予兆

 グラスがアルテの弟子になってから、もうすぐひと月が経つ。

 近頃のアルテには、どうも気がかりでならないことがあった。


 最近のグラスは、根を詰めすぎているような気がするのだ。彼女が熱心なのはいつものことだが、最近はそれが少し行き過ぎているように見える。


 夜通し文献を読んだり、来る日も来る日も実験に明け暮れたり。以前、アルテに対しては“生活習慣の乱れは身体の不調のもと”というようなことを言ったにも関わらず。


 師匠としては、人のことを心配する前にもう少し自分のことを気にかけてほしいと思うのだ。


 彼女がそうなってしまった原因には、アルテも心当たりがあった。——グラスは今も、毒物しか作れないのだ。


 それだけではない。彼女の手から生まれる錬成物の毒性は、以前よりもずっと強いのだ。


 時折、地下室の換気が必要になってしまうこともあるほどに。


 無論、それで焦る気持ちもよく分かる。だがアルテとしては、少し前まで楽しそうに錬金術を学んでいた彼女の瞳が、次第に焦りと不安の色に侵されていくさまは、見ているだけでも苦しいものだ。


 だから彼女はどうにかして、グラスに休息を取らせようとした。あの手この手を尽くして、大切な弟子の心労を少しでも軽くしてやろうと——努力は、したのだが。


 彼女の大好きなパンケーキを作ってあげても、ピクニックに誘ってみても、たまには遠出して大きな街で買い物をしてみないかと言ってみても。


 グラスはやはり、錬金術から離れようとはしなかった。


 それが、本人が楽しんでやっていることならまだ良い。けれど今の彼女は、とてもそんな風には見えなかったのだ。


 そうして、そんなある日。


 とうとう、アルテの懸念していたことが現実のものとなってしまう日がやってきた——グラスが、倒れてしまったのである。





 弟子の部屋の戸をノックしてから、アルテは中に入る。手にしているのは薬の瓶、それから氷水とタオルの入った桶。


 ベッドに横たわるグラスの隣の椅子に腰かけると、桶に入ったタオルを絞り、汗の滲む額に乗せてやる。


「具合、どう?」

 そんなことを聞いたところで、彼女が何と返すかなど、アルテには分かっていた。


 けれど、それでも聞いてやることによって、向こうにも伝わるはずだ。あなたを心配している、という気持ちが。


「だ、大丈夫、です……!」

 グラスの返答は、アルテの予想通りだった。大丈夫ではなくても、彼女は大丈夫だと言ってしまう子なのだ。


 もちろん、そんなことないのは目に見えていた。雪のように白いはずの頬は真っ赤になっているし、呼吸も荒く乱れている。


 その手は触れれば驚くほどに熱い。これほどの高熱で動くことだってできないのに、大丈夫なはずがないのだ。


 それなのに、無理して平気なふりをしようとしてしまう弟子に、少し呆れつつ微笑みを浮かべるアルテ。


「もう。大丈夫なわけ、ないでしょ? そんなに辛そうなのに。何かほしいものがあったら、何でも言ってね」


「お、お師匠様……」

 アルテの言葉に、グラスの瞳が潤む。

 それから彼女は、少し迷うような様子を見せながらもこう言った。


「でしたら……机の上に置いてあります、あの本を取っていただきたいです」

「本?」


 アルテは振り返り、グラスの机の上を見る。

 そこに置かれていたのは、分厚い一冊の本だった。その題はここからではよく見えないが、背表紙に“錬金術”の文字があるのはなんとなく分かる。


 確かに、今のグラスが読みたがりそうな本だ。だが、アルテはそれを取ってはやらなかった。


「ふふっ、だめよ。今はああいう難しいことは、考えないで休んで」

「で、ですが……」


 グラスは口をぱくぱくと動かし、反論の台詞を紡ごうとしている。だが熱い頭では考えもまとまらないのか、その口から実際に何らかの言葉が出てくることはついぞなかった。


「……うぅっ」

 残念そうな、弱々しい声が代わりに漏れる。


「で、では、錬金術のお話をしてくださいませんか? 私、こんなでもちゃんと聞きますから……」

「だーめ。今はゆっくり寝てなさい?」


「ううっ……! で、ですがお師匠様、先ほど“ほしいものがあったら何でも”って……」


 一瞬、駄々っ子のようなことを言うグラスだったが、いくら言ってもアルテの返答が変わらないのを悟ったのだろうか。そこで大人しく引き下がる。


 体調を崩しているにも関わらず、彼女がここまでも錬金術の勉強をしたがるのはやはり、焦りや不安が胸の裡にあるからだろう。


 錬金術が楽しいからそういった言動をとるのであれば、微笑ましいものだ。けれど今のグラスの場合は、大方そうではないだろう。


 確かに、一度克服したにも関わらず、また毒物しか作れなくなってしまったのは実に不思議だし、不安になる気持ちも分かる。


 けれどそれにしてもどこか、何かに駆り立てられているような感じがするのはアルテの思い過ごしだろうか?


