が果たし状貰ってた時と同じ展開な様な……。
今、優華ちゃんの部屋にて、優真はこのゲームやった事が無いというので、練習モードでコンボを確認している。
三十分くらい練習すればいいよね、と優華ちゃんは優真にそう言うと優真も「当たり前でしょ。そのくらいで良いわよ」と快諾していた。
格ゲーやった事が無いなら、もっと練習が必要なのでは? と言いたかったが、そう言うのは無粋かと思い黙っていた。
「よし。やるわよ」
「よしゃ。そう来なくっちゃ!」
ダラダラとして優真の練習を見ていた優華ちゃんはにっこにこで優真の隣に座って、コントローラーを握る。
優華ちゃんは前に対戦した事あるから、知ってるけど、結構強かった。
「あれ? 今日はアケコンじゃないの?」
私と対戦した時はアーケードコントローラーでガチャガチャしていたのに。
確か優華ちゃんはゲーセン行って、格ゲーをよくしていたから、アケコンじゃないと本気出せないと言っていた様な。
「素人の優真に本気のアケコン使ったら、ズルでしょ〜。流石にコントローラーにするよ〜」
「いや、本気で来なさい」
「え? いいの? 私が勝っちゃうよ?」
自信満々の優華ちゃん。確かにアケコンで私に挑んで来た優華ちゃんは強くて、私も格ゲーで良兄をボコボコに倒す時と同じように自分が一番コンボを使いやすいキャラを使ってボコボコに倒した。
「本気の勝負じゃないと、あんたを黙らせられないじゃない」
アッシュグレージュの綺麗な髪を払って、そこにはいつもの自信家の優真が居た。
優華ちゃんも結構手強かったけど、優真も練習さえ出来れば出来るもんなぁ。
前にゲーセンのUFOキャッチャーで景品取れなかったから、動画サイトでお手本見たから、と後日一緒にゲーセン行ったけど、私が好きなぬいぐるみを簡単に取ってたし、まぁ、かなりの負けず嫌いだ。
ちなみに私はお手本を見たとて、普通に取れなかった。悲しい。
「じゃあ、やろ〜」
二人共、キャラをセレクトして対戦。優真は筋肉ダルマみたいなゴツゴツした見た目がイカついキャラを選び、優華ちゃんは見た目が綺麗なお姉さんキャラを選んでいた。
「ぷぷっ。優真みたいなキャラだ〜」
「は、うるさい。完膚なきまでにぶっ潰してあげるわよ」
そうしてゲームがスタートする。勝負は三戦勝負だ。
優華ちゃんは得意なキャラなのか、コンボやガードを上手く使ってどんどん優真のキャラのHPを削っていく。
優真はそのまま倒されて、なるほどといった風な表情。
「あれれ〜? 優真、下手くそじゃな〜い??」
「そうね。現実はどうあれ、ゲームはあんたの方が上手いわね」
優華ちゃんの挑発に乗らずに冷静にそう言い放って、またコントローラーを持ち直す。
そして、また第二戦が始まると今度は優真が攻めたり、上手くガードを使っている。
「あ、あれ? 上手くなってる??」
やがて、優真はギリギリのHPで優華ちゃんのキャラを倒した。
「え、え〜!!」
「……もっと、上手くやれたわね」
少し考えるポーズをとる優真。相変わらず負けず嫌いというかなんというか。
それから、優真はコンボやガードを上手く使い、キャラの性能を知り尽くした様な動きで優真のストレート勝ちだった。
「な、何故……そのキャラ、使いにくいって言われてるのに。この格ゲー、結構やり込んでるのに……!!」
優華ちゃんは素人の優真に負けたのがあまりにもショックなのか、しくしくと泣いている。
「ふんっ、あんたに負ける訳ないのよ」
「やり込んでる紫亜ちゃんに負けるなら、分かるけど素人の優真に負けるのはあんまりだぁ〜!!」
「まぁ、これで優華が紫亜に惚れさせる権利はなくなったわね」
