気晴らし

 さて、明日の休日。何をしようかと今から悩む。


「うーん。優真の事は心配だしなぁ」


 何か気晴らしついでに強引に何かを誘うのも良いのかもしれない。


 それに行きたい所あるし。そう思ったら、手が勝手に優真に「明日、あそぼー」とメッセージを送っていた。


  しばらくやれる家事を済ませているとスマホが震える。


 家族と優真とエルちゃんだけ通知ありにしてるから他の人はテキトーに見た時に返してる。そういう所が猫っぽいって怒られるんだけど。


「ふむ。どこ行くの? か」


  はっは〜ん。優真のヤツ、行き場所見てから考えるつもりだな。そんなの教えたら絶対に行かないの分かってるから、教えなーい。


「ナイショ♡ で良し」


 そうするとまたスマホが震え、「何それ、とにかく何時に集合なの」と文面でも現実でも私にイラッとしながら一ミリも笑ってないんだろうなと想像して笑う。


「とりま、十時に集合で動きやすい格好して来てね〜、と」


 そう返信してスマホをベッドの方に投げた。これで優真の苦情メッセージ攻撃も効きません〜。

さて、最低限の家事はやったし、私は明日の為の服選びをしよ〜。







  当日、待ち合わせ時間に来た私は中に通気性抜群のTシャツを着て、コントラストカラーのウインドブレーカーとデニムパンツとキャップを被っている。


  そんな私の元に来た優真は軽めのミリタリーテイストのブルゾンジャケットにワイドパンツ。


よしよし、ちゃんと動きやすい格好をして来たみたいだ。


 ⋯⋯でも、まぁ、流石優真。身長あってスタイル良いから、カジュアルめの格好なのにめちゃくちゃ似合ってる。


「で、どこ行くの」

「着いたらのお楽しみ〜」


  そう言って優真に目的地をはぐらかしながら、意気揚々と向かうのだった。


「ここだよ〜」


 そう言って着いたのはスポーツとかカラオケとかボーリングが出来る複合型施設。


  ここなら、優真も思いっきり身体を動かせば少しは気分も晴れるんじゃないかと思って連れてきた。

⋯⋯まぁ、直ぐには無理なのは分かってるんだけどね。


  後、私が個人的に身体動かしたいな〜でも、エルちゃん誘うと、微笑みの貴公子過ぎて、周りの人達が倒れていくから連れて来られないし。


 優真ならフィジカルおばけで何のスポーツも出来るし、二人で遊びに行くならデートだな、なんて自分の願望もどうしても出て来てしまう。今は友達、今は友達……。


  ま、優真も目立つ容姿してるから結構色んな人が見てるんだけどね。普通にエルちゃんと釣り合うくらいの美人だし。


  ただ、エルちゃんみたいに愛想や微笑みで人が倒れないくらいで。


「何、運動したかったの? ここに来るならもっと動きやすい格好して来たのに」

「まあまあ、お遊びなんだからそんなにガチらなくても良いよ〜」


  優真はため息をつきつつも、付き合ってくれるみたいだ。


 さて。私達が来たのは色んなスポーツを遊べる施設、ボーリングとかカラオケとかゲーセンもあるけどそれは別にまた今度でも良いしね。


「よーし、優真! テニスしよう」


 大はしゃぎでテニスコートへ走っていく私。そんな私はまるで犬のよう。


「ちょっと、紫亜、はしゃぎすぎ」

「え〜。良いじゃん。はしゃいだ方が」


  そう言いながら、私はテニスラケットを取って、コートに入り、ブンブン素振りをする。すると優真も同じようにしてテニスラケットを取って、少し素振りする。その姿は私の様な完全な素人の様には見えず、むしろ上手い経験者の様な綺麗なフォームだった。容姿も相まって本当に綺麗。


「むぅ〜。優真って本当にスポーツ、なんでも出来るよね」

「だから、私を誘ったんでしょ」

「そりゃあ、そうだけど〜。じゃあ、とりあえずラリー続くようにしようね〜」


  クルクルとラケットを回して、私のサーブを待つ優真。下手だから、許してねと思いつつもサーブを打つ。


  すると、下手くそが放ったサーブは優真の真反対に行き、優真は素早く動いてそのボールを簡単に捉えて打ち返す。


 流石、優真と言うべきか、そのボールはちゃんと私の居る方向に返す。


「よく取れたね〜」


  そう言いながら、私も返すが、今度は前の方に落ちそうになる。そのボールを素早くバウンドする前に拾って私の方へ返すが、少しボールが逸れて真ん中に、これは多分優真からのお前も動けという圧だと思う。


 私も追い付く事は追い付くが、ベースがテニス初心者の下手くそなので打ち返すので精一杯だ。優真みたいにコースを見て打ち返せない。


 ま、ほぼ頼まれたら仕方ない感じで助っ人してる優真の方がそりゃあ上手いに決まってるのは分かってる。経験者じゃないのにもう既に上手い。というかスポーツ事に自分の身体の使い方が上手いというのだろうか。


