デート
結局優真は私の家まで着いて来て、そのまま私は私服へと着替えようと制服を脱いだ。
「ちょっと、女の子の着替えをガン見してるだなんて優真のえっち」
「えっちじゃないわよ。いつもよく見てるじゃない。……紫亜って肌白いから目立つわね。それ」
はいはい。ヤリ過ぎて、見飽きてるって事かな。
そう思いつつも、優真に言われて下着姿の自分の身体を見る。結構えげつないくらい付けられてるキスマークが嫌でも目に入る。
「優真。……付けすぎ」
「今日も付けるから」
「何それ。罰ゲームか何か?」
「罰ゲームなら罰ゲームでちゃんと目立つ場所に付けるけど」
「じゃあ、罰ゲームじゃなくていいや。来週の学校の時に困るから目立つ場所は嫌なんだよぅ〜」
そこまで言いながら、パーカーとスウェットパンツに着替える。
「来週から夏服だから、それまでに消えると良いわね」
「絶対に思ってないでしょ。誤魔化すの大変なんだから見える所は本当に辞めてよね」
ついつい強い口調になってしまうが、学校でクラスメイトが彼氏の独占欲が強過ぎて隠すのが大変だ、と聞いた事がある。
優真の場合は独占欲じゃなくて、私を困らせたいだけだろうけど。
……はぁ。本当にキスマークの消し方を検索しておこう。あの時にクラスメイトの話を聞き流すんじゃなくて真剣に聞いてれば良かった。
まさか優真がやるなんて思わないじゃん。優真が執着してるのはれーなちゃんなんだし。
「優真」
「何」
「ヤるだけなら、別に夕方とかいつもの感じで良かったんじゃない? 帰る前に言ってくれれば良かったのに」
優真と会いたくなかったのは本当だが、家に来てくれた人を追い返す事はしない。
「……嫌よ。昨日みたいに居ないかもしれないじゃない」
「いや、もう居るよ〜。……ったく、後、ずっと気になってたけどその手荷物何なのさ〜」
優真がなんか着いて来た時に涼しい顔をしながら、持ってた大っきい手提げ袋。
何となく持ってみる。
「おっ……重っ」
「それ、重いわよ。お米、五キロ入ってるから」
「え、なんで」
なんで、優真がお米五キロを持ってきてるのか意味が分からない。
手提げ袋から取り出して見ると、本当にお米五キロが現れた。
「朝一回家に帰って、今日は紫亜の所に泊まるからって、言ったらいつも手ぶらで行って申し訳なくないのか、ってシンプルに怒られて持たされた」
「お米ちゃん。おお、よしよし。優真のお母さんにも大変喜んでたって言ってね」
お米、最近高いから本当に助かるなぁ。優真のお母さんはまともなのに、なんで優真はこんなに傍若無人に育っちゃったんだろ。
お米ちゃんを抱きしめてスリスリしていると優真は怪訝な表情。
「分かった。伝えとく。……なんか、私がいつも来た時よりもお米の方が喜んでない?」
「いいかい。優真。今、お米がバカ高くて、地味に家計が苦しいんだよ。家族に生活費増量して欲しい、なんて一人暮らしする時にも我儘を言ったのにこれ以上言えないんだよ。バイトしても良いけど、バイトしたら学力が終わる……最近受けたテストも一生懸命、ほぼ毎日予習復習してギリギリ真ん中だったし」
そう。入試の時よりも順位が落ちていた。ここがハチャメチャ進学校って事を私は肝に銘じなければいけないのだ。ここが普通の学力の高校なら、バイトしてもいいか〜って思ってたけど、本当にテストで順位が下がって危機感を覚える。
……まぁ、優真を追い掛けて、自分の学力よりも上の学校に来ちゃったから、こうなってるんだけど。
だから、毎日予習復習していれば入試の時の順位をキープ出来るだろうと思っていた私が甘い考えだったのだ。
「というか、優真はテスト何位だったの?」
「三位」
「……不公平だよ〜!! なんでこんな顔とモデル顔負けのスタイルとスポーツしか取り柄がありませんって奴が三位なんだぁ〜!!」
「紫亜、私に失礼な事を言うのか褒めるのかどっちかにしてくれない? 今回は三位以内に入れれば、母さんが小遣いを上げてくれるって言ったから頑張っただけよ」