 アルテは思う。一度克服できたのだから、また根気よく頑張っていけばいつかは必ずこの問題も解決できるだろう。そんなに焦ることではない。


 そう伝えたいし、それに彼女の心の奥底にある、彼女を駆り立てているものの正体にも触れたい。一度、このことについてちゃんと話してみる必要がありそうだ。


 けれど今は、とてもそんな状況ではないだろう。今はグラスを休ませるのが先決だ。


 元気になるまでは、彼女を悩ませる原因となっている錬金術に関する話題には、できる限り触れさせたくない。


 不本意ではあるが、ここで一旦錬金術から離れ、気持ちをリフレッシュさせてくれたら——というのが、アルテの思惑だった。


「はい。お薬よ、グラス」

「あ、す、すみません……」


 手に持っていた薬瓶をアルテが手渡すと、グラスはぺこりと小さく会釈し、なぜか「いただきます」と食べ物を貰ったときのように言ってから、瓶を傾ける。


「あら、まるでジュースのように甘いです……」

「えっ、ほんと? 飲みやすくなるように少し味付けはしたけど、そんなに甘くなるようなものは入れてないはずなのに……」


「はい、何か甘いお味のするものを入れてくださったのですか?」

「あら、そうなのですか? ではどうしてこんなに甘いのでしょう、ついついたくさん飲みたくなってしまいます……」


 その甘さのおかげか、グラスの顔色は心なしか少しずつ良くなっていく。


 それは良いのだが、どうして甘い味のするものをほとんど入れていないにも関わらず、こんなに甘くなったのだろう。


 考えるアルテの脳裏に、ふと昔読んだ文献の内容が蘇る。


「ふふっ。もしかしたら、グラスのことを思って作ったからかも?」

「えっ? わ、私のことを思って……ですか?」

「うん。グラスが早く元気になれますようにって、いっぱい気持ちを込めながら作ったんだ」


「そっ、そう、なのですか……⁉」

 目を見張り、薬の瓶とアルテの顔を交互にまじまじと見るグラス。その表情の可愛らしさに、アルテは思わずくすっと笑ってしまう。


「そうよ。だからそんなに甘くなったのかも」

「そ、それはとても嬉しいのですが……どうしてお師匠様が私のことを思って作ってくださると、甘いお味になるのですか?」


 照れと驚きを半分ずつ宿したような表情で尋ねるグラスに、アルテは文献の内容をかいつまんで説明する。


「錬金術ってとっても不思議でね、錬成物の性質が作った人の心の影響を受けて変わることがあるの」

「そう、なのですか? そ、それは確かに不思議です……」


「でしょ。だからそのお薬も、わたしがいっぱい気持ちを込めて作った分、とっても甘くなっちゃったのかも……なんて」


 少し冗談っぽく、アルテは言った。だが実際、彼女の想いが薬の味に影響を及ぼしたのは間違いないだろう。


 錬成物の性質と術師の心情の関係について、真剣に研究する者がいるくらいには、こういったことは錬金術師たちの中では知られた現象なのだ。


「お、お師匠、様……」

 もとから熱で赤かったはずのグラスの頬が、心なしかさらに赤くなっていく。


「で、ではこれがお師匠様のお気持ちの……あ、愛情の、お味? え、えへへ……何だか、飲んでしまうのがもったいないような気が……」


 妙な笑みを浮かべながら、残りの薬を飲んでいくグラス。薬を口に入れるペースは、先程と比べて随分ゆっくりになった。


 少しずつ飲み進め、瓶が空になると、グラスは少し名残惜しそうにしながらも、笑顔で瓶をアルテに返す。


「ごちそうさまでした! お師匠様のお薬のおかげで、すっかり元気になった気がします!」

「あはは……そんなにすぐ効いてくるわけないでしょ? ほら、起き上がろうとしないの。ちゃんと寝てなさい?」


 確かに、態度だけなら見違えるぐらいに元気そうになった。


 けれど、さすがに体までよくなったわけではないだろう。アルテはベッドから体を起こそうとするグラスの肩を、優しくベッドへと押し戻す。


「で、ですが、もう体の重みもすっかり軽くなりましたし、呼吸も楽になって、頭痛も引いて……私、もう本当に元気なんです! ですからお師匠様、私、あちらにある本が……」