 これも小さい頃に色んな格闘技をやらされた時に学んだのだろうか。


 しばらくラリーが続いて、私の体力がジリ貧に無くなっていく。


「も、もう無理⋯⋯」


 ボールに追い付けなくて、そのまま座り込んで、ラリー終わり。


「もう無理なの。体力無さすぎじゃない? 紫亜」

「優真が体力お化けなんだって! 私は普通くらいだよ〜」


  優真が手を貸して私を立ち上がらせてくれたので、そのままテニスラケットを戻す。


  そしてコートから出て、よろよろと自販機に向かって歩いて、スポーツドリンクを買う。すると優真は水を買っていた。


「ぷっはぁ〜! 生き返る〜」

「大袈裟過ぎない?」


  なんて冷たく言い放ちながら、優真も水を飲む。


「優真っていっつも水飲むよね〜」

「ああ。母さんがいつも水はいっぱい飲めって言うから、その癖かも」

「あ〜。元モデルなんだっけ?」

「そ。辞めても職業病なのかつい体型を気にしちゃうんだって」

「へ〜。そりゃあ、難儀だ」


 私はキュッキュッとペットボトルに蓋を閉めて、次の場所へと元気良く向かう。


「バスケだ〜!!」


 次はバスケコートへと向かう。ゴールは一箇所しかないので、攻守交代して狙おうという話になった。


  先行は優真の攻撃、私は上手く優真を妨害しようとするが優真があまりにもバスケ選手顔負けのドリブルやフェイクを使って来るから、防げずにゴールを決められる。その上、優真は遠くからのゴールも決められたり、ダンクシュートしたりと、君、本当にバスケ部じゃないの? というレベルで上手かった。


 次は私が攻撃する番で、近くで狙いたくても優真は身長を上手く使って妨害したり、隙を見て私からボールを奪ったりとクソ上手い。隙を見て、フリースローラインからゴールを狙うもゴールリングに当たり、弾かれる。


  うーん。下手くそ。


「もう〜。優真、上手すぎ」


  私は地味にスリーポイントラインからゴールを狙うのは得意なので、優真から少し離れてシュートをする。


 するとボールは吸い込まれる様に綺麗に弧を描いて入った。


「なんで、紫亜って近くでのゴールは外して、遠くからの方が入るのよ」

「ふっふっふっ。それは中学の時から言われてるし、先生も友達も皆、首を傾げてた」


 実は中学生の頃はバスケ部と家庭科部の掛け持ちで入っていた。優真は運動部の助っ人する日もあるけど、基本帰宅部なので南ちゃんと帰ってたみたいだけど。


 バスケは三年の先輩抜けると人数足らなくなるから入ってって友達に頼まれたからとりあえず入ったし、家庭科部が元々入りたかった部だから掛け持ちでも良いならって入ったんだっけ。