なるほど。通りでテスト期間中は優真も私の所に来なかった筈だ。中学の時も成績良かったけど、テスト期間中も普通に友達と遊んでたくらいだったし。
「ちなみに一位は玲奈よ」
「れーなちゃん、遂に一位になっちゃったのかぁ……あの可憐な美少女の見た目で頭も良い。完璧だねぇ。エルちゃんも今回は十位だったって言ってたし、私も勉強もっと頑張ろう」
どうしても家に帰って家事して、ご飯作って、お風呂入って、それから勉強して、ちょっと好きな事して〜ってやると寝る時間も限られちゃうんだよねぇ。
寝不足にならない程度にしてるけども。
最近羊毛フェルトで好きなキャラクターや動物を作るのにハマってるし、昨日読んだれーなちゃんおすすめの小説も続き気になるし、やりたい事はいっぱいだ。
「で、何するの?」
まさかこんな休日の朝からセックスしようだなんて言わないだろう。だいたい、私の家はラブホじゃない。
……いや、優真が来てる時はだいたいそうなんだけれども。
「デート」
「デートって外出るの? 私、誰かさんのせいであんまり眠れてないのに〜?」
嫌味ったらしく口を尖らせて言ってみる。
「はいはい。ごめんごめん」
「すっごい、棒読み。……ま、優真ちゃんが謝っただけ偉いか〜」
「なんか、紫亜にそう言われると腹立つわね」
「で、どこ行くの?」
そう聞くと、優真はスマホを取り出して、画面を見せる。
「へぇ〜。水族館。優真がこういう所に行きたいだなんてどういう風の吹き回し?」
優真が水族館に行きたい、とか言った事一度もない気がする。中学時代は他の友達が行きたいから行こうって行ったことはあるけど。その時も優真はそんなに楽しそうにして居なかった。
「紫亜、前にここのアイスクリーム食べたいって言ってたでしょ」
「ああ〜。確かに言ったかも〜。でも、別に優真が乗り気じゃないなら、行かなくても良いよ。今度エルちゃんと一緒に行こうねって約束したし」
「は? エルと?」
そんなに水族館が好きじゃない癖に、どうしてエルちゃんの名前を出したら不機嫌になるのか。
「うん。エルちゃんも私も食べるの好きだし、ここの水族館行った後に寿司屋に行こうって約束してるんだよ」
「何それ。聞いてないんだけど」
「そりゃあ言ってないよ。エルちゃんとの約束だもん」
そう言うと優真は気に入らないのか、舌打ちをする。
「なんか、エルと一緒に行くってのがムカつく」
「……意外。優真ってエルちゃんの事、好きじゃないんだ。あんなにエルちゃん優しいのに」
「それは紫亜だけにでしょ」
「そうかもねぇ〜。大親友だし」
まぁ、よく考えればそうかも。エルちゃんは優しいけど、断る事ははっきり断るから、皆にって訳じゃなさそうだし。
「は?」
また気に入らなそうな表情。本当にエルちゃんの事が好きじゃないんだな。
「なんでそんなにエルちゃんが好きじゃないのさ〜。エルちゃんは人当たりいいのに」
「相性が悪いからよ。前に用があって図書委員の玲奈を待ってた時に、エルも図書委員だったけど、玲奈が丁度、先生に呼ばれて席外してる時にちょっと口論したし」
「え!? エルちゃんと口論したの!? ……それはきっと優真が悪いよぉ〜」
あの物腰柔らかなエルちゃんが悪いとは思えない。きっと傍若無人の優真の方が悪い。
「なんで、話を聞いてもないのに私が悪いって言うのよ」
「え〜。じゃあ、なんで揉めたの?」
ジト目でそう聞くと、優真は私の事をじーっと見つめてため息。
「紫亜には絶対教えない」
「えぇ〜理不尽だぁ〜。じゃあ、優真が悪いよ」
「……もうそう言う事でいいわよ」
どうしても口論の内容は教えたくないみたいだ。あのエルちゃんと何の話で揉めたのか気になるけど、これ以上優真に聞いても教えてくれないだろう。
「なんかムカつくから、水族館はなし。映画館でなんかテキトーに映画観ましょ」
「えぇ〜。急にお出かけランク下がった〜」
「映画館も立派なデートスポットでしょ。どうせ、紫亜の事だから、ポップコーンでも食べれば機嫌直るくせに」
「そんなんじゃあ直らないよ〜」
