甘え
清明
第1話
「めちゃくちゃ甘えてぇ〜」
佐々木が何か変な事を言い出したが、相手にすると面倒な事になるので無視する事にした。
「……めちゃくちゃ甘えてぇ〜」
私の反応を見ながら佐々木がもう一度同じ事を言う。
無視一択。
「……甘え……たくて……」
無視。
「すみませんでした」
そこでチラリと佐々木を見る。
ちゃんと反省しているようだ。
「はぁ……どうした?」
私も甘い。
「いや、まぁ、もう終電間近なわけじゃん?」
「まあな」
カチャカチャとキーボードを叩く音が響く。
「そんな日々がもう1ヶ月続くわけじゃん?」
「そうだな」
モニターに次々と表示されていく文字を目で追いながら返事をする。
「辛いじゃん?」
「うん」
机には栄養ドリンクの空き瓶が片付けられずに並んでいる。
佐々木の机にも、私の机にも。
「癒しが欲しいと思いませんか?」
「思うよ」
ぬいぐるみも並んでいる。
佐々木の机にはフィギュアが並んでいる。
「こう……柔らかさとか、温もりとか、その、フフッ……」
「笑うなキモい」
「はい」
しばらく無言でキーボードを叩く音が響く。
「いや、あの、誰でもいいと言うわけでは無いねん」
「なんで急に関西弁」
「この辛さを分かち合える相手とさ、ほら、その……」
「なんで辛いのにお前を一方的に甘やかさなきゃならんのや」
「なんで急に関西弁」
またしばらく無言でカチャカチャという音が響く。
「よし、これでOK。じゃあ悪いけど先に上がるわ」
「え、え、え、ちょっと待って待って。マジで待って。俺を置いていかないで」
佐々木が焦っている。
「お前まだこのタスク終わってないじゃん。朝までコースか?」
「いやまじでごめん、ホントごめんだけど助けて。いやマジでマジで」
「甘えんなカスが」
「甘えさせてヨォ〜」
「お前の尻拭いで私が残業しているわけだが?」
「すみませんでした」
「じゃ、お疲れ様でした〜」
「おっと待ちなぁ!フフフ……まだ誰にも言っていないが、実はもう一個爆弾を抱えている」
「は?」
「これ」
佐々木がモニターを私の方に向ける。
しばらく無言で表示されている文字を読む。
じわじわと、背筋が凍えていく。
その意味を完全に理解した時、私は怒鳴っていた。
「お前!何してんの!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「甘えってそういう事か!?ふざけんなよカス!」
「すみませんごめんなさい申し訳ないなんでもします助けて」
「はぁー……」
ため息しか出ない。
朝までコースかぁ。
「焼肉と寿司と酒とあと、あと、ああもぅ!」
椅子に座り直し、ノートPCを開く。
「カス!クズ!とりあえず温かい飲み物買ってこい!お前の奢りな!コーンポタージュ!」
「へい!精一杯奢らせていただきます!あ、ついでにお菓子も買ってきましょうか?」
「買ってこい!しょっぱいのと甘いのな!」
「YES!行ってきます!」
ああ、本当に私は甘い。
佐々木が買い出しに行って一人残されたオフィスでカチャカチャ音が響く。
ふと、以前佐々木に貰ったチョコレートがあるのを思い出した。
なんだっけ、集中するのにちょうどいいとか。
引き出しを開け、チョコレートを取り出す。
包みを剥いで一欠片を口に含む。
「……苦い」
カカオ99%だった。
甘え 清明 @kiyoaki2024
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