第2章 閻魔法廷
第14話 閻魔法廷、開廷
俺の涙と鼻水は、実際には玲子の母親の目と鼻から流れ出ていた。
この精神が宿主に反映したのか……それとも、もしかしたら……。
……
父親に取り憑いたゲツのほうからも『チクショー!』と叫ぶ声や唸る声が念話で聞こえてきている。
声から察するに、ゲツも泣いているようだ。
ただ、流石と言うべきか、取り憑きをうまくコントロールできているようで、父親の目から涙や鼻水は出ていなかった。
ふとコヤストロンさんのほうを見ると彼女も両手で顔を覆い身を震わせながら座り込んでいる。
ニーナは皆に背を向けて立っていたが、微かに肩が震えているようだ。
玲子だけはコヤストロンさんの後ろから心配そうにこちらを見ていた。
いや……つまり母親の事を心配しているのだろう。
強い子だ。
自分への虐待シーンをあれだけ観ても動じずに母親の事を心配しているのだから……。
玲子以外の他の者たちは打ちひしがれたように何も話さず、それぞれがその場に止まっていた。
「……」
……
罪の調査においては地味な作業もある。
例えば罪を犯すに至った動機や背景まで念入りに調べるといった事だ。
さらにその犯罪思考や性格や人格などが、どのように形成されたのかを知る必要もある。
その為には罪の記録だけでなく日常の記憶も閲覧し、そこから罪に関連した情報を収集しなければならない。
しかし、他人の数十年分の記憶の中から必要な情報だけを短時間で漏れなく
そこでゲツは地獄での訓練で身に付けたもう一つの技も使った。
……
まず、宿主である父親の思考を停止させ、その上で完全には気絶させない状態を維持する。
そして父親に対し意識内において尋問をしていく。
尋問と言っても、父親はゲツの要求には逆らえない。
さも自白剤が効いているかのような状態になり、スラスラと何でも答えてしまうのだ。
こっちは反則技の
おかげで関連する記憶映像もなんなく手に入れる事が出来る。
この技は目的に合った記憶と映像をピンポイントで見つけられる優れモノなのだ。
ちなみに、意識内において父親は酔っぱらいのようにヘロヘロになり言葉が少々おかしくなったので、実際の話し方が「スラスラ」だった訳ではない。
要は聞き取りづらくてキモい……。
けどまぁ、それは我慢するしかなかった。
……
捜査が開始されてから約2時間……。
我々は玲子の母親と父親から、それぞれの罪の記録とそれらに関連する記憶や映像を収集し終えていた。
事の
「彼らは今回たまたま
俺がそう言うと、ゲツもニーナも『当たり前だ』と言わんばかりに力強く頷いてくれた。
コヤストロンさんには閻魔法廷の事を伝えていなかったので『意味不明』って顔をしている。
「な、なんなんですか……その——」
「向こうで説明しますね」
と、コヤストロンさんへの説明を後回しにし、まずは決断を下し呪文を唱えた。
「閻魔法廷回廊!」
その言葉を発するや否や結界の中に異空間への入り口が出現し、我々はその中に呑まれた。
…………
我々にとっての初仕事。
現世の悪人の罪を裁き、その魂に罪と罰を刻む。
いよいよ最初の閻魔法廷を開く時が来たのだ!