なんて言いながら、とりあえず部屋着からお出かけ用の半袖の上に日除けにワッペン付きのカーディガンを羽織る。その下にショートパンツだ。
「とりあえず、行くわよ」
優真に引きずられながら、最寄りの映画館に向かう。そこはショッピングモールの中にあるので、映画を観た後もウインドウショッピングも出来るし、退屈はしないだろう。
「何を見る?」
恋愛、ホラー、ドタバタコメディ、サスペンス、アクション、ほのぼのアニメ、うーん。何を観ようか。
「これ、観ましょ」
聞いてきた癖に優真は洋画のアクション映画が観たそうだった。
「いいよ〜」
特に見たいのないし、まぁいいかと優真が観たい洋画を観る事にした。
映画の券も買って、私はウッキウキでポップコーンのチョコレート味を買いに並んで買う。
ふっふっふっ。やっぱり、映画にはポップコーンだよね。
ポップコーンが買えてニコニコしていると、私が並んでる間に映画のグッズを見てた優真と合流した。
「……ほら、ポップコーンで機嫌直ってるじゃない」
「あげないよ!」
ギュッとポップコーンの容器を抱き締めて優真に威嚇する。
「食べないわよ……ほら、行くわよ」
呆れ顔の優真に着いていく私。
優真はなんだかんだこのアクション映画が凄く楽しみみたいで始まるまで、結構ソワソワしていた。私は映画始まる前にポップコーンを食べてしまいそうな勢いで食べてたけど。
予告も終わり、映画が始まる。
結構本格的なアクションの映画で迫力も凄くて観ていて、わりと面白かった。
優真も結構食い入るように観ていて、面白いみたいだった。
「あんまりこういう映画観ないけど面白かったね」
「私は好んでアクション映画観るけど、これも面白かったわね」
なんてご機嫌だ。優真はわりと顔に出るから分かりやすい。
「次、どうする〜?」
「もう良い時間だし、ご飯食べましょ」
「わーい。ご飯だ〜」
手を挙げて素直に喜ぶと優真は不意に頭を撫でてくる。
あまりにもいきなりだったので、こういう事にドキッとしてしまう。
「こうしてると小学生みたいね」
「高校生だよぉ〜」
「そうね。あそこの定食屋でいい?」
映画館を出た先にある定食屋を指差してた。丁度、人も並んでないし直ぐに入れそうだ。
「いいよ〜。あ〜。お腹すいた〜」
「さっき、ポップコーンを一人で食べてた奴が何言ってんのよ」
ジト目で優真は私を見る。
「育ち盛りだからしょうがないんだよ〜だ!」
「本当にいつも私よりもガッツリ食べてるのに、紫亜の何処に消えてるんだか」
優真は軽く息を吐いて、定食屋に入る。
「二名様ですね。テーブル席にご案内します」
店員さんに案内されて、座る。
私は直ぐさま、タブレット端末のメニュー表を見て、何を食べようか悩んでいた。
そんな私をじーっと見ているだけの優真。お腹すいたのだろうか。
「どしたの。優真。……先にメニュー見たいの?」
「いいや。メニューは後で良いわよ。そんなに悩まないし、紫亜が先に好きなの頼めば?」
確かに優真はわりとテキトー、というかメニュー見て直ぐにコレって選ぶタイプだから羨ましい。
私はあれも食べたい、これも食べたいで悩むタイプだから選ぶのに時間が掛かる。
「うーん。昨日、チキン南蛮食べたから、今日はこの天ぷら定食食べようかな」
本当はすき焼き定食とハンバーグとエビフライ定食とサバの味噌煮定食で悩んだ。
でも、さっき他のテーブルのお客さんが食べてた天ぷら定食が美味しそうだったんだよねぇ〜。
普段自分で選ばないから頼もうと逆に思ってしまった節はある。
「優真は?」
「これで」
そう言ってタブレット端末で天丼を選んでいた。
「天丼なんだ〜。天ぷら定食の方がデザートも付いてるのに」
ここのお店は定食を選ぶと好きなデザートが一品付いてくる。プリン、コーヒーゼリー、杏仁豆腐が選べた。ちなみに私は杏仁豆腐にした。
「私は紫亜みたいに食べないのよ」
ちなみに天丼もうプラスで少し出すだけで豚汁か味噌汁が付いてくるが、優真は単品だけだった。
まぁ、体型を気にしてるとかでもないし、私みたいに食に貪欲では無いというだけだろう。
