デート 2

「いや〜。今日は楽しかった。ありがとうね。優真」


 意外と色々見てまわるのも楽しくて、途中ゲーセンにも寄ったが、優真がUFOキャッチャーでぬいぐるみが取れずにただお金を散財したり、二人でレースゲームで対戦したりと楽しかった。


 外を見るとしっかり日も暮れて、一日を楽しく遊んだな〜と実感する。


「私も楽しかったから良かったわよ」

「あ!」

「どうしたのよ」

「このまま、ついでに買い物に行ってもいい? そろそろタイムセールの時間だし、半額シール貼られてる頃だ!」

「いつもタダでご飯食べてるから、荷物持ちくらいはするわよ」


  朝、優真のお母さんに怒られた事がじわじわと来ているらしかった。


「もう、今日お米五キロくれたし、ご飯も奢ってくれたからそんなに気にしないでよ〜。だいたいいつでも来ていいからって合鍵渡したの私なんだし」


  告白出来なかった上にセフレになろ〜なんて頭沸いた事を一番初めに言ったのは私。だから何にも言わなかったというのもある。


 それから二人でスーパーに行き、カートを押してると優真にふと声を掛けられる。


「ねぇ」

「なに〜」

「前に私が食べたい物を作ってくれるって言ったわよね」


  確か優真がれーなちゃんに振られる前にそんな話をしたような気がする。


「言ったよ〜。食べたいものあるの?」

「カツ丼」

「へー。意外〜」


  優真は食に対しては出来れば美味しい方がいいが、究極的に言うと食べられるなら不味くても問題ないし、別に一食分が手短に取れるゼリーとかでも良いとかいうタイプだ。


 明確にこれ食べたいとか言うタイプじゃないので、あの時に言ったやつも話の流れでただ言っただけだと思っていた。


「もしかして目に付いたから言っただけ?」


  ここは肉のコーナーではなく野菜コーナーだが、お昼に定食屋で食べてた人を見たから言っただけという可能性もある。


「いいや。違うわよ。ただ、カツ丼ってなんかゲン担ぎに良いじゃない」

「受験生とか何かの選手みたいな事言うねぇ〜。何のゲン担ぎなのさ」

「……さぁ、なんでしょうね」


 優真は綺麗に微笑んで、サラッと流されたな、と思った。こうなったら聞いても無駄なので聞かない。


「ま、なんでもいいけどね〜」


  そう言ってカツ丼の材料を買う。そのついでに他の日用品も今日は優真が居て荷物持ちが居るのでカートに入れた。


「いや〜。今日は優真が居て助かったよ〜。ありがとう」

「荷物持ちするとは言ったけど、こんなに容赦なく日用品と食料品を持たされるとは思わなかったわ」

「いや、シャンプーやリンス、トイレットペーパーも一気にあんまり無くて〜。後、安いな〜って思うけど、二リットルのお茶のペットボトルとか普段重くて持ちたくなくて〜」


 その点、優真は私と違って筋肉あるから軽々持ってる。凄い。私も二リットルのペットボトルを軽々持てるようになりたい。 


「……ごめんね」


  てへっと舌を出すと優真は盛大なため息。


「あんた、本当に夜、覚えてなさいよ」

「あ! あんな所に福引きが!!」


 そんな優真の言葉を強引に誤魔化す様に、元々行くつもりだった福引きを指差した。


「……ああ。そんな券を紫亜が貰ってたわね。引いてくれば?」

「そのつもりだよ。今日はいっぱい買ったし、前からちょこちょこ貯めた分があるから十回は引ける……」

「良かったじゃない」


  荷物を持ったまま、優真は興味無さそうに相槌。


「じゃあ、あの二等のお米二十キロ引換券か三等のフライパンか残念賞のトイレットペーパーを貰ってくるね!」

「一等の商品券三万円分とか特賞の遊園地のチケットとかじゃないのね」

「そりゃあ、一等は当たれば助かるけどさ〜。遊園地はその日で終わりじゃん。私にとっては二等と三等と残念賞が一番助かるのさ〜」 


  お米は何キロでも欲しいし、フライパンは最近テフロン加工がちょっと剥がれてきてるから、買い替え時だし、トイレットペーパーは毎日使うからいくらあってもいい。


 家族がめちゃくちゃ喜んでたのを見ても有難みが分からなかったが、一人暮らしをするようになって有難みが分かるようになり、有難みが倍増してしまった。


「よし! 行くぞ〜!!」


 いざ、勝負!!