その異空間には一つの建物だけが存在し、建物の中には法廷があり、さらに控室やら各種の準備室、そして罪人の留置場や刑罰場など閻魔法廷に必要な設備が全て整っていた。
当然ながらほとんどの場所が暗く、おどろおどろしい闇仕様デザインで統一されている。
実はここに来るのは初めてではない。
地獄での訓練中に一度来ている。
その際この異空間への移動術を習得した。
そして各部屋の使い方や裁判の流れなど、一通りの事をロールプレイで繰り返し練習したのだ。
そう……ここは閻魔女王様が用意してくれた我ら専用の異空間。
他の誰にも邪魔されず裁きに集中できる場所だ。
そして、本番の今日も裁判の準備は滞りなく進んでいる。
ちなみにこの異空間は時の流れも現世とは異なる。
ここでの1日は現世での1秒にも満たない。
つまり現世への影響も最小限にとどめる事ができるのだ。
……
我々は玲子の両親を気絶させた状態でこの異空間に運んだので、建物に入った後は二人を車椅子に乗せて移動した。
まずは施術室に行き、彼らの肉体と魂を分離する必要がある。
閻魔法廷において、罪人を生身の人間のまま取り扱う事が難しいからだ。それに後々、色々と都合が悪くなる……。
要するに閻魔庁や地獄と似た環境、つまり死後の霊魂を取り扱う環境をここに作り出す訳だ。
この仕事はニーナの担当だが、流石に俺の時とは違いここでは魂分離用のベッドを使う。
そこに各肉体を寝かせ魔力を注いで操作をすると、魂を取り出す事ができるのだ。
取り出された魂は、その粒子が元の身体の形を保っているので、外見はほぼ生前の姿のままである。
ただ、まだ意識が無い状態なので先程の車椅子に座らせた。
抜け殻になった肉体のほうは生命維持の処理を施し、ベッドに寝かせたままここで保管しておく。
次に、注射器に似た特別な器具を使い、各霊魂内の罪の記録部位から悪意の素を抽出する。
それを二体のセルフ燃焼型フィギュアへそれぞれ注入すると、自ら炎を噴いて一瞬で焼き上がり鬼の姿へと変化した。
刑罰を担当する鬼である罰鬼が誕生したのである。
例によって罰鬼は元の人間の容姿に似るため、この二体もそれぞれ父親と母親に似ており判別しやすい。
こうして作られた二体の罰鬼は自らの役目を心得ており我らに従順でスグに働き始める。
彼らの最初の仕事は今回担当する各被告としっかりとペアを作る事だ。
被告と言っても閻魔法廷に召喚された時点で既に罪人ではあるのだが……。
ここで、それぞれの罰鬼に簡単な呼び名を付けておく事にした。
父親から作られた罰鬼は『
そして父罰鬼は父親と、母罰鬼は母親と、それぞれの鎖を使ってお互いをしっかりと繋ぎ罰鬼と被告というペアを完成させる。
鎖が繋がったので被告たちを目覚めさせ、法廷に連れて行く。
この際、意識を取り戻したばかりの被告たちはまだ朦朧としていて普通に歩けない為、車椅子に乗せたまま運ぶ。
法廷に入った後は、各罰鬼が被告たちを車椅子ごと定位置に整列させる。
罰鬼たちはそのまま車椅子の傍に控え、刑務官のような役割も担う。
この辺りで被告たちの意識が完全に戻ってくるのだが、彼らにはまだ何の説明も行っていないので、自分たちの身に何が起こったのか全く理解できないでいるだろう。
そこへ我らが入廷する。
「「 全員起立! 」」
二体の罰鬼が同時に声を発し被告たちを起立させた。
法廷の空気が一気に緊張する。
ニーナ、ゲツ、俺の三人は裁判官席へ着席した。
ニーナはいつもと同じ黒いローブにフードを被った死神面姿。
俺は黒の和装、ゲツは白の和装という出立。
ちなみに俺とゲツは閻魔女王から贈られた閻魔面——
これは我らの素顔を被告に明かさない為であり、さらに被告を威圧する意図も含んでいた。
……
罪人である父親と母親は相当怯えているようで、キョロキョロと辺りを見てブルブルと震えている。
まぁこの裁判の目的上、怖がらせる演出も大事なので仕方がない。
とりあえず効果があったようだ。
今回コヤストロンさんと玲子には密かに傍聴席に座ってもらっている。
二人には現世にいた時と同じように人には見えない状態をキープするようお願いし、その存在を両親から隠した。
無論、声も隠密モードにしてもらい我らと話す際は念話を使う事にしてある。
これで準備完了だ。
俺は重々しい口調で宣言した。
「コレより閻魔法廷を開廷する!」
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