「紫亜」
「何〜」
しばらくして、頼んだものが届くとニコニコになってしまう。いただきますをして食べると、塩を付けて食べても、天つゆに付けて食べても美味しいので、やっぱり美味しいものは正義だ。
「……梅塩もあるわよ」
優真は何かを言いかけた所で辞めたみたいで、飲み込んだ言葉の代わりに梅塩を差し出された。
「わーい。ありがとう」
梅塩を天ぷらにかけて食べるとそれも美味しくてご飯が進む。
本当は何を言いたかったか聞いた方が良い気はしたが、どうせ聞いた所で優真は言わないと決めたら言わない。なので聞いても無駄である。
それから、定食屋でお会計をして出ようと思ってたら、優真に全額支払われていた。
「え、別々でお会計が出来なかったタイプのお店?」
お店を出て、直ぐに小声で優真にそう聞くと、静かに首を振った。
「いいや。出来たけど。今日の朝、母さんにどうせ朝から何処かに遊びに行くのならご飯くらいは奢りなさい。いつもタダでご飯を食べて、寝て帰ってるのだから、と念を押されてお米五キロ持たされたってのもあるし、まぁ、母さんに言われて確かに私は紫亜に甘え過ぎてるな……とも思ったからこれくらい奢るわよ。本当は映画も奢ろうかと思ったけど、全部奢られると紫亜も遠慮するだろうから……それだけよ」
「朝からバチクソ怒られたんだね。……何はともあれ、ご飯奢ってくれてありがとう。優真」
なるほど。それで朝の手ぶらで申し訳なくないのかに繋がるのか。優真のお母さんは本当にまともだぁ。
「どういたしまして。紫亜は……何か見たいものでもある?」
趣味の羊毛フェルトで好きなキャラクターや動物作るのがマイブームだしなぁ。雑貨屋に置いてあるから見に行ってもいいかもしれない。
「雑貨屋で羊毛フェルトのキット、見に行ってもいい?」
「……いいわよ」
「あれ? 嫌だった?」
「いいや。紫亜って羊毛フェルトとかするんだ、と思っただけよ」
返答に間があったから嫌なのかと思ったから、そうじゃないならいいか。
「うん。するよ〜。最近の趣味。じゃあ、行こ〜」
雑貨屋に付くと、優真は他の所を見ていて、私は羊毛フェルトで何作ろうか考える。最近ハリネズミを作ったから、次はカワウソ作りたいなぁ〜と思案する。
羊毛フェルトは何にも考えたくない時にチクチクと針を刺して作るから没頭出来る。まぁ、材料費の関係で毎回は買えないし、作れないのが難点だけど。
それに優真がさっき奢ってくれたお陰でお金がちょっと浮いたのでそのお金で材料を買おう。本当にありがとう。優真。
優真に心の中で感謝しながら、カワウソの羊毛フェルトのキットを買った。
「それ、買ったんだ」
「カワウソだよ〜。可愛く作るんだぁ〜」
「ふーん。そういうのって私にも作れそうなのあるの?」
お、なんか優真が興味を持ってくれたみたいだ。
「あるよ〜。ほら、この初心者用キットの方から選べば必要な物も入ってるし、作りやすいよ」
そうやって優真に初心者用のキットと中身に羊毛フェルトと使用するニードルが入ってるから見なよと内容物を見せる。
「うわ、これでチクチクやってくの? ……私には無理」
「秒で諦めた!!」
ちぇ〜。優真も手芸の楽しさに目覚めると思ってたのに。
ま、料理や手芸は元々優真は不得意だからやらないとは思ってたけど。
「次、どこ行く?」
「ま、テキトーに何か見て周りましょ。時間はあるんだし」
優真の提案に確かに、と納得し、二人で色々見て周り、私がちょっと疲れたのでカフェで一休みする事になった。
「私はチーズケーキといちごパフェとホットココアにしよ〜」
「本当によく食べるわね」
「動いたから、食べられるよ! まぁ、この二つで悩んだからもう両方頼んじゃお〜って思っただけ」
ふっふっふっ。ちょっとお金が浮くとこうやってどんどん無駄使いしてしまうのが私の悪い所。正直奢って貰った分からはマイナス。さっき、羊毛フェルトも買っちゃったし。
「あっそ」
「優真は? お冷だけじゃダメだよ〜」
「流石にそんな事はしないわよ」