ドヤ顔で嬉しそうに髪を払って言う優真。それに反して優華ちゃんは悔しそうに床をダンダンと叩いてる。まるで小学生みたいだ。
「ふんだ!! いいもんね! こっちには奥の手があるもんね!!」
「は、奥の手って何よ」
開き直ったかのように顔を上げる優華ちゃんに優真は少し驚いていた。
「ふっふっふ。私は今日、軽音部に即日入部してね。……今度体育館ライブを放課後やるって先輩達に言われた訳よ」
「……で?」
早く言えと優真の無言の圧。本当に優真は優華ちゃんに容赦ないなぁ。
「そのライブに参加して、私のカッコ良さを見せれば紫亜ちゃんも私の事を「素敵……っ!!」って思うかも知れないじゃん?」
あんまりにもドヤ顔で言うので優真はムカついたのか、無言で優華ちゃんの目の前で拳を握る。
「わぁぁぁぁぁ!! 優真、タンマタンマ!!」
「で、先輩達が居るから、あんたは出れないんじゃないの?」
とりあえず、拳を納めて優真は聞くが、その問いは最もだ。先輩達が居るのなら、優華ちゃんが出れる筈もない。
「ふっふっふ! それはね! 先輩達にベースが出来る人が居なかったから丁度良いのだ!!」
「あー。なるほど?」
「ちょっと、紫亜ちゃん。もっと驚いてよぉ〜。……だから、先輩達にむしろやって欲しいって言われたんだよ。もちろん、急だから出来る曲は限られるけどね!」
「ふーん。ま、それで紫亜の心を動かせなかったら、あんたはキッパリと諦めるのよね?」
すっごくテンション低めにそう言う優真だが、優華ちゃんはその正反対にテンション上がっている。
「そりゃあね! これでダメだったら、キッパリ諦めるよ!」
何処からその自信出てくるんだってくらい自信満々にドヤる優華ちゃん。
「じゃあ、その日は見に行くわよ。紫亜」
「いや、……うん」
私はもう二人に勝手に話を決めないでと言うのは諦めて、素直に頷いた。
その日の夜。優真は「母さんが今日は焼肉に行くから帰っておいでって言ってたから、帰る。まぁ……、優華も連れて来いってメッセージに書いてたからこいつも連れて行くわ」と言って、優華ちゃんの首根っこを掴んで帰って行った。
今日は元から優真は泊まるとか何にも言ってなかったので、二人分の材料は買ってなかった。
勉強とか家事も終わらせて、ゴロゴロしているとチャイムが鳴る。誰かと確認したら、今焼肉から帰って来たっぽい優華ちゃんだった。
「え、優華ちゃん。自分の部屋はお隣だよ〜」
「いや、間違えた訳じゃないよ!! とりあえず、入れて〜」
少し図々しいな、と思いつつも入れる。お茶を出すと直ぐに飲んでいて落ち着いていた。
「で、何の用??」
「あ、そうそう。それなんだけどさ〜。少し相談があって〜」
優華ちゃんの相談。ろくな事がなさそう。……それに、冬休みの時に貸した千円まだ帰って来てないし。
「まあまあ、そんな嫌そうな顔しないで聞いてよぅ〜」
「優華ちゃん。なんで、私が嫌そうな顔をしているのか、それは自分の胸に手を当てて自分の行動を振り返って見て、よく考えるんだよ」
ジト目で優華ちゃんにそう言うと素直に優華ちゃんは手を当て、首を傾げた。
「うーん。……わっかんない」
「優華ちゃん。帰っていいよ」
「うそうそうそ!! 借りたお金、返すから! ……明日」
「千円、普通に今、返して欲しいけど、……まぁ、優華ちゃんにも生活と言う物があるから、本当に明日返してね」
「紫亜ちゃん、大好き!!」
そう言って、抱き着かれて、ほっぺをスリスリされる。
「……で、要件って何?」
「あ、そうそう。本来の目的、忘れる所だった!!」
手をぽんと叩いて、優華ちゃんは本来の目的を話し始めた。