「もう、ダメよ。まだ熱は下がってないでしょ?」

「で、ですが……げほっ、ごほっ!」

「グラス!? だ、大丈夫?」


 言葉の途中で、ふいに激しく咳き込み始めるグラス。彼女の背中を、アルテは慌てて擦る。


「ほら、まだ治ってないでしょ?」

「けほっ、けほっ……こ、これぐらい、何てこと……」

「お喋りはいいから、ゆっくり息して」


 それから程なくして、グラスの咳は収まった。

「苦しかったね、大丈夫?」


 彼女の背中を撫でつつ、アルテはそっと水の入ったコップを渡してやる。

「す、すみません……」


 喉を潤すと、グラスはまだ少し枯れた声で言った。


「うぅ、気持ちだけはもう元気ですのに……」

 心と身体の調子が全くの真逆であることを悲しむ彼女の頭を、アルテは優しく撫でる。


「早く元気になるには、よく寝ること。それから、ご飯をちゃんと食べることね」

 お昼ご飯、作ってくるね。そう言ってグラスに微笑みかけ、アルテは部屋を一度後にした。




 それから、十数分後。


「はい、あーん」

「あ、あーん……むぐっ、はぅっ! あ、熱いれす……」


「あっ、だ、大丈夫? ごめんね、お粥もっと冷ましてから持って来ればよかったね……」

「い、いえ……あったかいお料理は、出来立てが一番おいしいですもの!」


 口を手で覆ってハフハフしながら、グラスは笑顔を作ってそう言う。

 気遣いに溢れたその言葉に申し訳無さを抱きつつ、、アルテは「ごめんね」と彼女の頭を撫でた。


「あ、あの、もう一口、いただいても……?」

「もうお口の中、平気? 火傷しちゃってない?」

「はいっ、お水も飲みましたし、ばっちりです!」

「ほんと? 大丈夫かな……」


 アルテは、今度は念入りにお粥をふーふーと冷ましてからグラスの口元にスプーンを持っていく。


「じゃあ、はい、あーん」

「はむっ……あ、あったかくて……とってもおいしいです……!」


「ほ、ほんと? やっぱりまだ熱かったんじゃ……」

 グラスは喜んでいるようだが、やはり舌をやけどしないか心配になってくるアルテだった。


「ごくんっ……はー、熱々で幸せです……。すみませんお師匠様、わざわざこんな風に食べさせていただくなんて……私が動けないばっかりに」


 と、申し訳なさそうに言うグラスだったが、その表情はまんざらでもなさそうだ。子供のように食べさせてもらえるのが、嬉しいのだろうか。


 確かに、ある程度の年齢になれば誰かに食事を食べさせてもらうということはなかなかできなくなるものだ。嬉しい気持ちも分からなくはない。


 けれど、その表情と台詞の乖離ぶりを見ていると、アルテはついつい魔が差してしまって。