そう言って、優真が店員さんを呼んでくれて、頼んでくれた。
「優真、コーヒーゼリー食べるんだね〜。というか両方コーヒーだ〜」
優真が頼んだのはブラックコーヒーとコーヒーゼリー。よっぽどのコーヒー好きじゃない限り普通は片方違うものを頼みそうだけど。
「何となく、目に付いたから」
「えぇ〜。なんか凄いコーヒー好きな人みたいな選択してるのにテキトー過ぎない??」
「頼まない訳にもいかないから」
そう言って、直ぐに来たホットのブラックコーヒーを一口飲む優真。
その仕草が様になっていて、姿勢も綺麗だからついつい見とれてしまう。
「優真って本当に姿勢綺麗だよねぇ」
「スポーツって体幹必要だし、自然とね」
色々なスポーツも得意で小さい頃から色んな格闘技やったって言ってたもんなぁ。
優真、色んな格闘技でめちゃくちゃ強かったらしいし、中学生の時に痴漢やナンパして来た男を締め上げたり、した事あるらしいし。
優真、見た目が元モデルのお母さんに似てスラッとして綺麗な顔してるし、変な奴が寄ってくるからってお父さんが色んな格闘技教えてくれたって言ってたけど、優真の場合は強過ぎて過剰防衛だよ。
その色んな格闘技も優真は才能あったけど、そこまで興味無いから続けなかったらしいし、スポーツも何やっても出来る癖にやる気ないし。
「そういえば優真の好きなのって何〜? ご飯はテキトーだし、格闘技もスポーツも才能有るのに興味無いし」
優真の好きなのってれーなちゃんくらいしか思い付かないから、思い切って聞いてみよう、くらいのノリで聞いたのだが、優真は少し考えるようにして、テーブルに両肘を付いて私を凝視する。
「紫亜」
「え、私?」
「……そうだ、って言ったらどうする?」
これは多分、からかってるだけなんだろうなぁと察する。これが本当なら、私だってこんなに告白するのに躊躇って逃げて、ズルズルと片想い引きずってないよ。
「ま、嬉しいけどさ〜。優真、テキトー過ぎるでしょ。そりゃあ、目の前に居るのが私だけどさ〜」
どうせ、めんどくさいから目に付いた私の名前を出してるだけだろう。分かりやすい。
「ふーん。面白くないわね」
あ、やっぱりからかってたんだ。
優真はそう言いながら、丁度来たコーヒーゼリーを一口食べる。
「おいし……」
「へー。一口ちょうだい!」
他人が食べている物というのは何となく美味しそうに見えるもので、ちょっと、優真が食べているそのコーヒーゼリーがどんな味か興味を持ってしまった。
まぁ、エルちゃんには同じ物を食べてない時はよくそう言って交換して貰う事が多いので癖と言えば癖なのだけれど。
優真の事なので食いしん坊とか言いながら、くれそう。
「はい。あーん」
一口分すくって私の方にスプーンを向ける。
私としてはくれるなら、自分のスプーンで食べるつもりだったのだけれど、まさか優真が恋人みたいな事をするとは思わなくて、心臓に悪い。
というか、間接キスでは?? と何度もキスをした事ある癖に変な所で余計に緊張する。それに素直に何にも言わずに普通にくれたのも意外で驚く。
「ほら、紫亜」
いつもより柔らかく名前を呼ばれて、ドキドキしてしまう。
少し髪が邪魔だったので、とりあえず耳に髪をかけてから、優真が差し出してくれているスプーンから一口コーヒーゼリーを貰う。
じっくり咀嚼したが、食べたいと自分が言った癖に緊張のせいか、味がよく分からなかった。
「どう? 美味しいでしょ」
「うん。美味しいね。私も今度頼もっかな〜。……優真も私の一口食べる? チーズケーキかパフェ」
いつもの調子で言っては見るが少し早口になる。
「いや、私はいいわよ。それ、二つ頼むくらい何だから、食べたかったんでしょ?」
まぁ、確かに食べたかったから頼んだけど、貰った分くらいは一口分返したかった、という気持ちはある。
その後、優真はそのままそのスプーンでコーヒーゼリーを食べて、私が食べ終わるのを静かに待ってくれてた。
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