第13話 玲子の最期
玲子の両親が向かった先は海だった。
国道から出て間もなく埠頭の倉庫群へと車が入っていく。
暫くして良いところが見つかったようで、とある岸壁沿いに車が停まった。
すかさず、予め決めておいた分担で二人に取り
俺は母親に。そしてゲツは父親に。
一方ニーナは
両親と車の存在をこの場から隠し、人目につかないようにする為だ。
ゲツはもちろんの事、こちらも取り憑きに成功し母親のほうの思考を停止させた。
お、おぉ〜!
初めての実戦だけど各ステップを難なくこなせている!
ま、まぁ……短期間とは言え、地獄では真面目に特訓を受けたからな……。
実はこの計画を立てる際、どの時点で二人に取り憑くべきか少しだけ迷った。
死体を遺棄する行為を見届けてからにするか、さらにその後の隠蔽工作を見届けてからにするのか……。
慌てて取り憑いてしまうと、本来行われるハズの悪行を我らが未然に止めてしまう事になるのでは……などの懸念もあった。
しかし、それらの迷いは直ぐに吹き飛ぶ。
『玲子にそんな残酷なシーンを見せたく無い!』——それが皆の総意だった。
もう玲子は十分苦しんだんだ。
「目的地に着いたらスグ両親への取り憑きを開始する事にしよう」
その考えにゲツもニーナも即座に同意してくれ、決行に至ったという訳だ。
罪の記録領域にはこれまでに犯した罪の事……特に玲子に対してどんな虐待が行われたのか、といった事がキッチリと残っているハズ……。
ある意味、超チート級の犯罪捜査だな、コレ……。
……
まずは母親の罪を明らかにしていく。
彼女が玲子に対して行っていた行為は育児拒否だった。
母親はある時期から急激に無気力になり、玲子の育児を放棄するようになった。
未就学児という事で幼稚園にも通わせず外にも出さなくなる。
そして父親が玲子に対して行う虐待についても見て見ぬふりをしたのだ。
さらに玲子が父親からの暴力で怪我をしても、ただ普通に転んで怪我をしたりしても手当てなどせずに放置した。
食事も用意しない。
玲子は両親の食べ残しなど自ら食糧になるものを家の中で漁り、生きていた。
それらの光景を観るたびに『クソッ、なんでそうなるんだよ! 母親だろー!? 畜生が!!』などと何度も叫んだ。
母親に対する怒りが溢れ出る中、すでに終わってしまった事柄に対して何も出来ない無力感がジワジワと沸いてくる。
しかし、母親の記憶の中で時折
コ、コノ……クソオヤジガ〜〜〜!!!
母親のボディーは静かに立ったまま硬直し、握りしめられた拳と共にその両腕だけが
……
実は、本来であれば母親と父親の調査はそれぞれ同時平行で行うべき事だ。
その方が時間節約にもなる。
しかし今回は初仕事という事もあり、特に俺にとっての初本番という事で、その取り憑きっぷりを見守ってくれる事となった。
だから調査も一人ずつ順番に進める事になったのだ。
ただしゲツは、調査状況をリアルタイムに皆でシェアする為の新しい技術を披露してくれた。
それは、映像伝達可能な念話チャンネルを通じて皆をつなぐ技術。
それにより、俺が閲覧中の記憶映像でさえも各人の頭の中で同時に観る事ができるようになったのだ。
新手のエンジニア兼、動画配信者の誕生だ……。
……
ただ、玲子にとってこれらの映像は辛い思い出でしかないという事に気が付き、一度閲覧を止めて玲子に尋ねた。
「玲子、これ観るの辛くない?」
しかし、玲子は首を振りこちらをジッと見つめてきた。
「だ、大丈夫なの? 続けていいの?」
そう訊くと、玲子はコクッと頷きまた目で訴えかけてきた。
これは、ただの子供の好奇心などではない。
真剣な覚悟だ。
そう感じたから、玲子にもそれらの映像を観せようと決めたのである。
…………
母親への調査が終わり、親父の番になった。
取り憑いたゲツが閲覧を開始し、皆への動画配信をスタートする。
それにしても……
この映像は観るに耐えられないものだった。
日に日にエスカレートしていく御仕置きの場面が繰り返し映っていたのだ。
映像を少し観始めた段階ですぐに怒りが頂点に達したのだが、途中で吐きそうになり、もう観るのを止めたくなった。
しかし、公正な裁判の為には全てを知る必要がある……。
チクショーが!
結局、仕事だと割り切り何とか最後まで観終えた。
……
……このクソ親父の所業は死んでも償えないだろう。
奴が玲子に行っていたのは、端的に言えば
父親は職場で問題を抱えていた。 人間関係がうまく行かず、さらに部署移動が追い打ちをかけストレスがピークに達した頃からソレは始まる。
最初は玲子に対する短い説教くらいであった。
しかし、それが回を追う毎にエスカレートしていき、手も出るようになって行く。
このクソ親父、最初は玲子の肌が露出する部位を避けて痕が残らないような工夫をしていたようだ。
また一方で奴は妻に対して……つまり玲子の母親に対しても暴力を振るっていた。
これは俺が閲覧した母親側の記憶と合致する。
日常の生活の中で妻の行動や態度にイチャモンをつけては暴行を加えていたのだ。
母親は被害者でもあった……。
……
父親も母親も虐待の加害者なのだが、父親と母親で対照的だったのは虐待の際の表情が全く正反対だった事である。
母が無気力無表情だったのに対して、父親の方は虐待を繰り返すうちに態度が変わっていった。
虐待の最中から口元が緩み、引き攣った笑みを浮かべるようになっていく。
そして終わってから暫くのあいだ悦に入った表情になり、その後満足げな笑みをうかべて立ち去っていくのだ。
……
さらに異常な行動も取り始める。
拷問に関する書籍を買い漁り、その中に紹介されている拷問を試したり、時には拷問器具を自作したり……。
その内、拷問官の格好まで真似し始めた。
中でも奴が気に入っていたのは、顔にマスクをつけ白衣をまとったドクターまがいのスタイルだ。
狂ったドクター拷問官……。
勿論、拷問と言っても本格的なモノではない。
あくまでもマネごとで、主に玲子をイジメて怖がらせたり、嫌がる態度を楽しんでいた。
それでも最初の頃は少しは罪悪感を感じていたようだ。
しかし、徐々にそう言った気持ちも無くなって行き、普段から
いつの間にか母親の顔も父親の顔もそれぞれ異なる種類の鬼と言えそうな形相に変化してきている。
これらの映像を観ている間、心の中は嫌悪や怒りの感情でずっと煮えたぎったままだったが、同時に底知れぬ恐怖も感じ身震いした。
……
父親はその後、次第に酒に溺れる事も増えていく。
酔った上での暴行時には、世間体や事後の事などを気にかける様子が減って行った。
そしてとうとう玲子に最期の時が訪れる……。
ある日、いつにも増して泥酔していた父親は手が震え、拷問が思ったようにできなかった。
そして、それに腹を立てて玲子にあたり……虐待がエスカレートし…………拳を握って……玲子……の…………かおを……なぐる…………。
「……ハァ、ハァ……」
そのいきおいで、れいこ、……うしろに、ふっとび…………。コーヒーテーブル……、カドに、……こうとうぶ……、ぶつけ、…………それで…………………………。
「……ぅぐ……………………」
……俺の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた……。
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