「いいのよ。でもグラスったら、今日はなんだか甘えん坊の赤ちゃんみたいね」


「……! ご、ごめんなさい、そうですよね……」

 少しからかっただけのつもりだったアルテだが、グラスは思いの外真に受けてしまったようだった。


「すみません、自分で食べます……」

 そう言って、彼女はアルテの持つスプーンを受け取ろうとする。


「あっ、い、いいのよ! ごめんね、冗談だから。こういうときぐらい、甘えたっていいのよ。ね?」

「……!」


 アルテが告げると、グラスの表情はたちまち明るくなる。実に分かりやすい反応で、アルテは思わず笑いそうになってしまう。


「もちろん、こういうときだけじゃなくてもわたしはいいんだけど」

「えっ……? そ、それは本当ですか……⁉」

「えっ? う、うん、もちろん」


 あまりにもグラスが食い気味に聞いてきたので、アルテは驚いて手に持っていた皿を落としそうになりつつ、頷く。


「な、何てお優しいのでしょう、お師匠様……!」

 瞳をうるうると滲ませて言うグラスに、アルテはそっと微笑んだ。


「ふふっ。グラスは良い子ね」

 そう言って、弟子の頭をそっと撫でる。子供に愛情を注ぐ母のように。


 やはり、病気のときぐらいは思う存分甘えてほしいものだ。もちろん、そうでないときでも構わないのだが。


「……お師匠様」

 ふいに、幸せそうな少女の声がアルテを呼ぶ。

「なぁに、グラス?」


「お師匠様は、どうしていつもそんなに私に優しくしてくださるのですか?」

「えっ?」


 ふいに投げかけられたその問いに、アルテは思わず己の耳を疑ってしまう。


 けれど、目の前の少女のいやに真剣な様子で、その台詞が冗談などではなく本気であることを悟る。


「もう、そんなの決まってるでしょ」

 陽だまりのような温かい笑みを浮かべ、アルテは答えた。


「あなたが大切だからよ。大切な人に優しくすることに、それ以上の理由なんてないでしょ?」


「大切? ……私が?」

「うん。あなたは、わたしの家族みたいなものだもの」


 そう言って、アルテはグラスの髪を優しく指で梳く。絹糸を触っているのかと錯覚するような滑らかな手触りだった。


「家族……?」

 アルテの言った言葉を、グラスはぽつりと繰り返す。


 それから、噛みしめるようにもう一度言った。

「……家族」

 なんだか嬉しそうな、切なそうな声で。


 その表情は、以前もどこかで見たことがあったような気がした。


 それは確か——そう、初めて彼女と夕飯を囲んだときだったか。


 それと、彼女と森で採集の後にピクニックをしたとき。それからつい先日、一緒にお風呂に入ったときにも。

 