「部活に入って、帰る間際に先輩に言われたんだけどさぁ。去年の先輩に唯一ベース出来る人が卒業しちゃって、一年生にもベースやった事ないから、やりたいって初心者の子が何人か居るらしいんだけど、普通に経験者の私よりは経験浅いから、私が抜擢されたんだけどぉ」
優華ちゃんは優真と顔が似ているけど、優華ちゃんの方がクルクルと表情が豊かだなぁ。
「で、私、顔が良いからそのままボーカルもやって欲しいって頼まれたんだよね。でも、入部したてでやる曲多くて、ベースに集中したいから、代理ボーカルでも探そ〜って思ってたんだよね」
「ふんふん。優華ちゃんも大変だねぇ〜」
まぁ、確かに優華ちゃんは優真と顔が似ているだけあってビジュアルは本当に良いし、優真と本当に姉妹みたいな顔してるし。違うのは表情豊かなのと、ちょっとクズさがある所と金髪で灰色の瞳をしている所だろうか。
格ゲーで言えば、同じキャラを二人共選択した時に一人が違うカラーリングになったみたいな。性格が本当に違いすぎるけど。
「だから、紫亜ちゃんに頼もうと思ってね!」
「……え、」
何言ってんだ。この優真のカラーリング違いの人。
「もしかして、私を餌に優真を挑発したのも……」
「えへへ。さっすが、紫亜ちゃん。察しがいい。絶対そのまま誘っても紫亜ちゃん受けてくれなさそうだし、優真が行くとなれば来るでしょ? それに体育館ライブの日はちょうど、優真の誕生日だし、余計に受けてくれそうかなぁ〜って!!」
「ぐぬぬ……アホそうに見えて、優華ちゃん。策士」
「アホそうって言った!? ナチュラルに暴言!!」
「後、本当に千円返してね」
「明日返すってば〜!!」
……というか優華ちゃん。
「私の事が好きって優真の挑発の為の嘘、なんでついたの?」
そう言うと優華ちゃんはニコリと笑う。
「紫亜ちゃんには悪いけど、優真には借りがあってねぇ。……それを誕生日に返そうと思って」
借り、とは良い方だろうか、悪い方だろうか。今日の姉妹喧嘩みたいなやり取りを見ててもどっちか分からない。
「ふっふっふ。優真に最近一万円、借りちゃったから、優真の誕生日の日に……恋人の紫亜ちゃんがまさかのボーカル!? そして、それをサプライズで仕組んだのは私、優真は私に大感謝!! 更に一万円がチャラ!! ……になるかもしれないと思って」
「借り、ってそっちの……」
「あ〜!! 紫亜ちゃん、露骨な呆れ顔してる〜!!」
思ってたより屑な思考回路だった……優華ちゃん。
「……で、でもでも! 私を助けると思って受けてよ! 紫亜ちゃん〜」
めちゃくちゃ情けなく私に抱き着いて、私を逃さないという姿勢を取られた。な、情けない!!
「……はぁ、もうしょうがないなぁ」
「いいの!?」
「……うん。歌は……人並みだけれど、練習するね」
「私も頼んだからには手伝うよ!!」
優真と優華ちゃん。顔が似ているせいか、かなり困っている顔をしている優真と優華ちゃんの表情が重なってなんか断りづらい。
「それにちゃんと、軽音部の先輩達や同級生に説明するんだよ」
「するする〜」
「……後、優真に一万円はちゃんと返そうね。後、私の千円も」
「い、一万円は……今度バイトするからバイト代入ったらその時に〜。あ、後、紫亜ちゃんの千円は明日、明日お小遣い入金してくれるって父さん言ってたから、その時に返す!!」
などと言っているが、本当だろうか。……まぁ、優華ちゃんは優華ちゃんなりに優真の誕生日をお祝いしたいからこのサプライズを考えたんだろうし。
そうぼんやり思いつつも、抱き着いている優華ちゃんを無理矢理引き剥がすのだった。
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