 バスケ部ではスリーポイントだけはちゃんと決めるから秘密兵器とか呼ばれてたな。


  私も至近距離でめちゃくちゃ外すのにスリーポイントだけは外れて元々だし〜って気楽にシュートしてたからなんか入れやすかったんだよねぇ。


「で、次、どこ行くの」


 私がスポーツドリンクを飲んでると、同じく水を飲んで休憩してる優真から聞かれた。


「う〜ん。次はねぇ〜。あそこだよ!」


そう言って私が指を差したのバッティングコーナーだった。


 早速、またはしゃぐ犬のようにバッティングコーナーに着いて、低速一〇〇キロのコーナーでバットを振る。


  バットにボールは当たり、あさっての方向へ飛んでいく。当たった衝撃で私の手はビリビリと痛い。


「むぅ。当たる事は当たるんだけどなぁ〜」


なんてチラッと一四〇キロのプロ級の所で黙々とバットを振ってホームランの所に当てまくっている女⋯⋯優真は周りのギャラリーが「おぉ〜」と感嘆の声を上げている。


「なんでバットコントロールまでバッチリなのさぁ〜」


 優真への鬱憤を晴らすように次に投げられたボールに当てる。そのボールは投げた機械へ当たった。

ぐぬぬ⋯⋯難しい。本当に涼しい顔でバットを振って当てまくってる優真がフィジカルおばけ過ぎる。

私は相変わらず当たる事は当たるがホームランの所まで飛ばずにファールしたり、変な所に飛ぶだけだった。


  バッティングコーナーを後にし、また休憩。


「本当に優真ってスポーツ得意だよねぇ〜」

「まぁ、取り柄がそれくらいよ。紫亜みたいに一人暮らしとか無理。片付けとか苦手だし」

「あ〜。よく優真の机からアコーディオン状の紙出て来てたよね〜。学校からのお知らせも入っててよく優真がお母さんから怒られる〜って言ってたね」

「小学校までの話よ。流石に中学生になったらお知らせくらいは出してたわよ」

「そうだったねぇ。でも、私的には優真は勉強も運動も出来るから羨ましい〜」


 だいたい勉強と運動さえ出来れば結構色んな学校ではスターになれると思うんだけどな。


「そう? 私は理屈は分かっても上手く出来ない家庭科の実習は苦手だから全て得意じゃないけど」


  あ〜。確かに優真は絵とか音楽とかは全然得意なんだけど、家庭科だけは料理や手芸など自分で作るのは苦手らしかった。


「ま、ソレでも出来る事が多いのは才能だと思うけどね〜」

「⋯⋯そ。まぁ、ありがとう」


 次にお昼の時間だと、食べる事が好きな私はまた犬のようにはしゃぎながらフードコートへ向かう。その後を優真は歩いて着いてくるので、少し優真を待つ。


「優真、早く早く〜」

「その異常なテンションの高さは何なのよ……」

「優真、お昼だよ! ご飯の時間なんだよ? 楽しみでしょ!?」

「いや、私は別に……」

「優真はそうかもだけど、私は楽しみなの! 早く選ぼ!」


 食券形式になっていて、私はハンバーガーとポテトのドリンクセットを選ぶ。優真はハンバーガーだけを選び、飲み物は無料の水でいいと選ばなかった。


「運動した後に食べるからおいし〜」

「紫亜って何でも美味しそうに食べるわね」

「え、そう? でも、美味しいよ?」

「……ノーコメント」


 優真は素直過ぎると言うか、本当に味が微妙だと顔に書いている。流石に言ってしまうと普通に営業妨害なので言わないだけで。


 その後に私達は今度は優真の提案でローラスケートをしようとローラーリンクに来た。


「優真、手を、手を絶対離さないでよ!」

「離さないから、やるわよ」


 生まれたての子鹿の様にプルプルと震えながら、少しずつ前に進む私と余裕そうな優真。


  こういう場所に来ても、友達と違う所を遊んでばっかりだったのでローラースケートはやった事がないと言うと、優真は意外そうな顔で「あんたは得意そうだと思ってたから意外。ドヤ顔で滑ってそうなのに」と言われた。


 私はドヤ顔でローラースケートしそうな女に見えるのか……何故。


  ちなみにスケートもやった事がない。やる機会が本当に無かったというのもあるけど。


「紫亜、V字で足踏みして」

「足踏み? 滑らなくてもいいの?」

「初心者なんだから、そういう所からやるのよ。感覚覚えないと出来ないでしょ?」


  なるほど、等と思いながら優真に言われた通りにやってみる。ローラー部分が少しずつ滑っていく、目の前に優真が居るから、派手にバランスを崩せば助けてくれるだろうから、いざとなっても大丈夫な安心感もある。


  ふむふむ。……なるほど。ちょっと楽しいのかもしれない。


 下手くそだから直ぐに滑れないと思っていたが、少しずつだけど滑れてるな、と思う。


 その後に徐々に優真に教えて貰いながら、少しの距離なら滑れる様になった。


「優真〜」

「止まらなくても、受け止めるから早く来なさいよ」


  滑れる様になって嬉しいとニコニコの私に、柔らかな表情で少し先の場所で待っててくれる優真。

  そんな優真に向かって安心して進んでハの字で止まる……が、しっかり止められなかったみたいで優真に抱きとめられる形になってしまった。


  ギュッとしっかり抱き締めて、私がうっかり優真にぶつかった衝撃でコケないように、という気遣いたろうけど、正直私は優真が好きだからドキドキしてしまう。心臓の音が優真に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいバクバクする。


  そんな私に片想いを拗らせた私が囁く、今の私達はまるで恋人同士みたいだ、と。


「……紫亜?」


  一時停止してしまった私を心配してか、優真は私の様子を伺う。


 ダメだ。今日は友人として優真に少しでも気晴らししてもらう為に遊びに誘ったんだろ。


 片想いを拗らせた私で居ちゃ、ダメだ。


「ありがと〜。優真。 ちょっと、自分でも止まれると思ったんだけど、くやし〜!!」


 優真の胸から顔をあげてパッといつもの笑顔で悔しがる。うん。いつもの私に見えるハズ。


「そ。まだ練習する?」

「ううん。楽しかったけど、疲れちゃったから辞める〜。優真は滑りたいなら滑って良いよ。優真は上手いから見てて楽しいし」

「そう? ま、気が済むまで好きに滑ってるわね」


  優真は私を出入口まで送ってくれてから、好きに滑る。


 美しい滑りだと思う。体幹もしっかりしていて、本当にお手本の様な美しい滑り。


  優真は優しいから、見てると言った私に、ちゃんと練習をすれば私でもこのくらいは出来るというお手本を見せてくれている。


「本当にキレー」


  スラッとしたスタイルで今日はポニーテールに纏めているアッシュグレージュの髪色が光に照らされて美しい。上手い滑りと優真の容姿も相まって、他の客もうっとりと優真の事を眺めている。


  浮世絵離れをした美しさ、だと感じてしまう。優真はまるで撮影でもされてるんじゃないかと思うくらいに優雅に綺麗に滑り始めた。


  やっぱり今までは私へのお手本だったのか。


 そう思った所で私は優真を見るのを辞めた。これ以上見ているとまたい片想いを拗らせた方の私が出てくる。これはいけない。私はいつもの私で居ないと、恋をしているままではダメ、だ。


「私は所詮、友達、……なんだから」


 そう自分に言い聞かせながら、私はローラーシューズを脱いだ。

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