土曜日

 最悪だ。結論から言うと、マウスたちは炎上した。

 まず、彼らの動画が劇的に世間に広まった。それまでは最高だった。しかし、ここからが始まりだった。数日前、僕が映画館に出かける前、彼は通販で物を買ったといった。木曜日だって、お守りのアクセサリーがあると言っていた。彼が買ったそれは指輪であった。あの、物々しい指輪だ。全てのタイミングが噛み合っていなかった。その指輪は思ったより簡単に入手可能だったらしく、マウスはその購入者の一人だった。

 意地の悪い視聴者の一人が、もしかしたら彼らが売れることに嫉妬を覚えた人間が、それを着けていたことを、できるだけ人々が悪印象を持つように拡散した。その結果、マウスはまるで悪魔かのように扱われた。彼が世間のニュースをあまり見ないのも最悪に繋がった。あの「生核会」とやらのニュースを見ていれば彼は外していっただろう。

 彼があれを使用して犯罪を起こすとは思えない。しかし、彼がずっと売れていなかったことで、彼の人間性を知る人間が少なかった。インターネット犯罪や私刑を防ぐために存在するAIは彼への情報に対して、それを使った根拠がないことを示してくれたが、批判する民衆は文章を読まない。

 マウスは顔は見せるが、やはり何かを思い詰めている様子だった。僕は彼に声をかけることができなかった。

 生核会の事件以降、度々あの装置に対するデモが起きるようになった。あの装置は『NEMP』と言うらしい。とにかくそれの廃止と流通の禁止を求めるデモが、全国各地で発生していた。そのデモは当然、僕たちの家の前で起こっている。カーテンは閉め切った。僕も考えた。何が悪かったか。最悪だ。僕は人生最悪の一週間を舐めていた。


 僕はまた思い出した。マウスと初めて出会ったときのことだ。僕は彼に何かを聞いた。そうだ、売れなくて辛くないのか、みたいなことを聞いたんだ。当時の僕はジャズピアノの上達が止まり、演奏に行き詰まっていた。だからこそロックを生きる彼に聞いたんだ。彼が何と答えたのか、覚えていなかった。何と僕が思ったのかも覚えていない。

 もうすぐ夜になる。僕はピアノの蓋を開けようとして、やめた。カーテンから月の光がこぼれ出す。僕は吐きそうになった。夜になると流石に、大多数のデモ参加者が帰る。

 そうか、明日はノワールさんのライブだ。

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