 カランカラン。


「おめでとうございます。特賞の遊園地招待券です!!」

「わ、……わーい!」


  結果はトイレットペーパー九つと特賞の遊園地。


「と……トイレットペーパーは嬉しいけど、どうせなら三等……今、一番買い替えたいフライパンが欲しかった……」


 優真の所に戻ってそうブツブツ言いながら、二人で帰る。


「ふーん。まぁ、トイレットペーパーは貰えたから良かったじゃない。それに特賞とか中々当たらないだろうし」

「そうだけどさぁ〜。遊園地か……四人まで入れるのか……まぁ、行けば楽しいんだろうけども問題は誰と行くかだし……」


  本当は優真とれーなちゃんとエルちゃんを誘えばいいかと思ったけど、優真とエルちゃんは仲悪いらしいし、優真が居るんじゃ、私とれーなちゃんが今度は気まずくなりそう。


  それに家族誘うにも、こういう所、三番目のお兄ちゃんしか興味無いだろうし、もういっその事、お兄ちゃんにあげた方がいいかもなぁとも思って来た。


「居るでしょ」

「え〜。誰〜。友達誘うにしても四人だよ〜」

「私と玲奈とエルと紫亜で行けばいいんじゃない?」

「え、……でも、今日エルちゃんと仲良くないって聞いたばっかりなんだけど」

「それはそれ、これはこれよ。私は玲奈を誘うから紫亜はエルを誘いなさい」

「……まぁ、優真が良いのなら良いけどさぁ〜」


  涼しい顔して言う優真を怪訝な顔で私は見るだけだった。








 帰って、手洗いうがいして、買ったものを整理して冷蔵庫に入れるものは入れる。そして早速カツ丼と豚汁を作った。 


 豚汁は明日の朝にも食べられるしね。


「「いただきます」」


  一人でも美味しいけど、誰かと食べるとやっぱり美味しい。


「優真、ゲン担ぎ出来そう?」


 何のゲン担ぎかは知らないけど、したいみたいだし聞いてみる。


「出来そう。ありがとう。紫亜」


 そう言って私の頭をナチュラルに撫でて来るが、普通にドキドキしてしまうので不意打ちは辞めて欲しい。


「そう。それなら良かった〜」


  それから二人共、カツ丼を食べ終わったので、さっさと食器を片付けにかかる。


 こういうの後回しにするとやる気がなくなって来るんだよねぇ〜。 


「紫亜」

「なに〜」


 さりげなく食器を洗うのを手伝ってくれてる優真がじっと私を見つめる。


「カツ丼、ちゃんと美味しかったから、……作ってくれてありがとう」


  さっきもお礼を言ったでしょ、と笑い飛ばそうかと思ったけど、優真が真剣な顔をしているから調子が狂う。


「……そっかそっか。いいよ〜。食べたい時はいつでも言ってね〜。但し、材料がないと作れないからね!」


 昨日は私の作ったやつを買ったものって言ってたのに、なんて心の中で少し拗ねる。


 私が作った所を今日は見てたから知ってるけど、見てなかったらまた買ったやつか出前か分かんないだろうに。


  ……まぁ、本来は買ったものと間違われるくらい美味しいんだなって素直に喜べばいいのにまだ引きずってる私も私だ。








 お風呂にも入り終わり、今日も色々疲れたし、楽しかったし、寝不足だったしと、充実してたな、さて早めに寝ようかとベッドに入って、優真の体重でベッドが軋む。そのお陰で嫌でも今朝のやり取りを思い出す。


