意図していなかったら申し訳ないのですが、この物語は二通りの読み方があるように感じました。
まずエンタメ的に丁寧に書かれたラブコメとしての読み方。付かず離れずの職場の同僚というムズムズする男女の距離感を幸せに楽しむ読み方です。この読みも素直に楽しいものです。
もう一つ文学っぽく個人間の感情のずれを楽しむ読み方もできました。主人公の内的な感情の描写のみで先輩の深いところはわらかないままなのが良いです。強い好意を突然目の前にしてもちろん嬉しさもあるだろうけど、もっと多くの複雑な感情を抱き言葉が出ない先輩。一方で実に直線的で人間らしい内的混乱をまったく持たず、察せずの主人公。この好意のずれに不安を感じながら読むのもおもしろいです。
おそらく主人公、先輩、両者の容姿や年齢などの情報、どの程度仕事上の関わりがあるのか等のこれまでの関係の深さが書かれていないので読み方に想像する余地が生まれていて、私はそこがすごくおもしろく感じました。
おすすめです。