 部屋の中にこだましていた苦しげな吐息は、いつの間にか穏やかな寝息に変わっていた。


 薬も、そろそろ効いてきた頃だろう。頬の赤みもだいぶ引いてきているし、目覚める頃にはきっとかなり楽になっているはずだ。


 少しずつよくなっていく弟子を前に安堵を覚えつつ、アルテは水がぬるくなってきている桶の中の水を替えるために立ち上がる。


 そして、ふと思い出す。先ほど、グラスが取ってほしがっていた机の上の本のことを。


 机の上にはその本だけでなく、いくつか別の本も並べられている。そういえばアルテは、グラスがどんな本を読むのかよく知らない。


 自然と、脚が机の方へと向かう。自分の弟子がどんな本を好むのか、とても興味が湧いてきて。


 まず、机の上に置いてあった本の表紙を見て彼女は思い出した。


 これは地下室に置いていた蔵書の一つだ。地下室の本は自由に持ち出していいとグラスに言っているので、これも彼女がここに持ち込んで読んでいたのだろう。


 この本の内容は確か、錬金術師の魔力性質の偏りと、錬成物の特性の関係性についてのものだったはず。確かに、今のグラスが必要としていそうな情報だ。


 かなり専門的な内容で、初心者には少し難しいはずだ。けれどそれでも頑張って読み進めているらしく、中間地点あたりに栞が挟んである。


 思えばアルテも昔、母の部屋にあった本をよく分からないなりに一生懸命読み解こうとしていたものだ。それを思い出して、なんだか微笑ましい気持ちになった。


 続いて、アルテの視線は机に据え付けられた小さな本棚に移る。こちらにあるのはグラスの私物なのだろう、どれもアルテの見たことのない本だ。


 歴史、数学、生物学、文学等、様々な分野の本が同じ棚の上に並んでいる。そして、並んでいる本はどれも、題からして専門的なものであるらしい。


 錬金術師は術書の解読のために様々な分野の学問を広く浅く学ぶものだが、この本棚に並ぶ本から察するに、グラスの知識は錬金術師に必要なだけの範囲を大幅に超えているとみられる。


 道理で、彼女は錬金術書も最初から一人で読み解けたわけだ。


 弟子の知らなかった一面に感心しつつも、アルテは本来の目的であったはずの、水の交換のことを思い出す。


 今度こそ部屋を出ようと思ったアルテだったが、去り際に見えたが、なんとなく気になってしまって。それが、彼女をその場に引き留めた。


 本棚の一番端っこに乱暴に押し込まれていたそれは、一見すると紙束のように見える。


 几帳面なグラスが、こんなにも乱雑な置き方をするのも珍しい。こんなふうにしてあるのにも、何かわけがあるのだろうか。


 この紙束が何なのか気になるが、他人の机の上にあるものを勝手に触るのはあまりいただけない。


 好奇心を振り払い、机の上に置いていた桶を手に取って、今度こそ部屋を出ていこうとした——そのとき。


 バサバサッ。そんな音と共に、先ほどまで本棚に押し込まれていたはずの紙束がなんの前触れもなく机の上に散らばった。入れ方が乱暴なせいで、バランスを崩してしまったのだろうか。


「……封筒?」

 紙束だと思っていたそれは、どうやらただの紙ではなく、封筒の束だったようだ。


 それに気づくのとほぼ同時に、鮮やかな深い青の封蝋が目に飛び込んできた。


 雪の結晶をかたどった、繊細な紋章の封蝋。思わずじっと見つめてしまうぐらいに、それは美しかった。


 それをとんとんと整えて元の場所に戻してから、元あった状態を思い出したアルテは、あえてそれの置き方を少し乱して、その場を去ったのだった。



  ◇



 薬と休息の甲斐あってか、翌日になるとグラスの体調はかなり良くなっていた。


 微熱程度まで熱が下がった彼女は、動けるようになったのをいいことにさっそく錬金術の勉強を再開し始めた。


 アルテが止めてもあまり意味はなかった。だって、もう自分で動けるのだから。


 アルテとしては、まだ万全の状態ではない以上、休んでいてほしいと思うのだが。


 それにやはり今のグラスは前とは違い、錬金術をやっていてもあまり楽しくなさそうなのが気がかりだ。


 まるで何かに駆り立てられ、憑りつかれたように部屋に籠もって本を読みふけったり。


 彼女にに取り憑き、駆り立てているものの正体は一体何だろう。


 何か悩んでいることがあるのか。そう尋ねても、「大丈夫です」の一点張りで。


 やはり一度、腹を割って話せる機会を設けるべきなのだろうか。このままでは、とても良くないことが起こりそうな気がするのだ。


 どうしてかは分からないが、なんとなく。


 どうしてあげるのが、彼女にとって一番なのか。それだけが、アルテの頭の中をずっとぐるぐると回っていた。


 まさに、そんな日の晩だったのだ。

 ずっと懸念していた、“良くないこと”が起こったのは。

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