第2話 侵入
私はそっと門扉に触れた。門扉はギギィィと音を立てて簡単に開いた。夢と同じだ。私は庭に足を進めた。
庭には雑草が生い茂っていた。地面は見えない。下草の中にツルのような雑草が混じっていて、歩くとそれが私のパンプスに絡みついた。私は一足ごとに足を振って、そのツルを振りほどいた。
そうやって、私はようやく洋館の玄関にたどり着いた。
中に入ると、私の後ろでドアが勝手に閉まった。そこは、玄関ホールだった。驚いたことに、夢で見たのと全く同じ光景が私の眼の前に広がっていた。
高い天井には重厚なシャンデリアが吊り下げられている。壁にはマホガニー材の装飾が施されている。装飾には金箔の縁取りがあって、それが荘厳さを一層引き立てていた。中央には大理石の床が広がり、複雑な幾何学模様が彫り込まれていた。その床の真ん中には豪華な円形のカーペットが敷かれ、その上には机があって、高価そうな大きな花瓶が置いてあった。花瓶の中の花は朽ちて枯れている。ホールの左右には大きなアーチ型の入り口があり、それぞれ奥へと続く廊下や応接室へと繋がっているようだ。正面には二重螺旋の壮大な階段がそびえ立ち、大理石の手すりには金細工の装飾が施されていた。その階段を上がると、二階の回廊へと続き、回廊からはホール全体を見下ろせるようになっている。壁には歴代の館主と思われる肖像画が厳かに掛けられ、その表情が今なお訪問者を見守っているかのようだった。
だが、それらは全て埃に覆われ、蜘蛛の巣の中に鎮座していた。淀んだ空気の中に、埃と
私はホールの中に足を進めた。床にも埃が厚く積もっていて、私のパンプスの立てる音を吸収した。まるで雪の中を歩くように、埃の上に私の足跡ができた。
私は夢と同じように右側のアーチをくぐった。廊下が奥にまっすぐ続いている。
長く伸びた廊下は、まるで時をさかのぼる美術館のようだった。足元には深紅の絨毯が敷き詰められ、その中央を金糸で縁取られた模様が鮮やかに浮いていた。両側の壁には、豪華な額縁に収められた油絵が整然と並び、人物画や風景画が静かに訪れる者を見守っているようだ。壁にはキャンドル型のブラケットライトが等間隔で取り付けられている。廊下に沿って、いくつかのドアがある。ドアノブや壁の装飾には真鍮が使われていた。廊下の高い天井からは、細かな装飾が施された木材の梁が走り、ところどころに設けられたステンドグラスの窓は、この館が賑やかだったころには色とりどりの光で輝いていたであろうと思われた。
しかし、廊下もホールと同様に埃と蜘蛛の巣で・・今では往時の姿を想像することもできない。ステンドグラスの窓は無残に割れていて、そこから明るい午後の光が廊下の中に差し込んでいたが、それが却って、時の流れの無常さを強調しているかのようだった。
私は夢と同じように長い廊下を進んだ。廊下は静寂に包まれていた。歩くたびに、埃をかぶった絨毯の中に私の靴音が吸い込まれていく。
やがて、前方に右に曲がる角が見えてきた。あの、夢でいつも私が悲鳴を上げる角だ。
私は角の手前で立ち止まった。
いよいよ、あの角だ・・
心臓がドキドキと大きく鳴っている音が聞こえてきた。私は生唾を飲み込んだ。
そして・・
私は思い切って角を曲がった。
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