「……何、寝ようとしてるの? 紫亜」

 私を見下ろしながら、穏やかに私の名前を呼ぶフィジカル激強女に私は組み敷かれている。

「え、えぇ〜。わ、わわ忘れてないよ〜?」


 そういえばそうだった。優真が私の所に着いて来たのは、セックスする為だった。というかキスマーク付けるって言ってたけどお手柔らかにして貰わないと、本当に月曜日からの衣替えの時に苦労する。


「……電気消す?」

「あれ、珍しい。そんな事、今まで聞いて来なかったじゃん。それに今日は抱きたいの?」


 そこまで言うとちゅっと触れるだけのキスをされる。


  なんか今日の優真はよく分からない。今日はよく話を誤魔化されるし、教えてくれないし。


「キスマーク、付けるって言ったでしょ。それに抱きたい気分なのよ」


 また触れるだけのキス。なんか優真が優しくて本当に調子が狂う。そして、電気も消してくれた。


「なんか、今日私に優しくない〜?? 優真のお母さんに怒られたのが相当効いてるの〜?」

「それもある……けど、」


  あるんだ。優真、結構素直だなぁ〜。


「ねぇ、紫亜ってよくエルと何か食べに行ったりしてるの?」

「してるよ〜。お互い暇な時は休日か放課後に何か食べに行ったりしてるかな。よくお互い食べてるやつを一口交換とかしてるよ〜」


 何故に今、エルちゃんの事を聞いてくるのか、ちょっとよく分からない。


 まぁ、優真にムードを求めても無駄だからなぁ。

 いつもはわりと虚しい気持ちになったりするんだけどな。寝不足で眠いのと、程よく疲れているからそんな気分じゃない事が大きいかもしれない。


「紫亜」

「なに〜」


  パジャマのボタンを外される。まぁ、やるって言ってたしやるか。


「羊毛フェルトとか好きなの?」

「うん。好きだよ〜。可愛く出来上がると凄いうれし〜」


 というか本当になんで抱かれてる最中にこんな事ばかり質問攻めなのか。


「紫亜って家庭科得意だったものね。そりゃ、趣味でもおかしくないか」


 鎖骨辺りに軽くキスされたり舐められたりした後、ちゅっと強く吸われて、優真の唇が離れる。


「なんで質問攻めするの?」

「……紫亜の事が知りたいから」

「え〜。小学校からの付き合いなのに」

「高学年からでしょ。紫亜が転校して来たのは」

「そういえばそうだったね〜。でも、よく話してたでしょ〜」


  まぁ、あの頃は家のゴタゴタで転校ばっかりだったな。あんまり思い出したくないけれど。


「私が一本的に話し掛けてたでしょ。それにあの頃の紫亜って笑わなかったし、今の人懐っこさゼロだった」

「社交性が身に付いたって言って欲しいなぁ〜」

「なんか人間に懐いた猫みたい」

「人間だってば〜。動物には懐かれやすいけど」

「私は嫌われてばっかりだけどね」


 ベッドの中で組み敷かれて、そういう行為をやってるのに何故、昔の話をしているのか。


 その上、着々とキスマーク付けられてるし。


「紫亜」


 柔らかく名前を呼ばられたと思ったら、深いキスをしてくる。啄む様なキスから舌が入って、私の舌を追い掛けられて絡められる。


 私はというと少し息苦しいのと、眠気でなんか頭がふわふわしている。


「紫亜、眠い?」

「うん……。ごめん」


 唇を離して、確認のように軽いキスをされる。


「なんで謝るの。私が悪いのに」


  あ、その自覚はあるんだとぼんやり思う。突っ込む元気は無いけれど。


「ごめん。付き合って、寝ててもいいから」


  その言葉を合図に優真に深いキスをされながら、身体を優しく触られる。


  今日もれーなちゃんの代わりかな、とは思えなかった。


  私にも分からないけど、今日の優真は優しい。どういう心境の変化か知らないけれど、私は何故かそんな優真が心地良くて気持ちいいと感じながら、そのまま意識がシャットダウンされた。







