fly me to the moon

宇宙(非公式)

月曜日

 その男、マウスはとてもひどい奴で、僕の友人15人にアンケートを取ったところ、内14人が「マウスはひどい奴」という意見に賛成した。反対した一人はもちろんマウスである。

 マウスは売れないロックバンドのドラムだ。止まない雨は無いが、彼のバンドが売れることは永劫ないだろう。なぜなら僕が毎年の七夕に「マウスが売れませんように」と短冊に書いているからだ。その短冊の隣にはいつもマウスの筆跡で僕がジャズピアニストとして成功しないことを願った短冊がいる。人の不幸を願うとは、なんてひどい奴なんだろう。この悪魔め。

 そんな彼にも実力だけはあり、概ねどんなジャンルだって叩ける。だから彼とは縁を切ろうにも切れないし、どんなに揶揄からかわれても同棲を続け、毎週末はセッションまでしている。


「っしゃあ!耐えた!」

 マウスが叫ぶ。テレビは星座占いの結果を得意げに披露している。どうやらマウスは十一位だったらしい。

「ごめんなさ〜い。十二位は天秤座のあなた。人生最悪の一週間になるかも。

機会を逃さないのが重要です!」

 僕は唐突に絶望を告げられる。公正と正義の天秤座に生まれた僕が、何をしたというんだ。というか何の機会だ。

「おいマフラー、お前最下位らしいぜ。残念だったな、今週は俺のもんだ」

 今まで気にしたこともなかったのに。星座占いとはこんなに人の心を揺さぶるものなのか。

「ラッキーアイテムはスマートウォッチ。レトロな懐かしさがあなたを守るでしょう」

 僕は密かにスマートウォッチの購入を決めた。

「僕は最下位だからまだ話の種になるけどさ、マウスなんか十一位だよ。一番微妙じゃないか」

「人生最悪一週間ボーイに言われたくないね」

「なんてひどいあだ名だ。僕の子供の命名権だけはあげないようにしないと」


 自宅に帰った僕はひとり寂しげに通販サイトを巡っていた。断じてあんな信憑性の低い星座占いなぞ信じているわけではない。ただ僕は、なんとなく、あくまで偶然、スマートウォッチが欲しかったのだ。なんたる運命の力だ。

 ここ数年ツキがなく、もはや運の尽き、運命に突き放されていたと思っていたが、こんな偶然もあるのだから人生は捨てたものじゃない。というか僕の場合、粗大ゴミであるからそう簡単には捨てられない。

 僕がそう思うに至るを説明するには、まず世界で最も美しい女性、ノワールさんと僕の関係について話さなければいけない。


 まず、ノワールさんは世界でいちばん美しい。外見は言わずもがな、人柄もそうだ。これは絶対かつ前提の条件で、普遍的で不変の真理だ。僕は常々教科書にこのことを書くべきだと思っているが、実際のところはそのような記述がない。だから僕は全ての教科書にそれを書き加えるようにしている。

 戯言はさておいて、ノワールさんと僕は幼馴染だ。その幼馴染っぷりは類稀なるもので、なんと小学校から高校、さらには大学まで、つまり今までずっと同じ学校、その上同じクラスなのだ。これだけを聞くとまるで僕とノワールさんは仲が良く、花も恥じらうような美しい関係にあると勘違いするかもしれないが、決してそのようなことはないし、そのようなことは起こり得ない。

 ノワールさんとはあまり話せないし、おそらく僕のことを認識してすらいないだろう。君は、とても心地いい日の晴れた空が、自分を認識していると思うか?いや、そうではない。それと同じだ。

 しかし、僕は恐れ知らずにも、彼女に恋心を抱いている。いつからか、と明確なことはないが、いつの間にか僕は彼女を天使だと思うようになった。これ以上語ると僕がまるで気持ちの悪い人間かに思われてしまう。それに、本当に好きなものは、言語の枠に当てはまらないようにできている。

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