サプライズ

 軽音部の人達がまさかの「北見さん、ビジュアルつよつよで声もいーからオッケー」と快諾だったらしく、優真の誕生日の日にお披露目する為に優華ちゃんとたまにカラオケに行って練習したり軽音部にお邪魔して練習したりと地味に忙しい日々を過ごしていた。


 その間に優真にはバレないようにれーなちゃんやエルちゃんに事情を説明して一緒に誤魔化して貰っている。


 優華ちゃんは優華ちゃんで普段アホな感じだけど、ベースを弾いている姿は普通にカッコイイので、これがギャップというのか〜と感心していた。


「紫亜ちゃん、ベース弾いてる私、カッコイイでしょ!!」


 軽音部でドヤる優華ちゃんに私と部員の人達は……。


「カッコイイけど、今日こそ貸した千円返してね」

「私も昨日貸した五百円返ってきてない」

「俺は前にこいつに貸した千二百円返ってきてねぇな」

「か、返す!! 今度返すから〜!!」


 私と部員達に囲まれて、金を返せと迫られる優華ちゃん。これさえなければ……。本当にカッコよかったんだけどねぇ。


 私の千円、マジで返すって言われて返って来てないから、返して欲しい。


 それから、軽音部の人達と合わせてまた練習する。ちなみに優真は今日は泊まりに来ると言うから、放課後も一緒に遊ぼうと言われたが大変申し訳ないけど断った。


 そして、私に断られて軽くショックを受ける優真をれーなちゃんが柔らかく微笑みながら回収して行ってくれた。回収際にれーなちゃんが「いい加減、メンタルを絹ごし豆腐から木綿豆腐になりましょうね〜」と軽く辛辣な事を言っていたが。


「……というか、優華ちゃん。臨時ボーカルやるってなってから気になってたけど」

「なに〜」

「歌う曲、ほぼラブソングじゃん!!」


 私の問いに優華ちゃんは待ってましたというばかりの笑み。


「ふっふっふっ。だから、私はあんまりボーカルしたくなかったんだ!! 女の子と付き合っては金返せって言われて別れを告げられる……そんな、私が恋愛ソングなんて快く歌える訳ないなって歌う曲見た時に思ってたんだよね〜」

「……優華ちゃん」

「なに?」

「ベースで覚える曲多いからって言ってたよね」


 ジト目で優華ちゃんを見つめる。ついでに制服の裾も握って、逃げられない様にする。


「そ、それもあるけどぉ〜。……本音はここでして」

「……はぁ〜」

「クソデカため息!! ごめんよぉ〜!! 優真の誕生日を祝いたいってのも本音、ベースが大変ってのも本音、そして、恋愛ソングが乗り気じゃないから歌う気ないってのも本音なんだよぉ〜」


 優華ちゃんは清々しい程、正直なんだけど本当にクズ気質なんだよねぇ〜。


「うん。分かった。優華ちゃんは清々しい程のどクズって事が」


 などと優華ちゃんの事は諦めながら、代理ボーカルの練習をするのだった。







 その日の夜、少しジメジメキノコを生やした優真が泊まりに来た。


「れーなちゃんに迷惑掛けてない? 大丈夫だった?」


 ジメジメしながら、夕食を食べる優真にそう聞くと優真は少しため息。


「迷惑掛けてないわよ。……ただ、ちよ丸とやり合ってただけで」

「……ああ」


 猫のちよ丸くんとじゃれあってたのかぁ。まぁ、優真とちよ丸くんはお互いが気に入らない様子だから、喧嘩してたんだろうけど。


「……で、紫亜の用事は済んだの?」

「うん。マックスが最近ちょっと私と会いたがってるから、会って絡んで来た!」


 最近軽音部に入り浸っているというのはサプライズなので、優真が着いてこない様に実家でマックスと遊んでるという事にしている。


 後は本当にエルちゃんとれーなちゃんにフォローして貰ってるんだけども。


「そ。それなら良かった」


 微笑ましそうに私を見る優真にチクリと胸に罪悪感。


 優真の誕生日の為に嘘ついてるんだけど、その為に優真に嘘つくの本当に申し訳なく感じるし。


 夕食も食べ終わり、色々やりたい事もして、二人でベッドの中。


 優真はぎゅっと私を抱き締める。少し動きにくいが、やはり大好きな人と一緒というのは安心出来て嬉しい気持ちが溢れる。


「このまま寝てもいい?」

「うん。いいよ。嬉しいし」


 今日は珍しく抱かれないで寝るな、とぼんやり思う。泊まりに来た時はだいたいそうだったし。


「今日はしない?」


 一応、聞いてみると優真はちゅっと返事をするように私にキスする。


「しない。今日なんかノリで紫亜の事を朝まで抱き潰しそうだし」

「あ、朝までは寝不足になるかも……」

「でしょ。だから、今日は週末まで我慢する」


 週末の事を意識してしまい、ドキッとしてしまう。本当にそう言う事を言うのはずるいと思う。


「……もう。優真のすけべ」

「すけべで良いわよ。そのくらい紫亜の事が好きなんだもの。好きなだけ好きに言いなさい」

「むむむ……ノーダメージ」


 優真は正直に言ってくれるから、私は愛されていると安心出来て嬉しい。

 そんな言い合いながら、優真に抱き締められてる安心感からか、すんなりと快眠出来た。

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