  いつもの時間、午前六時のアラームが鳴る。だけど、まだ眠くて身体が妙にまだ疲れている。


「あ、抱かれてる最中に寝落ちしちゃったんだった」


  腰が……うん。痛いし、ちょっと足も筋肉痛。服はちゃんと着せてくれてるけど。


  寝てても容赦ないな優真。昨日優しいと思ってしまったのは気のせいだったのだろうか。


「まだ寝てなさいよ。日曜日なんだし」


  そう言って、身体を起こした私を強引にベッドに沈ませる優真。……力強い。


「どうせ、まだ疲れてるんでしょ」

「疲れてるけどさ〜」

「じゃあ、良いじゃない。観念して私と一緒に堕落したら?」

「悪い誘いだ〜」


 そう言って私を抱き枕の様に抱きしめられるから、抜け出せない。


「て、あれ? 優真、いつも朝帰ってるのに今日は居るんだ。れーなちゃんとのお散歩はいいの?」


 ナチュラル過ぎて全然気付かなかった。


「今日は行かない。というか散歩というか私は朝走ってから、玲奈の散歩に付き合ってただけよ」

「え、朝、走ってるの?」

「だいたい一時間くらい。その後に玲奈がリリーの散歩に行くからクールダウンも含めて一緒に散歩してただけ」

「へー。そうなんだぁ」


  優真が走るのが日課だなんて全然知らなかった。どうせれーなちゃんに合わせてお散歩してんのかと思ってたから。


「今日はいつ帰るの?」

「もう帰って欲しい?」


 悪戯っ子の様な笑みで私に笑いかける。


「そうじゃないって分かってるクセに〜」

「……夕方くらいには流石に帰ろうかなって思うけど、そこまで居てもいい?」


 おでこを合わされて、そう聞かれる。不意に優真と目が合う。こういうふとした事でもドキッとする。


「……いいよ。夕飯は要らない?」

「要らない。そんなに滞在してたら、図々しいって母さんに怒られそう」

「ふふっ。なにそれ」


  優真の声色が柔らかいせいでなんか勘違いしてしまいそうになる。


「紫亜」


 頬を優しく撫でられて、優しくほっぺにキスされてそのまま唇にキスされる。


 それが心地良くて、なんかまた瞼が重くなってくる。


「疲れてるんだから、寝たら?」

「うん。そうする」


 優真が素直なせいで私も素直に返してしまう。本当は疲れさせたのはそっちでしょ、とか色々苦情を言うつもりだったのに、そのまま寝てしまったので言えなかった。


「紫亜」

「うっ……ん……」

「もう八時」

「え、もう!?」 


 ガバッと起きると、優真が朝から騒がしいと言いたげな表情。


「そうよ。そろそろ起きなさい」

「久しぶりにしっかり寝た気がする。いつも六時に起きてから家事するから」

「そ、良かったわね」


  頭が妙にはっきりしていて睡眠の大切さを学ぶ。


「睡眠って大事なんだね」

「何、当たり前な事を言ってんのよ」

「いたっ」


 軽くデコピンされて、優真はベッドから降りる。

下ろしていたアッシュグレージュの綺麗な髪を軽く払って、髪をといてからいつも通りのハーフアップにしていた。


 ずっと優真のその仕草を眺めてから、私もそろそろ動き出すかと立ち上がった。


  着替えようと、パジャマのボタンを外すと自分の肌が露出して、一時停止する私。


「……優真」

「何?」


 私の言いたい事が分かってるクセに悪戯っ子の様な微笑み。その表情がとっても綺麗で余計に腹が立つ。


「キスマーク付けすぎっー!!!」


 次の日、夏服に衣替えした私は朝、必死に「キスマーク 消し方」と検索しまくって一生懸命消して登校したのだった。

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